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ナギ記  作者: 竜顔
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改心

 朝、目が覚める。あまりよく眠れなかったのか、眠気に負けそうな瞼を持ち上げ体を起こす。


 あのあとバニー・バーンによってエンジェル・モーリンはどうなったんだろうか。こってり絞られたのかな。


 とりあえず昨日バニー・バーンが現れた後、私たちは確認したいことをぶつけてみた。というより、海に関する話を他人にもしていいのかということだけど、バニー・バーンからは


「どうせすぐわかることだと思うけど、黙ってもらえる方がこっちとしても助かるわね」


 と言われた。どうやらバニー・バーンが尋常でない怒気をエンジェル・モーリンに向けていたのも、上から海のことについてしゃべったと報告があって叱られたことが原因らしい。そのくせにあんな自己紹介とか何考えているんだということだったそうだが。


 あとは「イレギュラー」が訪ねてきたとかで、私に何か変わったことがなかったか聞かれた。なので昨日の行動をバニー・バーンに報告した。「イレギュラー」が何なのか尋ねたら、「招かれざる客のことよ」と曖昧な回答しか返ってこなかった。


 昨日はそんな感じで、話が終わった後ホムラはシャングリラナイトへ行き、『スタッフ』二人は裏の方へ消えていった。もちろんこのときエンジェル・モーリンは連行されるように首根っこをつかまれていた。





 朝食を終えてログイン――


 さあ、エイローで過ごすのもあと一日――厳密には11:00を過ぎてからだけど――確認するとホムラからメッセージが来ていた。開くと、ちょっと遅れるから先に集合場所に行っといてという内容だった。


 宿を出て、集合場所へと向かう。一緒に狩りをするメンバーって誰だろうか。


 イベント中、ホムラが私に知り合いのプレイヤーを紹介したことはないし、私のいないところでもそういう人と関わった様子はない。能力の低い私を連れてだと邪魔になると思って今まで避けてただけかもしれないけど、おそらく今日の狩りのメンバーは私も知っている人たちだと思う。そんなことを考えていたら足音が近づいてくる。


「やあナギちゃん、今日もかわいいね、ふっ、その顔を見れただけで今日も幸せな一日になりそうだ」


 思わず「誰?」って言いそうになった。聞いたことのある声に見たことのある顔、だけど雰囲気は全くの別人、ジェットさんだ。おそらく今の私の表情はひきつっているに違いない。


「えっと、ジェットさん…ですよね?」


 一応確認のために聞いておく。でも私の頭では100%ジェットさんであると理解している。


「そうだ、まぁそういうのも仕方あるまい、ナギちゃんのおかげで一度天へと昇り再び地上に還ってきたときに私は生まれ変わったのだからな」


 表情は凛々しく、声もその表情に負けないくらい凛々しいものになっている。さながらメルヘンの王子様のような雰囲気だけど、ジェットさんの見た目だとただの痛い人に思える。


「ナギちゃん、元気だった?」


 生まれ変わった(?)ジェットさんに戸惑う私の前にスカイさんが現れる。


「あの、スカイさん…これって大丈夫なんですか?」


「ああ、完治したみたいだ、どっからどうみても以前と変わらないジェットだろ?」


 スカイさんは納得の表情。…ダメだ、この人もダメな人だったんだ。


 そもそも「どっからどう見ても」ってわざわざつけるあたり絶対違うってわかってるでしょ!? と突っ込みたいけど、突っ込むだけ無駄な気がしたのでやめる。


「あの、ジェットさん」


「なんだね?」


「普通に戻ってもらえますか?」


「私は普通さ」


「えっと、前みたいなしゃべり方でお願いします」


「以前のジェットは死んだのさ」


 そういいながらジェットさんはどこか遠い目をしながら空を見上げた。スカイさんの方を見ると目をつむりうんうんと頷いていた。


 それから私はあらゆる言葉を使ってジェットさんを説得するが、どれも効果がない。


 二人の話によると今のジェットさんは以前のジェットさんの10倍は紳士なんだそうだけど、私にとってそんなことは別にどうでもいい。ふとした隙にボディタッチしてきて、スルーしたら調子に乗ってセクハラ紛いのこともしてきて、それでいて私の疑問なんかには答えられる範囲で答えてくれるだけの優しさを持つ、それがジェットさんのはずなのに。


 しばらく口論が続き、ついにこの紳士風の分からず屋にビンタを打ち込むことになった。…あくまで自然に手が出てしまったんだからね。自然に!


