Berry Workers
ヨーロッパの街並みが思い浮かぶ、ブルジョール。その中心よりもやや西にそのお店はあった。
大きな建物、その半分くらいはただの倉庫のような見た目で、残り半分はブティックのようになっている。ブティックの部分はガラス張りで、外から中が見ることができたり、一押しのファッション(?)で身を固めたマネキンが並べられているショーウインドもある。
店の名前は「Berry Workers」というらしく、その看板が店の屋根の方に取り付けられている。この店の責任者は男女の二人組で、「ベリーワーカーズ」としてプレイヤーの間でも有名らしい。元々は二人で活動しているときに、呼びづらいから二人で一つの呼び方を決めようといって決まったとのことで店の名前の由来はそこからだそうだ。ただあまり深く知らない人たちは店の名前から二つ名がつけられた思ってるらしい。まぁ、ここはどうでもいいかな。
人気があるというのは事実なようで今もブティックの方には人が溢れかえっている。あくまで外から見ているだけだ。用があるのは倉庫のような見た目の部分の一角にぽっかりと空いた四角い穴。そこにはカウンターがつけられていて、というより四角い穴の下の辺がカウンターとなっていて、特に武器を直接注文をする際にそこの係りの人に注文するというシステムらしい。
ふふ、あの男性――「ホーク」さんというらしい――が人気のお店というからネットですでに予習を済ませていたのだ。今の情報はネットによるもの。女の子なら知っていて当然という言葉に興味がわいた私はホークさんと別れてログアウトし、昼食を終えた後すぐさま調査を行った。私だってネットで情報収集ぐらいできるんだから。
防具はブティックの方でなんとかなるとして、武器はカウンターで注文する以外にはない。ちょっと不安だ。
露店でも時には店に並べられている「作品」を購入し、時にほしいものをオーダーすることは当然ある。と思うかもしれないけど私はそんなことは一度もない。せいぜいスミフさんにダガーの相談をしたくらいだ。マキセさんにも革素材を売ってたけど装備を買ったこともなければ、注文したのなんてジェットさんがささっと済ませた感じだ。
今でもそれを愛用してるのもどうかとは思うけど、結局私のこの辺はゲームを始めてからも大して変わってはいないみたい。注文が苦手だってこと。
カウンターがあるところも人が多く列ができていた。PvPに向けて装備を強化したい以上腕利きの生産職に注文をしたりもするだろう。
とりあえず列の最後尾に並ぶ、PvPなんてどうでもいい私は何となく場違いな気がしていた。
段々と列が進んでいき、ついに私の順番がきた。
「はーい、どうぞ」
カウンターの注文書(?)に顔を向けた女性は一切こちらを見ずに応対する。髪の毛の色は赤色で髪を後ろで束ねている。年齢は20代中盤くらいだろうか。
「PvPの予選はいつ?」
――ん?
想定外のことを聞かれ戸惑う私。多分ここに来る人はそういう人しかいないと考えたのだろう。私が戸惑っているのを変に思ったのか女性が顔を上げる。
その目が輝きだした気がする。捕食者の目だ。直感で危ない人間だと悟るも状況的に逃げられない。後ろも人がいるし、さっさと済ませれば問題ない…はず。
「あ、私PvPに出場するつもりはないでう」
噛んだ。そんな私を見て女性がにまぁっとした笑顔になる。
「あらぁ、かわいいわねぇ? あ、おねぇさんあなたがどうしてここにいるのか知りたいなぁ? その装備はどう見ても駆け出しでしょ?」
そう問いかけてくる女性。
「先輩につれてきてもらったのかなぁ? 護衛してもらったのかなぁ?」
次々と畳み掛け私に返答する隙を与えない。食うつもりだ。女の子なのにそんな表現は、と思うかもしれない。でも食べるなんてかわいい感じじゃない、この空気は「食う」なのだ。
「えっと、先輩に連れてきてもらった…でいいのかな? そんな感じです」
恐怖でおびえながら私は答える。
「う~ん、今新作を考えててねぇ」
「新作…ですか?」
急に方向転換した女性の言葉に私は聞き返す。
「まぁデザインだけで性能は大して変えるつもりはないんだけどねぇ」
そういって女性の目に不気味な光が宿ったのを私は感じた。
「モデルがいないのよねぇ」
「……モデルに、なれと?」
「あらぁ、話が早くて助かるわぁ」
うっとりとした表情で、だけど瞳に不気味な光を宿らせたままそんなことを言う女性に、私は内心「話が早いも何も確実にそういってたじゃん」と突っ込みを入れてしまった。
「あ、当然装備はタダでこっちが提供するからね、採寸とったりしなきゃいけないから…今日は無理ね、PvPに出場する人優先だから」
「はい、わかりました」
タダで提供してもらえるのなら断る理由もないのでとりあえずここまでは承諾。後の問題は
「モデルって何をすればいいんですか?」
「何もしなくていいわよぉ、その装備で好きに活動してもらえればいいから」
私の質問に最高の…だけど裏を感じる笑顔で答える女性。まぁSSをとってどこかに掲示するというなら断るところだけど、そうでないなら何にも問題はないかな。
っと。女性の勢いに押されて防具の話しかしてない。本来の目的は武器だった。
「あの…」
「あっ! フレンド登録しましょ」
「え?」
「モデルさんとはフレンド登録してもらってるの、何かと都合がいいから」
私の話を聞いてくれないのだろうかと思うほど勝手に話を進めていく女性。いや、単純に防具の話が終わってなかっただけのことだ、と自分に言い聞かせ落ち着く。
女性からのフレンド申請が来たので了承する。「ラズベリー」さんというらしい。
「はい、ナギちゃんね、防具にこんな効果があるといいなぁとかあったらコールしてくれるとうれしいなぁ、じゃあ後ろがつっかえてるからまたね」
「あ、いやあの」
勝手に話を終わらせようとする女性に食い下がる。
「まだ何か?」
さっきまでの危ない感じから普通の商人に戻った女性は首を傾げる。
「武器…」
「武器?」
「ここには武器を注文しに来たんです」
「ああ、そうね、私ったらモデルのことばっかりでナギちゃんの注文まともに聞いてなかったわね」
そういって女性は商人のまま笑顔を作っている。この雰囲気ならば普通に面倒見のよさそうなお姉さんって感じだ。
「で、ナギちゃんは何の武器を使うのかな?」
「ブーメランがほしいです」
女性の質問に答える。他の投擲武器は手に入れようと思えば手に入る。ブーメランだけがまだ手に入らない。…紙飛行機はノーカンで。
「ブーメランかぁ、分かったわ、ブーメランならなんでもいいよね? モデル用の防具と合わせてってことでタダでいいから」
「あ、ありがとうございます」
一応交渉成立(?)したので私はその場を立ち去った。なんか私が得するだけの気がするんだけど、いや、向こうもそれで防具が売れるとなるとメリットはあるのか。
何か釈然としないままではあるけど、女性を…ラズベリーさんを信じて待つとしよう。
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NAME:ナギ
【投擲】Lv30【STR上昇】Lv25【幸運】Lv28【SPD上昇】Lv18【言語学】Lv32【視力】Lv33【魅力】Lv12【】【】【】
SP30
称号 ゴブリン族の友 恋に惑わされる者




