「え!」
「え!」
唐突の言葉に私は驚く。
「えっ?」
この反応を予測してなかったのか男性も驚いている。髪の毛は水色で長髪、背は170前半から中盤といった感じで服装は長いコートを羽織っていて、そのボタンは全開。
「いや、だって俺がいなかったら死んでただろ?」
と冷静になって確認を取ってくる。男性の言い分は分かる。実際男性が紙飛行機を飛ばし、それが盾代わりにならなければ私は今頃おとなしくデスペナルティを受けて街をうろついているだろう。
負けても別にいいと思っていたとはいえ、この男性から助けてもらったことは事実だし、ほしいのならレアドロップを渡すことも問題はない。
ただ、欲を言うならば、
「どうせなら援護射撃してくれた方がよかった気がします」
「ええ! 横殴りオッケーだったの? それなら早く言ってくれればいいのに…ってそういう問題でもないんだけど」
私の発言に男性は戸惑っているようだ。そして男性が言わんとすることもわかる、つまり自分でレアドロップを手に入れるのに時間がかかるかもしれないから目の前で手に入れた、しかも自分がいなければ倒されていた私にお願いしているというところだろう。
私が引っかかってるのは…そう、何が「じゃあ」なのかということで。
「な、何か望みがあるのか!? 俺に何を求めるんだ!?」
私が黙っていたせいで男性は余計に焦りを募らせたらしい。私が何か要求してこようとしていると勘違いしたのだろう。
――細かいことを気にするはやめよう。
「いえ、ちょっと言い方が引っかかっただけですから」
私は笑顔でそういうと、ビッグワームのレアドロップアイテムをその男性に渡した。男性はさっきまでの動揺はどこへ行ったのか冷静にそれを受け取る。
「にしても、ナギ嬢は装備を変えないと…そろそろ第四エリアがメインになってくるんじゃないのか? とてもじゃないけど防御面でも危ないと思うぞ」
ん? この人私の名前知ってるの!?
私の心は激しく動揺した。何故ならこの人は私が誰かを知ったうえで交渉していたことになる。私が迂闊に拒否すればどうなってたのかと思うとゾッとする。
不思議な点もある。ジェットさんは私のことをギルドのメンバーに話していたらしいからこの人がギルドマスターなら私のことを知っていてもおかしくはない。でも、スカイさんやエースさんも私の存在を知っていても最初から私の名前を知っていたわけではなさそうだった。
「どうして私の名前を知ってるんですか!?」
聞かずにはいられなかった。
「……え? あ、ああ独自の情報調査でね、ジェットと仲がいい女の子がどんな娘か気になってね、はははは」
男性の目が泳ぎまくっている。
「私のことつけてたんですか?」
「いやいやいや違うよ! マキセの店に立ち寄ってるのを見かけてマキセにどんな娘か聞いてみたり、スミフ…だっけ? そいつとも仲がいいみたいだから話を聞いてみただけだよ!」
――あれ? そういうのをストーカーっていうんじゃ…。
この人の…というかジェットさんのギルドは全体的に大丈夫なんだろうか。そんなことを考えてしまう。せめてギルドマスターぐらいはまともな人でいてほしかった。
ここでふとあることに気づき、うまく使って色々と情報を聞こうと考えた。ジェットさんがギルドの関係でなのか、投擲武器専門の生産プレイヤーとかの情報開示に消極的なので、このギルドマスターと思われる男性とうまく交渉できれば…。と口を開く、
「でもそうなると話が変わってきますよね?」
「ん?」
私の質問の意味が理解ができていないような男性。
「私は別にビッグワームに負けてもいいかなって思ってたんですよね、自分の実力がどのくらいかとか防具も切り替えようと思っていたので今だとどんな感じなのかとかが分かればそれでよかったんですよね」
「ほ、ほぅ」
私は何とか話を誘導していく。
「あなたは私が誰かわかってたんですよね? そしてあなたはビッグワームのレアドロップがほしい…と」
「あ、ああ…ふぅ、何が望みだ」
男性は折れた。これは屁理屈だけど、どうやら男性は私の屁理屈を聞いて交渉に乗ってくれるらしい。
単純に、男性のサポートで私がビッグワームを倒させてもらったのか、男性が私をサポートする代わりにビッグワームのレアドロップを入手してもらったのかということだ。さっきまで前者だと思っていたけど、マキセさんやスミフさんから直接情報を仕入れているのなら私が【幸運】持ちであると知っている可能性は十分にある。
つまり、後者として私は交渉しようとしている。いや、でも多分前者でもあり後者でもあるのかな? 私にとっては前者であり、男性にとっては後者というか、その逆というか。
「とりあえず、武器のことを聞きたいです、誰が売っているのかとか」
「ふむ」
「私まだ投擲の上位にしてないんですよね」
「ほむ」
私の言葉に、まじめなのかよくわからないけど相槌は打つ男性。
「ブーメランとかいいかなぁ、って思ってるんですけど露店に並んでるのとかほとんど見たことなくて…」
私がそういうと、男性は少し真剣な表情になり、
「その辺はナギ嬢に謝らなきゃいけないところはある」
といって話しを始める男性。男性によると【投擲】はあんまり使用するプレイヤーが多くはなく、wikiの更新も滞っている。そういうこともあって他の武器に流れるプレイヤーが多いため、第三陣に特に期待していなかったので第三の街ヴォルカに向けた準備を優先し、東門に露店を開かせなかったらしい。
そして、第三陣受付二日目…つまり私とジェットさんが出会った日、そして私とジェットさんが分かれた後に第三の街へお抱えの生産職のプレイヤーを護衛しながら大行進が行われ、それからしばらく第三の街を活動拠点にしていたとのこと。だから初日見たはずの投擲武器を扱う店が二日目以降消えていたのだとか。
今は第一の街ビギの中心街に戻ってきた人もいるらしいけど、今週から始まるPvPイベントに向けた武器量産で露店を出す余裕がないとか。
「で、ナギ嬢はブーメランがほしいということだったな、女の子ならば知っていて当然のお店を紹介してやる」
本題に入ったと思ったらなんかずれてるような気がする男性の発言に私は首を傾げる。
「あの、女の子なら知っていて当然って…?」
「防具もそろえられるよってこと」
私の疑問に普通に答える男性。話によると、ある種のブランドというか人気メーカーみたいな感じで男女問わず人気で、見た目もよくて性能も十分という布系の防具を取り扱う店があるらしい。
しかもギルド「神風」所属で、半分お抱えみたいな生産職のプレイヤーが経営していて、当然投擲武器も取り扱ってるとのこと。ただ、気になるのは
「そのお店ってどこにあるんですか?」
私は店の所在地を聞いた。私が行ける街は、ビギとブルジョール、あとは勇者ゴブリンの村くらいで、それ以外の街へは行けない。いけないところに店があるのならどのみち意味が無い。
「安心したまえ! ブルジョールだ! …あれ? 行けなかったっけ? 行けないなら連れて行くけど」
自分が行ける街だったことでほっとしていたら、行けない街かもしれないと思われたらしい。てか私が出入り可能な街も把握しているのか。
「大丈夫です、ブルジョールなら行けます」
私は笑顔で答えた。ようやく装備関連で苦労せずに済みそうだ。
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NAME:ナギ
【投擲】Lv30【STR上昇】Lv25【幸運】Lv28【SPD上昇】Lv18【言語学】Lv32【視力】Lv33【魅力】Lv12【】【】【】
SP30
称号 ゴブリン族の友 恋に惑わされる者
中途半端になりそうだったので会話だけで一話使うという荒業。




