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ナギ記  作者: 竜顔
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夜の案内人

 エイローで最も大きい建物、ホテル「ヘルオアヘブン」。中に入ると少し様相が変わっていた。これまではエントランスはただの正方形の部屋で、受付カウンターでカードを見せることで左の壁がなくなり通路が現れるという仕掛けで、人も受付カウンターにしかいなかったけど、いまは左の壁の方にガードマンのような人が二人いる。


 何人かのプレイヤーも来ていて、どうやらホテルの受付にそのカードでは出入りできないといわれている様子だ。


 この人たちが去るまでホテルの中に入るのは待つべきだろうか。と考えていたら受付の一人が私に気づき左の壁を開けてくれた。私はそのまま壁の方に行き、ガードマンに念のためカードを見せる。というのもガードマンと思われる人は見たことがない人達だったからだ。


 後ろのプレイヤー達がざわつくのを聞きながら、目立ってしまったと後悔しつつ奥へと向かう。


 広間も人であふれていた。どうやらまだプレイヤーはいないらしく、あちこちでNPCが談笑しているようだ。私はメルサさんがいないか探してみるけど、見当たらなかったので広間に入ってすぐのテーブルを陣取り椅子に座った。


「おやおやかわいらしい方がお見えで」


 腰を曲げて、杖をついて歩く白髪で白いひげが特徴のジェントルマンといった雰囲気の男性が声をかけてきた。


「えっと…」


「私のことは気になさらずに、今は何をしておられるのですか?」


「友人を待ってるんです」


 ほぅ、と老人は何か感慨深そうにうなずく。私の方も気になったことを聞いてみることにした。


「今日は広間もずいぶん人でにぎやかですが何かあったのでしょうか?」


「どうやら、カジノの話が主なようですねぇ、席、座ってもよろしいですかな?」


 ええどうぞ、っというと老人は私の向かい側の席に座る。カジノの景品が話題になっているようで、カジノに行きたい連中がカジノに出入りできる人達に自分を売りまくってるというわけだ。


「あなたもカジノに?」


「いえいえ私はただのホテルお客ですよ」


 私の質問に丁寧に答える老人。


「そろそろお時間が来たようで」


 少し話をすると老人は立ち上がり、去り際に、


「この街は欲望が渦巻いておりますが、決して溺れてはいけませんよ? では、また会いましょう」


 と言い残してエントランスの方に向かっていった。


 その老人と入れ替わるようにメルサさんがやってきた。老人がすごい人なのかもしれないと思ってメルサさんの反応をうかがったけど、普通にただすれ違うだけだったので、たいしてすごい人ではなかったのだろう。と自分の中で結論付ける。


「あ、ナギさん、待っていてくださったんですね」


 笑顔ですぐに駆けつけてくるメルサさん。連れまわしてほしい発言を私が覚えていてくれたことがうれしいようで見たことがないくらいの明るい笑顔だ。


 どうして私がホテルに来ているのが分かったのか聞いたら、受付の従業員が連絡してくれたとのこと。どうやらすでに根回ししていたようだ。


 さっそくカジノに行こう、――っとその前に


「紹介ってどうすればいいんですか?」


 紹介なんてしたことがないからよくわからないので、メルサさんに聞いてみた。メルサさんはあからさまに視線をそらして気まずそうな表情になった。


「ふ、普通にすればいいんじゃないですかね?」


「普通って?」


「…それは、その」


 結局お互いにわからないので、とりあえず行こうということでカジノに向かう。


 入口のところで男性スタッフが一人立っている。


「こちらは会員様のみご利用が可能な設備となっております、お手数ですがメンバーズカードをお見せいただいてもいいですか?」


 私は何の躊躇もなくメンバーズカードを見せる、そしてメルサさんの事情を説明する。


「ではナギ様のご紹介でメルサ様のメンバーズカードを発行させていただきます」


 簡単に発行してもらえた。しかしルールがあるらしく、一定期間の間に紹介された側が何らかの迷惑行為等を行うと紹介した側も少なからず責任を取らされるとのこと。もちろんその迷惑行為等が紹介した側の不利益目当てで行われた場合は紹介した側が責任を取らされることはないとか。


