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ナギ記  作者: 竜顔
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番外編:ベリーワーカーズ

 ブルーベリーとラズベリー、この二人は夫婦とも恋人とも噂され、二人はほとんど行動を共にしている。財布も一緒にしているようで露店時代は片方が露店に立ち、もう片方が生産に勤しむという役割に分かれて活動することもあった。


 彼らの作る装備は性能がいいと評判であり、特に防具は程よく中二心をくすぐると人気も高かった。二人はそのうちファンを増やし、「ブルーベリーとラズベリーの店というのは長くて言いづらい」というファンの声もあって、二人は「ベリーワーカーズ」と名乗り、他の呼び名を押しのけてそれが定着した。


 そしてそのうち彼らは店を持つ。それが「Berry Workers」だ。


 当初は女性プレイヤーからの支持がほとんどなかったが、同じベリー仲間だということで店の一員となったブラックベリーのおかげで今では女性プレイヤーの方が多くやってくるぐらいである。


 しかし、男性の支持は今でも圧倒的に「ベリーワーカーズ」である。


 女性からの支持が少ないのは理由がある。




 ――発端:ホーク


 正式サービスが始まってから二か月ほど経った頃だった。その頃にはβ時代からプレイしているベリーワーカーズは布装備から革装備、金属装備まで扱うことができ、防具も武器も分け隔てなく作れことからすでに多くのファンがついていた。


 店に並ぶ装備はその実力を駆使したせいで却って使い辛いものばかり。しかしそれはただ自身の能力のアピールに他ならず、基本客は店に並ぶ品を買うことはなかった。


 その日も変わらず生産活動からブルーベリーが戻ってきて二人並んで露店を出す形になっていた。


 そこに一人の客が来る。布系の装備がお気に入りなのか普通に現実にある服からファンタジーっぽい服など注文を付けてくる客だ。名はホークといい、β時代は弓だったが、現在は正式サービス開始時に追加された投擲武器を使うプレイヤーで、β時代の固定PTから追放された男だ。


「今日は連れは一緒じゃないのか?」


 ブルーベリーは固定PTを追放されてからのホークと普段一緒にいる男がいないことを不思議に思いながら声をかけた。


「ああ、あいつは色々あってな…今日は俺一人だ」


「そうか」


 ホークの言う色々が気になりながらも一応納得してみせるブルーベリー。


「…んで、俺は見てしまったんだ」


「何をだ?」


 今日のホークは様子がおかしいことを感じつつ話を合わせる。


「装備がロストして何も装備してない状態になった時、下は短パン上は肌着みたいなやつになるだろ?」


「ああ、そうらしいな」


 装備無しの状態を経験したことがないブルーベリーは、そんな話もあったな、と考えながら相槌を打つ。


「だがな」


 ホークの目がギラギラ輝き始める。


「スカートがめくれた時に視覚阻害が入ったんだ! これってどういう意味か分かるよな!? そうだよ、装備によっては見えるってことだよ!」


「いや、ホーク、それは見えてないというんだと思うぞ」


 興奮するホークにブルーベリーは少し気圧されながらも突っ込む。


「いや見えてるんだよ! 視覚阻害なんてモザイクと同じだ! 想像で何とかするんだ!」


 勢い冷めやらぬホークにブルーベリーは内心「それとこれとは違うんじゃないか?」と突っ込んでいた。


「そこで、お願いがあるんだ、あんたら女物の可愛い服作りたいとか言ってただろ? それにそういう要素をだな「却下だ」――何!?」


 くだらないことを言うかと思えば予想通りだった。ベリーワーカーズの二人は女性客も多いが、性能を重視するあまりあからさまに女性向けのデザインで作ったことはない。


 ベリーワーカーズの稼ぎは金属系の鎧が中心で、布系はとあるプレイヤーにほぼ独占状態だった。時期的にもまだ趣味に重きを置くプレイヤーは少ないため性能を無視して防具を選ぶプレイヤーなんて無いに等しい状況である。効果を付けるにしても稼ぎの中心である金属系の鎧に素材を使うべきだとブルーベリーは考えていた。


