新米と指導者
外に出てすぐにお互いの自己紹介をした。男性の名前は「ジェット」というらしい。ジェットさんが私をつけてたのはかわいいからだけじゃなく――怪しいけど――投擲スキルを使うからだそうだ。ジェットさん自身も投擲をメインにしたプレイヤーらしく、投擲メインの新人に興味を持って観察していたとのこと。
「ところでナギちゃん、あんまり他人には教えないほうがいいんだけど、今のナギちゃんのスキル構成はどうなってるの?」
「・・・・」
「うん、ナギちゃんの俺への信頼度が限りなく0に近いことを忘れてたよ」
そりゃもういろいろと、ストーカーされたことより、迷子の時も温かく見守って何もしてくれなかったこととかがね。あと、さっきもセクハラまがいのことさらっとしてたしね。――助けてくれたので事を大きくするつもりはありませんが。
「投擲のLvが7ってことは枠が5個解放されてるはずだよね?」
「でもまだ3枠しか使ってないです」
「そうか、じゃあ投擲と幸運、あと一つは?」
――ええっ!? なんで幸運つけてるってわかるの!? ――と思っていたら、どうやら光の粒子が胸に吸収されていくのはレア素材が手に入ったりして幸運のスキルに経験値がたまってる時のエフェクトなんだって。
あとひとつのスキルはSTR補正と伝えると、ふと真剣な顔をして考えこみ
「ナギちゃんはよくゲームを「しないです」――よね? じゃあ兄弟とかいるの?」
「はい、お兄ちゃんが一人いて、お兄ちゃんもこのゲームをやってます」
おにいちゃん・・・だと、とジェットさんの表情が険しくなる。何かまずかったかな、と思ったので
「でも、誘ってきたのは友達で・・・まぁ、今頃新エリアで彼氏とよろしくやって、私のことは放置ですけどねぇ」
後半若干ダークな部分が出てしまったと焦るが、ジェットさんはVRメットのお金とかのことを考えてか、私がいじめにあってるんじゃないかと心配してくれた。VRメットは誕生日にプレゼントしてもらったことを話すと、ほっとした表情になり、ナギちゃんの現実での大切な人たちを疑ってすまなかった、と言われてしまった。
いろいろ聞いてきたのは、投擲スキルとSTRの相性の良さをしっかり押さえていたからとのこと。観察してる限りそういうのに疎いと思っていただけに、誰かアドバイスする存在がいると思ったと。
「さあ、あれが今から狩る相手だよ」
そういってジェットさんが指さすほうを見ると、5匹の兎モンスターの集団がいた。1匹の周りを4匹が囲むようにしている。
周りを囲っているモンスターは「ウサギッチ」というモンスターでパッとイメージできる兎より一回りくらい大きい。それよりさらに一回り大きい、というよりまるまると太った真ん中にいるモンスターは「ラビッチョ」というモンスターのようだ。
第一エリアにいるモンスターはノンアクティブモンスターなので、こちらから攻撃しない限り襲ってくることはない、ただし、ウサギッチはリンクモンスターで、一匹を攻撃するとラビッチョとその周りのウサギッチで一斉に襲い掛かってくるのでうかつに手を出してはダメらしい。
解決策はラビッチョを先に倒すこと。ラビッチョはリンクしないので攻撃しても取り巻きは一切動かない。そしてラビッチョを倒すと取り巻きは散開し、リンクしなくなるとのこと。
「じゃあ、はいこれ、今のナギちゃんなら二発で倒せるよ」
そういってジェットさんはダガーを渡してくれた。驚いていると、露店でのことはストーカーしたお詫び、ダガーは迷子の時助けてあげなかったお詫びというので素直に受け取る。
【ダガー】
武器カテゴリー:ダガー
ATK+5(STR依存)
普通のダガー。ちょっとした剥ぎ取りや軟らかいものを切ることはできる。
このとき、レンタルでもいいからブーメランのほうが・・・といったら、まだ早い、と一蹴された。