「なるほど、だから深い仲にならないと紹介してくれる人がいないんですね」


 とか言いながらメルサさんは一人で何かぶつぶつとつぶやいていた。


 今はメルサさんを連れまわすことが目的なのと、メルサさん自身遊ぶだけの大金があるわけでもないのですぐさまカジノを通り過ぎる。店内を一瞬チラッと見たとき、見覚えのあるバニーガールが一匹いた気がするけど気のせいだろう。


 そそくさと隠しの地下通路へ、そして途中の分岐路を右に曲がる。今度は女性…が一人。


「メンバーズカードの提示をお願いしまーす」


 にっこにこの笑顔で語りかけてくる女性。服装は天使だ。背中には羽の飾りをつけている。羽が生えているのではなくて、羽の飾りをつけてるだから。


 どーして天使なのか尋ねたら


「『エンジェルプレイス』っていう名前だから当たり前じゃないですか!?」


 と当然のことなのになぜ疑問に思うのか、と言わんばかりに驚かれた。


 こっちの方でも特に問題はなくメルサさんのメンバーズカードを発行してもらった。


「ナギさん、行ってみたいのですが…」


 メルサさんが申し訳なさそうな顔をしながらお願いしてくる。エンジェルプレイスが気になっているようだ。別に時間に余裕がないわけではないので、行くことにした。


「ようこそ! エンジェルプレーイスへ!!!」


 他の店員より少し豪華な服装をした天使姿の女性が両腕を空に突き上げ、うおぉぉぉ! と叫ぶようなポーズで叫ぶ。


 私は言葉を失う、メルサさんの方を見ると彼女もぽかんとしていた。


「もしもーし、反応薄いなぁ、そんなんじゃバニー・バーンっていうおばさんみたいになっちゃうよぉ?」


 なんか今知ってるような単語が聞こえた気がするけど気のせいだろう。そんなことを考えているとその天使姿は服装を正すような仕草をして、


「私はここ『エンジェルプレイス』のオーナー、『エンジェル・モーリン』だよ♡」


 今度は顎に人差し指を当て、やや首をかしげるポーズでかわいらしく自己紹介してきた。しかし私たち二人は未だにぽかんとしたままどうすればいいのか混乱している。


「私はここ「聞こえてます聞こえてます!」」


 もう一度自己紹介しようとするエンジェル・モーリンを、意識を引き戻し慌てて、止める。


「聞こえてるんなら最初から言ってよね?」


 不機嫌そうな顔をするエンジェル・モーリン、彼女は性格は全く違うけどバニー・バーンと同じにおいがする。


「えっと…」


 我に返ったメルサさんが口を開く。そしてこの「エンジェルプレイス」がどんな場所かという説明を受けている。シャングリラナイトの話になったときのメルサさんの目のキラキラはものすごいものだった。


「と、都市伝説の空中浴場に行けるんですね!?」


「まぁね、今開場してるからいけるよ」


「行きたいです!」


「そう、じゃああんたは?」


 メルサさんと会話していてモーリンが私の方を見る。「あんた」とか言っていいのか疑問に思うも口にはしない。


「私も行きます」


 メルサさんを連れてきたのは私だし、正直どんなものか気にはなるので。


「二名様ごあんなーい♡」


 エンジェル・モーリンに連れられて『シャングリラナイト』専用の脱衣場へと向かう。


――――――――――

NAME:ナギ

 【投擲】Lv30【STR上昇】Lv13【幸運】Lv26【SPD上昇】Lv2【言語学】Lv32【視力】Lv23【】【】【】【】


 SP28


称号 ゴブリン族の友 恋に惑わされる者

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