青き衣
ファッションとか疎いのに、なぜこんな話を考えたのかと少し後悔していたりします。
【魅力】の効果で「釘付け」状態にできる私にとって、ブーメランは相性がいいのかもしれない。動きを止めている相手に二発分ダメージを与えられるうえに、軌道にいる敵ならば複数でも攻撃できるために「親衛隊」状態の解けたモンスターが予期せぬ敵を引き連れて私に向かって襲い掛かってきても一投で対処はできるからだ。
問題もある。投げたら戻ってくるまで無防備だということ、特にその隙に近寄られると戦いづらくなるということだ。でもブーメランさえ戻ってくれば至近距離でもダガーなんかで対処はできるから、ブーメランを投げてきちんと回収できるかが生命線だ。
初めて使うブーメランは新鮮で、悪いところもそこまで悪く思えなかった。元からブーメランがいいと思っていたんだからそのままブーメランを…と思う。でも優柔不断な私は迷ってしまうのでもある。
一通り試した後、ラズベリーさんから完成したとの報告を受けて私は「Berry Workers」にいる。
「ナギちゃんお帰りなさい」
ブティックのカウンターにはラズベリーさんが立っていた。私に気づくとそのまま私を作業場の方へ連れて行く。
「ナギちゃんが着る服はねぇ、これよ、じゃあ今つけてる装備は使わないと思うから渡してもらえるかな?」
「? どうやればいいんですか?」
そう言って青色の服を差し出すラズベリーさんに質問する。上半身と下半身――服の上下――の装備は変更はできても外すことができなくなっている。つまり今の装備とラズベリーさんの装備を同時にトレードするには別の装備に一旦変更しなければならなくなる。初心者装備は倉庫に保管中だからイベントリには他の装備はない。
「一旦これを身に付けた後でいいわよ」
笑顔のラズベリーさんから服を受け取る。この笑顔は悪人の顔ではない。
そして装備を変更してマキセさんから作ってもらったレザーアーマーと別れる。
ラズベリーさんから受け取った装備のトップスの丈は前が長く股のあたりまであり、後ろは腰の下あたりまで、そして後ろの下の方、お尻のやや上の位置に来るところに胴幅と同じくらいの大きさのリボンがつけられている。ボトムスは生地の厚めなスポーツ用のスパッツで膝上10cm位までの長さだ。
「うんうん似合ってる似合ってる」
「うむ、いい出来だ」
にこにこのラズベリーさんといつの間にかやってきた感慨深そうに頷くブルーベリーさん。
「とりあえずナギ嬢、ブーメランの使い心地はどうだった? 握り具合が悪いなら調整しよう」
ブルーベリーさんは服のサイズには自身があるようだ。
「いえ、特に問題はなかったです」
私は素直に答える。ラズベリーさんがあれだけいやらしく揉んでる最中にブーメランは渡されたので、結局ラズベリーさんが手を揉んだのは無意味だったような…。考えるのはやめよう。
「で、結局派生はブーメランにしたのか?」
「いえ、まだ悩んでて」
「どれも長所と短所がある、とはいえ今のところナギ嬢はソロで活動することが多いのだろう? なら広範囲に攻撃できるブーメランがいいと思うが…そのうちPTを組むかもしれないとかいうなら、早めに決めて自分にできることを明確にしておけばどれも大差はないと思うんだが、どのみち投擲なら使うだけなら他の武器も使えるわけだしな」
長々と話すブルーベリーさん。
「なんか、ブーメランに決めてほしいみたいな感じですね…」
「俺達はギルドのブーメラン提供係みたいなものだからな」
私の言葉に淡々と返すブルーベリーさん。どうやら営業活動だったらしい。
「それは後で決めるとして…、この装備って適当にブティックに置いてたらダメなんですか? 性能もよくしたりして」
私は話題を変えてこの店のシステムがいまいちよくわかってないので疑問に思ったことを聞いてみる。要するにわざわざモデルっているのかな? ってことだ。
「自分の好きな見た目で活躍できれば最高じゃない?」
