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ナギ記  作者: 竜顔
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発見される

 装備を渡してもらった次の日。


 余計なことを聞かなければよかったかなぁ…。


 そんなことを考えながら街を歩く。「ベリーワーカーズ」の二人の話を聞かなければ特に何も気にしなかったんだけど聞いてしまうと気になって仕方ない。


 「Berry Workers」を出る際、作業場の人達から見られるかもと思うと気が気でなくお尻に手を当てて隠しつつ出ていこうとした。その時たまたますれ違ったブラックベリーさんから


「手を当ててる方が余計に目立つと思うよ」


 と言われてしまった。初対面の第一声がそれというのはなんか複雑だけど、恥ずかしいことこの上ない私はそんな余裕もなく顔を真っ赤にしたのだった。


 それから人目につかないところで狩りをして心を落ち着かせた。


 人に頼めば他の装備を作ってもらえるだろう。しかし冷静に考えてみればバニーガールにならなくてもいいし、メイド服でもない。ただ普通の、ちょっとヒップが強調されただけの服だと考えた。どちらがより恥ずかしいか考えたら圧倒的に前者だ。


 そう思っても恥ずかしいものは恥ずかしくて、結局人目につかないところで狩りに励んだ。


 そして街では背後に回られぬように細心の注意を払いながら歩いていたけど、もう疲れた。今は普通に歩いている。


 時折視線がそこに向いてるんじゃないかと不安になるけど気にする余力もなくなり、割り切りが付き始めていた。


 そういえば知らない人からメッセージが大量に届いているけど、開いていない。なんか怖いのと、用事があったとしてこの格好の後姿を見られるまではいい、直接何か言われるとおそらく恥ずかしさがぶり返すだろう。


 ビギの南門近く、荒野ウルフを乱獲したこともあってマキセさんに皮を売りに行く。マキセさんの露店の近くに着くと一人の長髪の女性が店の前に立っていた。マキセさんと話している様子はなく、どちらかというと店に来る人を見張ってるかのように感じた。


