エイロー6日目:メルサの行動
「あ、渚、お母さん今日出かけるから、お昼は自分でしてね」
「うん、わかった」
朝目が覚めるとお母さんがバタバタしていた。友人とでも出かけるのだろうか。朝ご飯は用意されていたのでそれを食べる。
ログインしよう。
――エイローにて6日目。ログインするとメッセージがきていたので開く。
<エイローの夜について:From運営管理者>
イベントにおける夜の日について説明いたします。
お時間の都合等を考え本日6日目の18:00~明日7日目の18:00までの24時間を夜の日といたします。
夜においては特別なモンスターや強力なボスモンスターが出現いたします。
また、エイローの街でも夜にしか行けない特別な施設も解放されます。
そして18:00より本格的に特別ミッション『夜を舞う蝶』が開始されます。
『夜を舞う蝶』
メンバーズカードを手に入れ、夜にしか利用できない施設を活かしメンバーズカードをランクアップさせよう。最高ランク【バニードール】で上位へ一発逆転のチャンス。是非挑戦してみてください。
では引き続きイベントをお楽しみください。
メンバーズカードが誰でも手に入るってこういうことだったのか。でもこの『夜の蝶』は私たちには関係ない話かな。もう最高ランク持っちゃってるし。
昨日はホムラが夕方からだったので午前中は一人でヘルオアヘブンのお手伝い、夕方からはホムラと街でできるクエストをやっていた。
昨日はジェットさんに会わなかった。まぁ会わないようにホテルに籠ろうとしてたんだけど。ジェットさん大丈夫かな。
そういえば知らないうちに新しい称号を手に入れていた。称号の中にはステータスに影響を与えたり、新しいスキルが開放されるといった特典がある称号があるらしく、それらは取得する条件が難しいので「レア称号」とかいわれて、それによって取得できるようになるスキルを「称号スキル」と呼ぶそうだ。
私の称号の、【ゴブリン族の友】は特にステータスに影響はないみたいだけど、スキル【ゴブリン見習い】は称号の影響によるものだと思う。
そして新しい称号の【恋に惑わされし者】の効果は
称号:恋に惑わされし者
人に恋され、人に恋し、溺れる者に与えられる称号。
効果
・魅了系の状態異常の技の標的になりやすくなる。
・魅了系の状態異常の技に耐性が持てなくなる。
・魅了系の状態異常の技の耐性を無視して魅了状態にできる。
方向性を間違えそうな能力だ。そもそも魅了系の技なんか覚えてないし。レア称号にもこんな無駄なものがあるとは思わなかった。
「お、もう来てたのか、早いな」
ホムラが自室から現れる。そして二人で外に出て酒場に向けて街を歩く。
「ん?」
「どうしたの?」
ホムラの声に反応してそちらを見ると、誰かとコールで会話しているようだった。
「渚、秋人がお母さんがいないって言ってるぞ?」
ホムラが現実の名前で呼ぶときは現実に関係する話をする時だ。
「今日お母さんは出かけるって言ってた、お兄ちゃんがいつまでもたっても起きないから」
「飯はどこだ、らしいが」
「自分で探して食べれば? って言っといて」
「わかった」
一通り話が終わったのか、私の方を向いて優しい表情を向けてくる。
「どうかしたの?」
「いや、別に」
そういいながら頭をポンとしてきた。何かあるんだろうけど深く聞かないことにした。
酒場の掲示板にはほとんど討伐依頼しか無くなっていた。あまり戦闘に出たくない私は結局ヘルオアヘブンの手伝いをしたいということでホテルに向かうことになった。
「あら、ナギさん、また来たんですか?」
珍しくメルサさんが入り口のカウンターに立っていた。といっても受付側ではなく、ゲスト側。そしていつもの水色のメイド服の格好ではなく、普通の町娘みたいな服装をしている。
「メルサさんどうしたんですか?」
「えっと、今日はお休みをいただいて、ですが探し物があってここにないか聞きに来ていて」
NPCにも休みという概念があるのかと驚いたけど、問題はそこではなく私に用事があるということだけど。
「探し物、ですか?」
「はい」
メルサさんは満面の笑みを浮かべる。彼女がここまで行動力を発揮するものはおそらく「アレ」しかないのだけど、私に何かできることがあったかな。その私の表情を読んでかメルサさんは昨日聞いた話で聞きたいことがあるとのことだ。
「あっそういえば、ナギさんは昨日欲望の果実を持ってるって言ってましたよね?」
「ええ、まぁ」
昨日ホテルの手伝いをしているときに、ホテルに顔を出していない間に何をしていたかあの事件のことは避けてあらかた話していた。そして、クエストのことも。
一応ホムラが倒したニヤットレントのドロップである「金のなる木の種」と両方売るのを忘れていたため、今私のイベントリの中に入っている。
「それをくださいませんか? あ、もちろんタダというわけにはいきませんが」
「ええ、いいですよ、何個あればいいですか?」
「一つでいいです、あと金のなる木の種も…だめですか?」
もちろん断る理由はない。彼女は私にできた最初のNPCの友人なんだもの、ホテルでお世話になった分は返さなければならない。
そうして、メルサさんに欲望の果実と金のなる木の種を売渡し私は聞く。
「どうしてこんなものを売ってほしいと?」
「はい、私もやっとホテルのメンバーズカードの手前まで来たんですよ、そして今そこのオーナーさんが欲望の果実をメニューに加えたいからと探しているんだそうですが市場の物も買い漁られているそうで」
だから欲望の果実を持っていく代わりにホテルのカードを要求し、あと自分が持っていくまで他人から受け取らないということを約束したんだとか。
以前ホテルのカードを手に入れたら連れまわしてほしいと言われたけど、どうやらイベント期間中に達成できそうだ。
嬉しそうに去って行ったメルサさんを見送りながら、ホテルのスタッフにお手伝いをしたいと告げると大喜びしてくれた。なんでも今日の18:00からカジノで景品がもらえるようになるらしく、その準備で人手が足りないそうだ。
制服に着替えてスタッフルームに向かう。その途中ホムラが何か考え込んでいるので聞いてみる。
「どうしたの?」
「いや、さっきのNPCの女の子、なんかおかしいと思ってな」
ホムラは何か気になることがあるみたいだけど、何か変なところがあったかな。ただ夜が来る日にあわせて休みを取っただけだと思うし、今日からメンバーズカード関連でプレイヤーが動かされることは関係ないはず。
――あっ
常に昼という状況がこの街の人にとってどんな状況かよくわからないけど、私たちと同じ日時を経過していることは間違いないと思う。しかしそうだとするとこの期間中にメンバーズカードをランクアップさせていっているメルサさんはおかしいかもしれない。何故ならそういった店の中には夜しか開いていない店もあるからだ。
だとするとNPCは私たちの知らないところで夜の時間を過ごしているか、昼でもメンバーズカードをランクアップさせる術を持っているのかもしれない。特にメルサさんは「バニードール」に続く地下通路の存在を知っていたりするような人だからその術も知っていて不思議じゃない…かな。
ホテルで言われたお手伝いは、結局部屋の清掃だった。カジノ景品が少し気になっていただけに少し残念な気持ちでもある。
ホテルの手伝いを終えるとバニー・バーンさんから「来い」と連絡があったため地下通路を使い急いでバニードールに向かった。
――――――――――
NAME:ナギ
【投擲】Lv30【STR上昇】Lv13【幸運】Lv26【SPD上昇】Lv2【言語学】Lv32【視力】Lv23【】【】【】【】
SP28
称号 ゴブリン族の友 恋に惑わされる者




