モデル
予定より遅れて申し訳ありません。
今回のPvP大会は火曜日~金曜日までの4日間、バトルロイヤル形式で予選が行われ、最後に生き残った一人だけが勝者として決勝トーナメントに進める。1日4回、最も都合のいい時間帯を選んで参加することができるということもあって、それぞれ曜日や時間帯によって競争率が変わってくるだろうけど、決勝トーナメントに進めるのは16名のプレイヤーだけだ。
土曜日はベスト4まで決め、日曜日は準決勝と決勝が行われる。一応決勝トーナメントの時間帯はすでに決定しているけど、勝ちあがったプレイヤーの要望に沿って融通をきかせることもできるらしい。どちらにせよ時間に間に合わなかった場合は不戦敗ということになる。そして、運営側としては極力時間の変更は行いたくないそうだ。
――と参加しない私には特に必要ない情報でした。
火曜日、多分予選が行われているだろう。昨日はあれから【魅力】のLv上げをがんばったわけだけど、第三エリアにビビった私は第二エリアでちまちまと狩りを行っていた。そして、思ったより上がらなかったのは言うまでもない。
昼からログインした私にラズベリーさんからメッセージが届いていたので、私は急いで「Berry Workers」に向かった。メッセージにはブティックの方に来てほしいと書いてあったのでブティックの方に入る。今日も人が多く、特に女性が目につく。
店に入ってすぐカウンターの方に向かう。そのとき店の扉が開き、店内に一人の男性が入ってきた。
「きゃぁー、ブラックベリーさんよ!」
そういって、店内にいた女性達が、その男性を囲うようにして近づく。その男性は黒い髪、そして黒を基調としたかっこいいファッション、ロックな雰囲気っていうのかな? そんな感じだ。
「あの、私をモデルにしてくれませんか?」
「うーん、君だと今考えてるデザインには合わないかなぁ~、君をモデルにしたデザインのインスピレーションがわいたらお願いするよ」
「きゃぁ、はい」
そういわれた女性は顔が赤くなっている。男性の方は特に何も気にしてない様子だ。
――っと今、モデルがどうだとか言ってなかった?
「君はそっちじゃない」
今女性達に囲われている男性の方に向かって歩き始めたら、後ろから声がかかる。振り返るとカウンターに立っている青い髪の男性っだった。
こちらの服装は…詳細はよくわからないけどラズベリーさんとお揃いのエプロンをしていることだけは分かった。
「あ、あのよろしくお願いします」
私は声をかけてきた男性に頭を下げた。なんで頭を下げたのか自分でもわからないけど。
「うむ、何色がいい?」
「は?」
男性の発言が突然すぎて一瞬理解できなかった。多分装備の色だろう。
「青…ですかね」
私は自分の装備を見ながら答えた。マキセさんが作ってくれたレザーアーマーは何もいじってないオーソドックスということもあってか、茶色がメインでどうにかならないか悩んでいたところだ。多分色ぐらいならどうにかなったんだろうけど。
「そうか、じゃあまずは採寸だな、ついてこい」
そういわれて私は男性についていき、カウンターの奥にあるドアをくぐり、外から見れば倉庫のように見える部分。昨日ラズベリーさんの後ろに見えていた作業場と思われるところに連れてこられた。
「あらぁ、ナギちゃんいらっしゃい」
そうやって、いやらしい目をした笑顔でラズベリーさんが近づいてくる。
「じゃあ頼む」
男性の言葉を受けてここからはラズベリーさんが受け持つ。身長、肩幅、腰回り、ヒップ、バスト…。
「あの」
「ん? なぁに?」
私の言葉に、満面の笑みで首を傾げて尋ねてくるラズベリーさん。恐怖だ。
「わ、私の手をさっきから揉んでますけど、な、何か意味が?」
ひきつった表情でラズベリーさんに問いかける。ラズベリーさんは大体測り終わったと思ったら今度は私の手の大きさを気にしたり、指と指の間を気にしたり、揉み心地を探るように揉んできたりと何の意味もなさそうなことをしてくる。普通なら特に気にならないだろうけど、念入りに、という言葉が似合うほどしつこく、目もいやらしいとくれば聞かずにはいられなかった。
そして聞きながら気づいてしまった。この店の責任者はあのギルドの関係者だと。ラズベリーさんの立ち位置がよくわからないけど、あのギルド近辺のプレイヤーだと考えればおのずと答えは出てくる。いやらしいことをしているに違いない。
「意味はあるわよ、ナギちゃんが戦ってる姿を見たことがないからこういうことは大切よ、どうすれば持ちやすくて扱いやすいかっていうのを調べるのに…」
そうやって恍惚とした表情で私の手を念入りに揉むラズベリーさん。作業場には何人かプレイヤーがいる。あえてこちらを見ようとしない者や憐みの目で私を見つめる者ばかりで、私がラズベリーさんから「被害にあっている」という感覚が正解であることを教えてくれた。
「そういえばブラックベリーさん? とかいう人も女の人達からモデルにしてほしいって言われてましたけど…」
ラズベリーさんに前科があると悟った私は、この店にとってモデルとはなんなのか尋ねた。何故ならこんなことに耐えられる猛者がいるなら変わってほしいと思ったからだ。
「彼は人気者なのよねぇ、彼というか彼のデザインが、というか」
ラズベリーさんは――手を揉むことは忘れず――少し遠い目をして答えてくれる。「Berry Workers」のいうモデルは、どちらかというと広告塔的な側面が強く、自分が作った装備の似合いそうな人を選んで、無料で装備を提供する代わりにしっかり宣伝してもらうんだとか。
普通に店において手に取った人がモデルだということにすればいいのでは、というわけにもいかないらしい。ブティックに置いてあるのは基本は作り手の趣向に合わせていて、ラズベリーさんと青い髪の男性――「ブルーベリー」さんというらしい――が作るものは、女性向けばかりだけど誰も身に着けてくれないんだとか。
のんびり生活プレイの人からはデザインが気に入ってもらえず、戦闘メインからは性能が劣るために嫌われる。ただし、二人が作る鎧の人気はすさまじいらしい。それでも二人は布にこだわる。
「布だと触った時に体の感触が伝わるじゃない? 鎧だと固いし…」
その理由が不純な気がした。
「採寸は終わったか?」
ラズベリーさんの話が終わるころブルーベリーさんが戻ってきた。
「ええ、終わったわ」
「そうか、ナギ嬢、ほれ、ブーメランだ」
ブルーベリーさんの手元には青色のブーメランがあった。
「あ、ありがとうございます」
そういって私はブーメランを手に取る。くの字型で、両先端は鋭く尖っている。
【蒼翼】
武器カテゴリー:ブーメラン
ATK+32(STR依存)
翼のごとく空気を切り裂くブーメラン。
「モデルのついでだからな、もっといい性能がほしいならちゃんと注文しろよ」
少しぶっきらぼうな感じのブルーベリーさん。しかしこれでブーメランを試せる。
「まだ派生を決めてないんだろ? それを試してこい、その間にこっちは服を作る」
「わかりました」
そういって私は作業場から出ていき、店を出た。不思議とラズベリーさんは何もしなかった。それとブルーベリーさんとの会話を思い出し、私の情報が筒抜けじゃないかと不機嫌になったのはここだけの秘密。
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NAME:ナギ
【投擲】Lv30【STR上昇】Lv25【幸運】Lv28【SPD上昇】Lv18【言語学】Lv32【視力】Lv33【魅力】Lv14【】【】【】
SP30
称号 ゴブリン族の友 恋に惑わされる者