「お、ナギちゃんじゃねぇか、装備が変わってるから一瞬気づかなかった…ってそれベリーワーカーズの二人のやつじゃねぇか! そんなものどうやって手に入れたんだ?」


 私に気づいたマキセさんは私の装備が変わったことに驚いていた。


「ええっと色々ありまして…ウルフの皮を売りに来ました」


 入手経緯をはぐらかして店を訪ねた要件を話す。


「ちょっと待って! マキセ、この娘がナギ…ちゃん?」


 店の前にいた女性が急に口をはさむ。


「ああ、そうだが、なんで知ってるんだ? 知り合いってわけでもなさそうだが何か用があるのか? 俺はてっきりまた別の奴を待ってるのかと思っていたが」


 マキセさんの言い方からすると、この女性はマキセさんの店に用がある人を待つときにはこうして立っているようだ。


「マキセさん、この人は?」


 私はマキセさんに尋ねる。女性は私を知っているみたいだけど私は女性のことを知らない。


「ああ、こいつは以前ナギちゃんが図鑑を持ってきたときに頼んだ【調教】持ちの奴だ」


「そうだったんですか! その時はありがとうございました、確か最後までページを見てくれたんですよね?」


 マキセさんの紹介を聞いて、ゴブリンとの共闘をしている時点で私以外に一人ゴブリン語を理解できる人がいたことを思い出し、そのことも含めてお礼を言う。


「どういたしまして、そんなにしっかり見たわけじゃないんだけど、ぱらぱらとめくってわかるところがあればいいなってやっただけで」


 そうやって少し困ったように答える女性。そのあと、まじめな表情で私を見る。


「えっと、ナギちゃんはルージュナとか聖樹とかわかる?」


「? ええまぁ、第四の街とそこから行けるダンジョンですよね?」


 女性の急な質問に答える。私を待っていたことと何か関係があるのかな。


「聖樹がどういう状況か知ってる?」


「いえ、知りませんけど…確かまだ行けないんでしたっけ?」


 女性の質問に色々な情報を思い出しながら答える。


 それから女性は聖樹に関わることを話し出した。現在出入りができないこと、そこに行くためにはゴブリン族の力が必要なこと、そしてゴブリン族との交渉をしていること。


「それでね、私はその交渉役なんだけど…全く話を聞いてもらえなくて」


 と落ち込んだ様子を見せる女性。


「誰の話なら聞いてくれるのか尋ねたらね、強き者にまだ礼をしてないっていうの」


「はぁ」


 私は女性がなぜそんな話をするのかわからなかった。いや、うすーく気づいてるんだけど、うす~くね。


「そこで強き者って誰か調べたらね、『ナギ様』って人がでてきたの、多分あなたの名前よね?」


 女性が私の顔を覗き込むように首を傾ける。私の予感は当たったらしい。


「最初はNPCかと思ってたんだけど、イベントの結果であなたの名前を見つけてね、ホムラに聞いても教えてくれないし、あなたにメッセージを送っても反応がないし、それで思い出したのよマキセがゴブリンの図鑑を誰かから貸してもらって私に見せたことを」


 そういって女性はマキセさんの方を見る。マキセさんも少し驚いて私の方を見て首を振っている。俺は詳しいことを話した覚えはない、って言ってるんだと思う。


「私の予想ではその人が何か関係があると思って、でもどうせマキセは詳しい話はしてくれないだろうからここで待ってたのよ、そしたら関係があるどころか本人だとはね」


 予想が当たってうれしそうだ。


「そこでナギちゃんにお願いがあ――「ちょっと待った!」」


 私たちが話しているとどこかから叫ぶ声が聞こえてきた。そこを見ると…ジェットさんだ。


「大体の話は知ってる、とはいえ決めるのはナギちゃん自身だ」


 そのままジェットさんは私の右に立ち女性との睨み合いになる。マキセさんは「店の前でやめてくれよ」と小さくつぶやいていたけど二人には聞こえなかったらしい。


 私はまだマキセさんに皮を売り渡してないから二人でやるなら他の場所でやってもらって構わないんですけど。


「確かゴブリン王国の王様は強き者にお礼を出す、それで聖樹の開放を求めるならそれに応えるって言ってるんだったよな? つまり本来はナギちゃんがほしいものをお礼としくれるってことだろ?」


 そう言ってジェットさんはさらに目に力を入れて女性を睨み付ける。そして私が油断している隙に腰に手を回す。今そこ気にしてるところなのに! という私の心の叫びは聞いてもらえず、ただ私の顔が赤くなる。


「ジェットには関係がないことでしょ? それに私は報酬としてお願いしてもいいことだと思うけど?」


「俺にも関係があるんだなこれが、それに図鑑のことならゴブリン王国に売ってるとはいえ無料でゴブリン語を習得できたんだから報酬というのは変じゃないか?」


 女性とジェットさんの言い合いが過熱する。二人とも一応知り合いではあるみたい。


「はい! そこまで! 結局決めるのはナギちゃんだろ」


 最後はマキセさんが締めた。


「ナギちゃん! どうしたの!? 顔が赤いよ!」


 マキセさの一言に冷静になったジェットさんは私の方を見て驚いている。自分が腰に手を回すからでしょ!? と怒りの意味を込めて心臓めがけて拳を一発。そうして女性の方を向き


「お願いのことならいいですよ」


 と言う。


「ナギちゃん!? いいの? 今のナギちゃんには直接のメリットはないし、もしかしたら他に方法があるかもしれないんだよ? そうしたら損じゃん」


 ジェットさんの言うことももっともだ。だけど


「チェインクエスト…て言うんでしたっけ? その可能性があるのかなぁ…って、あともしかしたらジェットさんの言うことも聞いてくれるかもしれないしそうなったら自分のほしい何かを頼みますから」


 そういうとジェットさんは「了解」と一言。女性も「ありがとう」と微笑む。


 さあこれでやっとマキセさんに皮を売り渡せる。そう思ってマキセさんの方を向いて取引していると


「リボンがついてると思ったら…後姿が狙いなのか」


「言われてみれば…ね、さすがはベリーワーカーズというところかしら、生真面目な紳士は目を背けてしまいそうな後姿ね」


「お前ら…ナギちゃんが止まっちまったじゃねぇか」


 ジェットさんと女性による後姿の評価に、私は恥ずかしくて顔が真っ赤なまま停止した。


――――――――――

NAME:ナギ

 【投擲】Lv30【STR上昇】Lv26【幸運】Lv29【SPD上昇】Lv19【言語学】Lv32【視力】Lv35【魅力】Lv15【】【】【】


 SP30


称号 ゴブリン族の友 恋に惑わされる者

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