 しかし、ラズベリーがとある提案をしたことによってホークの願いに応えることとなった。




 ――被害者:ライム


 ライムという女性プレイヤーがいた。彼女は近接のアタッカーでメインは大剣。髪はショートヘアの真面目な女の子だった。


「はぁ」


 彼女はひどく落ち込んでいた。


 先ほどの戦闘中防具が壊れ、それが気になって動きも悪くなりPTメンバー数人とともに死に戻りした。固定であったが元から合わないメンバーもいて、今回そのメンバーを道連れにしてしまったことで収拾のつかないことになり結局ライム自らPTを抜けることとなった。


 だが彼女が落ち込んでいるのはそこではない。


 武器を新調するときに奮発。そのせいで金欠状態だった。NPCが売ってるような防具なら買えるがゲーム内の時間帯は夜ということでNPCの防具屋は閉まっていた。この薄着状態から抜け出せるならば初心者装備でもいい思ったが、初心者装備を持ってないかと片っ端からプレイヤーに声をかけるのは恥ずかしいと思っていた。


 人目に付きにくいところで色々考えて、朝が来るまでログアウトしようと思った時だった。


「あら? こんなところでどうしたの?」


 ライムを見つけたラズベリーだ。ラズベリーのことを噂で知っているライムは自身の状況を話し、安い防具を売ってほしいと言うと、


「今から作るとなると他の注文もあるし一週間くらいかかるわね、それでもいいならお金はいらないわ」


 ラズベリーからは無料で装備を作ってもらえるということだった。


「その代りお願いがあるの、検証に付き合ってほしいの、といってもあなたの装備ができるまで試作の装備を使ってほしいってだけなんだけど」


「ええ! いいんですか!? そんなことでいいなら喜んでやりますよ!」


 ラズベリーのお願いにライムは二つ返事だった。この時のライムにとってラズベリーは女神に見えていた。装備が完成するまでの「間に合わせ」も提供してもらって、しかもそれを身に着けることが無料で装備を作ってもらう交換条件なんてライムには至れり尽くせりとしか思えなかったからだ。


「じゃあ、検証してもらうわけだからあなたが活動してるとわかるようにフレンド登録しておきましょう」


「はい!」


 ライムの声は明るかった。


 ――だが


「あのぅ、これは…」


「サイズは問題なさそうね」


 ラズベリーから渡された装備を身に着けたライムは顔が赤くなっていた。ラズベリーから渡された装備は、ビキニアーマーというほど露出度は高くないが、しっかりとへそが出た鎧だった。


「仮説通り、装備に影響されて装備無し状態の肌着やら短パンやらはなくなるようね、じゃああとは実際に戦闘をおこなってどんな感じか報告してもらうってことで、装備ができるまでよろしくね」


 そうやってにっこりほほ笑むラズベリーにライムは恐怖した。それと同時にはめられたことを悟った。


 元々は自分の慢心で防具を失ったのだからと言い聞かせ、羞恥に耐えてライムは一週間その装備で活動し、律儀にベリーワーカーズに赴いた。その期間中PT勧誘やギルド勧誘がひっきりなしで、彼女は有名なプレイヤーとなったが、今では彼女の黒歴史となっている。


 そしてライムの装備はベリーワーカーズのリアルの都合もあって一週間では間に合わず、申し訳なさもあってベリーワーカーズが超高性能な装備を作ろうとした結果、さらに一週間要するのであった。





 それ以降ベリーワーカーズはあからさまではないがわかる人にはわかる際どいデザインの装備を作り、モデル――ホークの話を聞いてラズベリーが提案したもの――という名のもとに数人の女性プレイヤーを毒牙にかけた。


 これがベリーワーカーズの女性からの支持が少ない原因となり、ブティックに並ぶ売れる品はブラックベリーのものばかりとなってしまったのであった。


 …しかし今ではその理由を知る人は相対的に少なくなっている。

ライムは今でも「Berry Workers」の常連です。注文するのはまともなやつですが。

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