エイロー6日目:夜の宴
「ホムラー!!!」
私は絶叫する。今まさにホムラは男女に囲われ捕らわれたかと思うと、そのままどこかへ連行されそうになっている。
「チッ、いちいち叫ぶんじゃねぇよ小娘が」
「あ…」
この口が悪い人は言うまでもなくバニー・バーンだ。もうさん付けもめんどくさい。私たちはバニー・バーンの命令(?)で現在「バニードール」に来ている。
バニードールに着くや否や一瞬のうちにホムラは囲われ、連行されていった。
「今から坊やに色々と仕込む必要があるのよ」
「ひぃ! し、仕込む…ですか?」
「小娘…変な想像してないかい? そんないけない娘だったの?」
バニー・バーンによると私たちがここのところ街の外に出てないことをいいことに「バニードール」のお手伝いをさせるつもりらしい。
「わ、私は、その」
「小娘は好きなようにやっときな、バニースーツだけじゃうちのバニーちゃんにはなれないのよ」
どうやら私はお手伝いを免れたらしい。
「いい? 小娘にあげたバニースーツは…普通のバニースーツなのよ、うちのはしっぽの飾りが普通のと少し違うのよ」
何が違うのか聞いたら、トップシークレット、といわれた。一応バニードールの正式なバニースーツにはセット効果もついているとのこと。
「あ、でもカジノの方ならあのバニースーツでも手伝うくらいはできるわね」
「あ、結構です」
即答だったせいか厳つい表情で睨まれた。普通に考えてセット効果がついていようが、着る機会があろうがバニースーツは着たくない。もし着る時があるならばそれは一人で周りに誰もいないとき、かつ装備に何か問題が生じたときぐらい。
「ああ、早く夜にならないかしら」
「お客が来るのが待ち遠しいんですか?」
急に話を逸らしたバニー・バーンに安堵しつつ、恐る恐る聞いてみた。この人の場合どういった反応を示そうがケチをつけてくるのだから、どうせなら何か言って地雷を踏んだ方がましだ。と自分の精神が汚染され始めている気がするも、そこはスルーしておく。
「フフフ…これでやっとカジノに行けるのよ? 一応試運転でイベント前にやってるとはいえ、あれのためにここまでこぎつけて、なのに店の準備やらで行けなかったんだもの、イベント終了まで遊びつくわよ」
顔が下種に変わった。きりっとした顔立ちだけにあの顔はもはや魔女と言われてもしっくりくるほど、というより漫画やドラマじゃ確実に悪役の顔だ。そして同時にどれだけギャンブル好きなんだかと呆れてしまった。
私が呆れているのに気付いたようではあったけど、何も言わずに(初めてケチをつけられなかった)下種の顔をしたまま店の奥に去って行った。
私は暇になってしまった。でも、もしかしたらこれは好都合かもしれない。夜になるとモンスターの種類なんかも変わると言われてるし、ホムラは気になっているだろうけど私に気遣って何も言わないだろうし、私は外に出たくないけどホムラに気を遣わせるのは申し訳ない。
こうやって引き離されれば何も考えずに済みそうだし、とか考えながらふらりと街をさまよう。
しかし、夜はホムラがいない単独行動となると何をしようか迷うのも事実。メルサさんを連れまわすのもいいけど何も言わなかったからどうなるかわからないし、カジノの景品の準備が終わるのは夜になってからだそうだ。この際、景品がどんなものか見に行くのもいいかも。
『ナギ、こっちは拘束時間が長そうだ、用がないならログアウトしてもいいからな』
『わかった』
ホムラの声を聴いて少し安堵する。忙しすぎて会話もできないとかだと、好き勝手に行動していいか悩むところだった。ホムラなら許してくれるだろうけど極力その辺は了解を得てやりたかった。特にジェットさんとのことの後はホムラに迷惑かけてる気がして少しでも迷惑かけたくはなかった。
ホムラに言われたように私は部屋に戻りログアウトした。
18:00になるのを確認してログイン――
「ナギ、来たのか」
自室から出るとホムラが椅子に腰かけていた。
「お店の方はいいの?」
「今から行かなきゃいけないけどな」
私が来るまで待機していいと言われて待機中だったらしい。それで私も手伝えとか言われるのかと思ったらそうでもないとか。
なんでもバニー・バーンはさすが運営の人間というべきかここ数日私の身に何が起こったかというのを知っているらしい。
ホムラを手伝わせて外へ出るという選択肢を消したり、私のことを少し気を遣ってくれてるのかと思ったら、めちゃくちゃ面白がってるようで一瞬でもいい人なのかもと思った私がバカみたいだ。
――あのババア、他人事だと思って楽しみやがって!
ブラックになるのも…ご愛嬌ですよね? 一通りホムラのこの後のことを聞きながらロビーへ、ロビーからバニードールへと向かう。
ホムラの話によるとランクの低いメンバーズカードならすでに手に入れている人もいるらしく、掲示板等でその手の情報も出回っているため、夜にしか行けない店が開放されることで一気に上のランクのカードを持つプレイヤーも増えるだろうとのこと。
もっともホテルからが難しくなるはずで、私たちもよっぽどのことがない限りカジノ以降に行けることをプレイヤーに教えない方がいいだろうということで、案内するならメルサさんだけ、ということになった。
そして同時にホテルへ行くときはカジノから行くことは控える。カジノへ行くときはホテルから入らない。ということになった。もちろんメルサさんを案内するときはそうせざるを得ないのでどうしようもないけど。
バニードールの店の前では男性スタッフが待ち構えていて、一応メンバーズカードの提示を求められた。
店内は以前カーテンで隠れていたステージがその姿を現し、ステージ上ではバンドの演奏が行われ、いい雰囲気で開店前より大人な雰囲気を感じるバーとなっている。当然客の姿も見えて、恰幅のいい男性やその付き人と思われる女性、他にもセレブな女性から歴戦の猛者のような風貌をした人やら多様な人々が食事や音楽、会話などを楽しんでいた。
「じゃあ、俺は今からこの店の手伝いをしなくちゃいけないから」
「うん、わかった」
そういうとホムラはカウンターの裏へ入っていった。あたりを見回せばこの店の店員たちがせっせと仕事をしている。女性はもちろんバニースーツだ。しかし、バニー・バーンの姿が見えない。
「あの、すいません」
「はい、なんでしょうか?」
近くの男性店員――女性店員にはなんか声をかけづらいので――に声をかける。
「バニー・バーンさんが見当たらない気がするんですが」
「バーン様は開店と同時にカジノの方に行かれましたが、急ぎでないならわたくしが伝言を承りますが」
店の責任者がそれでいいのかよ! とつい突っ込んでしまうところだった。
「あ、いえ、別に用があるわけではないので」
そういって私は店を後にして宿のロビーのほうに出る。
「うわぁ…」
宿から外に出ると、そこには走り回るプレイヤーの姿があった。こんなにプレイヤーっていたっけ? て思うほどの数だ。
すっかり夜になったエイローの景色を楽しむこともなく、私は人をかき分けながらメルサさんがいるかもしれないホテル「ヘルオアヘブン」に向かった。
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NAME:ナギ
【投擲】Lv30【STR上昇】Lv13【幸運】Lv26【SPD上昇】Lv2【言語学】Lv32【視力】Lv23【】【】【】【】
SP28
称号 ゴブリン族の友 恋に惑わされる者