気を取り直してまずラビッチョに狙いを定め、ウサギッチに当たらないように慎重にそぉ~っと投げた。ちゃんとラビッチョに命中した。ラビッチョは取り巻きを――太った見た目からは想像できないけど――飛び越えてこちらに突進してくる。そこですかさず二発目を、しかしまだ倒せない、攻撃を受けた後の停止時間が短く、一瞬パニックになっているうちに一気に間合いを詰められる――自分の懐めがけて飛び込んできたところに三発目を投げ込みやっと倒した。
聞いた話と違う! と思ってジェットさんの方を向くと優しく微笑みながら
「一発目慎重になりすぎだよ、あれじゃあ二発で倒せる相手も倒せなくなるよ」
どうやら一本余分に使ってしまったらしい。――ウサギッチにビビっちゃダメですか。
「さあ、取り巻きが散開したよ、あそこのやつを倒そう」
ジェットさんが指さしたウサギッチに一発目を今度はしっかりと投げる、途端にこっちに突進してくる――結構速い!――間合いを詰められる前に二発目を投げるとウサギッチは倒れていった。それにしても――
「うーん」
「どうかした?」
「攻撃してもたいして動きを止めないなぁって・・・」
確かにウサギッチはプニットに比べて素早い、ただラビッチョの方はプニットと同じぐらいに感じた。ただ、両兎とも攻撃を受けてもほとんど動きを止めることなく突っ込んでくる、ラビッチョの時はおかげでピンチになったし。
「まあ、そういうもんだ、というかナギちゃんもそういうこと考えて戦ってるんだ、感心感心」
なんか今軽く悪口をいわれたような・・・。
ジェットさん曰く、プニットはHPこそ少ないが防御力が高く最初は4、5発攻撃しないと倒せない設計で、その代り攻撃を受けた後の停止時間が長く一方的に殴り続けられるようになっているらしい。なんでも初心者に攻撃に慣れさせるためだとか。ラビッチョは動く敵と普通に戦えるようになるための練習台、ウサギッチは素早い相手に、きちんと攻撃を当てて、時に回避できるようになるための練習台と同時に、調子に乗って考えなしに攻撃することへの注意喚起ともなっているんだとか。
第一エリアの敵をスキルに頼ることがなくても一人で難なく倒せるようになったら、戦闘での基本的な動きをマスターしたといってもいいとのこと。
「プニットのHP15、ウサギッチは20、ラビッチョは30、でも防御力の関係で倒せる攻撃回数はほぼ同じ、そのうえ兎たちの方がレベルが上がりやすい、露店に行く前のプニットと合わせてレベルが上がってると思うけど」
そういわれたので確認すると、8に上がっていた。
「プニットより隙の小さい相手に20回も30回も攻撃したくなんかないだろ? 見てる感じナギちゃんはそういったことを面倒くさがるでしょ?」
確かにそれは苦行。
「石ころを一応ある程度の数持っておくことはいいかもしれないが5Gも払って積極的に入手するほどじゃない、さ、続けようか、またすぐ投擲のレベルが上がると思うよ」
こうしてしばらく兎狩りを行った。時々投擲スキルLv5のときに習得したアーツ(技)パワースローを使ったりした、このアーツはダガーだと貫通力が増して複数同時に倒せたり、刺さらなくても吹き飛ばしたり、名前にふさわしく猛々しいアーツだ。――うっかり標的のそばにいた兎集団に当たって一斉に襲い掛かってこられるというのが一度だけあった。ジェットさんが片づけてくれたけど若干トラウマに。
兎の皮が集まっただろ? とジェットさんと街に帰還。左側にある露店群の一角で足を止め
「集めた兎の皮で防具を作ってもらう、この辺には革職人が集まってみたいだから、ナギちゃんが好きなところに行けばいいよ、贔屓の職人さんを見つけるのは大事なことだよ」
そうジェットさんに言われるも、どこにしたらいいのか、と迷っていると
「お、ジェットじゃねぇか!」
とジェットさんを呼ぶ声がしたので、その革職人のもとへ。その姿を見てジェットさんは少しあきれたような様子でついてきた。
――――――――――
NAME:ナギ
【投擲】:Lv9 【STR補正】:Lv6 【幸運】:Lv3 【】 【】 【】
SP10