ラズベリーさんによると、まず性能抜きで見た目で選んでもらい、それでその服装で戦闘でも活躍したいという人には、要望に応えつつ装備を強化するらしい。そうすれば効果を付ける時に必要な素材を最低限節約できるし、購入時と強化時で最低二回はお金が発生するとのこと。
そのために幅広いニーズにこたえる様々な種類の服をブティックに置きたいとか。
だからといって人気のない品を大量に並べても素材の無駄、かといって不人気の品を解体しようとすれば、もしかしたら手に取る人がいるかもしれないのに、というジレンマ。そのためにモデルを使って反響を確認、そのあと店に並べるか検討するらしい。
そのプロセスを確立した結果、現在店に並ぶ品のほとんどは人によって多少のアレンジはあれど、ベースはブラックベリーさんが考えたものになっているとか。
「そうですか…、ところで私が着せられているこれはどういうコンセプトなんですか?」
「Berry Workers」の事情は何となく分かったので今度は私の装備のことについて聞く。
「フフフ、まずはリボンの右、触ってみて」
ラズベリーさんに言われた通り触ってみる。リボンは全面的に服に縫い付けてある、しかし右側は服とリボンの間に空洞ができるように縫い付けてあった。
「そこわね、ブーメランを納めることができるのよ、持ちっぱなしだと疲れるでしょうし、イベントリから取り出すのも面倒でしょ?」
「なるほど」
確認のためにブーメランを抜き差しする。収納できるといっても半分くらいまでしか入らないようだ。
「そして、そこにブーメランを入れるとあら不思議、ナギちゃんに尻尾が生えたみたい! 大きなリボンとリボンの位置、リボンから生えるナギちゃんの尻尾、そして体にフィットしてヒップのラインがわかるスパッツの効果も相まって、後ろからの視線も大体ナギちゃんの腰とお尻のあたりに釘付けよ! 服の後ろの丈が前よりやや短いのはお尻のラインがしっかり楽しめるようにしたためよ!!」
「ブ、ブルーベリーさん!」
興奮して今にも鼻血が出そうなラズベリーさんにドン引きしつつ、私はブルーベリーさんに助けを求める。そして思わずお尻に手を当てたのは言うまでもない。
「ラズ、興奮しすぎだ」
「あうぅ、ナギちゃんみたいな女の子を前からも後ろからも楽しめるようにしたのに…」
ブルーべりさんに窘められ勢いを失いつつも、危ないこと言っているラズベリーさん。ブルーベリーさんがいてくれてよかった。
「まぁ、ああいう趣味の奴なんだ許しやってくれ」
「はい…」
ブルーベリーさんに言われ了解する。ラズベリーさんも変態なだけで悪人では…な、いと……思う。
「これってラズベリーさんがデザインしたんですか?」
ブルーベリーさんとラズベリーさんは二人で共同に作業をするらしいので仕立てたのは両方だろうけど。
「リボンと尻尾は俺が考えた、ラズは尻のあたりに視線を持っていきたかったみたいだからな、位置の調整が少し難しかったがどうやら思惑通りといったところにリボンがある、それにナギ嬢の好きな色が青でよかった、青は人間の集中力を高めるらしいからな、周りの奴らが集中してナギ嬢の――「待った、ちょっと待った!」」
淡々と話すブルーベリーさんのせいで私の顔は真っ赤だと思う。淡々と話すせいでブルーベリーさんはまともな話をしてるのに私がいやらしいことを考えてしまっている錯覚に陥る。
それに、油断してた! てっきりブルーベリーさんはまともな人だと思ってた。
「なんか…疲れました」
そう呟く私にブルーべりさんは「そうか」と一言、ラズベリーさんは苦笑いを浮かべていた。
――ジェットさん…私はあなたのいるギルドに入りたいと思えません。
私の選択肢から紙飛行機は完全に消え去った。
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NAME:ナギ
【投擲】Lv30【STR上昇】Lv25【幸運】Lv28【SPD上昇】Lv18【言語学】Lv32【視力】Lv33【魅力】Lv14【】【】【】
SP30
称号 ゴブリン族の友 恋に惑わされる者