「――痛ぁ、ナギちゃんが手を挙げるなんて、よっぽど嫌だったんだね」


 以前の雰囲気を身に纏ったジェットさんはしみじみとした表情で左の頬をさすっている。


「もうふざけるのはやめてください!」


「いや、結構まじめだったんだけど」


 こんな感じでジェットさんは完全復活を果たした。やっとジェットさんが正常に戻ったところでさっきまでの紳士(?)スタイルの文句をぶつける。


「まぁ、ジェットも後ろめたいと思ったからああやってたわけだからナギちゃんもあんまり責めないであげてよ」


「後ろめたい…って右の森でのことはどっちかが悪いとかないじゃないですか?」


 スカイさんの一言に私は聞き分けの悪い子供のように返す。実際あれは心酔の状態異常にかかってたわけだから運営を恨んでもジェットさんを恨んだりするつもりはない。避けようとしたのは事実だけど向き合おうと思った矢先にあんなんじゃ…。


「許してくれるんだね…?」


 私の言葉を確認するようにジェットさんが聞き返してくる。表情は若干暗い感じで落ち込んでいるようにも見える。


「はい」


 そう言うと、ジェットさんの表情が少しだけ明るくなる。そして、


「あまりの可愛さに心酔状態のナギちゃんのスクショも何枚か撮ったけど許してくれるんだね」


「許しますよ、あ、でもスクショは消してく「それは無理だ」――!!」


 私の消去依頼は即答で拒否された。拒否するときの表情は、まるであらゆる手を尽くしたが失敗し手の尽くしようがないというような、絶望に打ちひしがれた表情だった。雰囲気はまだ暗い部分が残ったままだけど変態ぶりは勘が戻ってきたらしい。


 そんなことをしているとホムラが合流した。一連の話をスカイさんがしてくれる。話を聞いたホムラはジェットさんの方を向いて、


「ジェット…色々聞いてはいたがお前、よくアカウントが残ってるな」


「ナギちゃんの懐の深さの賜物です」


 どうやらホムラ的にもジェットさんの行動は運営に訴えてもいいレベルでやっちゃいけないことをやってるらしい。いままで基準が分からなかったからそこまで強く言わなかったけど、今度からは強く言おうと私は決心するのであった。





 夜のモンスターはどこも統一らしく、「ダークウルフ」や「ファントム」の二種類の雑魚モンスターが出てくるらしい。ダークウルフは普通に毛が黒いオオカミで、夜ということも考慮すると見づらいモンスターだ。ファントムは小さな幽霊みたいなやつで、フードを被っており、目があることは分かるけど体は視認できず、持っている鎌――見るかぎりは宙に浮いているように見える――で攻撃してくる。どちらもアクティブモンスターだ。


 レイドボスは、エイローを出てすぐの草原に出現し、しかもアクティブモンスターだということで横殴りでも何でもありな状態らしい。復活までに大体2~3時間はかかるということで、今回の目的だとあまり消耗はしたくないこともあって復活する前に狩りを行い復活したら休憩、再度倒されたらまた街の外へ出て、というのを繰り返す。


 数回繰り返すうちに、エイローの夜は過ぎ去っていった。


――――――――――

NAME:ナギ

 【投擲】Lv30【STR上昇】Lv17【幸運】Lv26【SPD上昇】Lv8【言語学】Lv32【視力】Lv30【】【】【】【】


 SP31


称号 ゴブリン族の友 恋に惑わされる者

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