右の森
累計ユニークが一万を超えました。
エイローを出て右の森に入る。
この森のモンスターは植物系で、雑魚モンスターは二種類、それぞれアクティブモンスターということらしい。そのうちの一種「ニヤットレント」。トレント種のモンスターで木の姿をしたモンスター、広葉樹であり、さながら大きなブロッコリーだ。木の幹には顔があり「ニヤッ」とした表情だ。
「なんかいやらしい顔ですね」
「名前通りってところだね、気を付けないと股とか胸に攻撃してくるらしいから」
ニヤットレントの顔(?)の横から葉っぱのない枝が左右に二つ、手のようについている。高さは人間の胸ぐらいだけど、枝を伸び縮みさせて胸や股のあたり、股間も平然と狙ってくるらしい。葉っぱの付いている枝は伸び縮みしないとはいえ近づけば攻撃してくるとのこと。
あと、ジェットさんによるとセクハラともいえる攻撃の正当な理由づけとしてか、枝で心臓を突くという攻撃もしてくるらしいので軽装な私は注意するように、とのこと。また、ホムラの装備では逆にその枝が弾かれ哀れに見えるはずだから、その時は早く楽にしてあげようとか言っていた。
「……で、あれって擬態しているんですか?」
「…さあ? 俺達もこっちの森は初めてだから」
トレント種は、顔(?)がある奴もない奴もいる、しかしたとえ顔(?)があっても非戦闘時は木に擬態するため見えないようにするはずなんだけど、ニヤットレントはそのいやらしい「ニヤッ」とした表情がそのまま見えている。よっぽどのことがない限り、一方的に襲われることはなさそう。
「他にこの森にいるモンスターは?」
「キノミンエイロー」
どこかで聞いたことがあるけどなんか違う。と思うけど一応確認する。
「キノミンイエロー?」
「違うよ、キノミン…エイロー」
ジェットさんが丁寧に教えてくれる。一瞬私の頭によぎったのは第四エリアに出現する黄色い木の実のモンスターだ。文字を並べ替えただけという紛らわしい名前の持ち主だ。
キノミンイエローはその名の通り黄色い木の実で柑橘系の果物を連想させる。しかしジェットさんによるとキノミンエイローは梨のような色合いをしたモンスターだそうだ。
「特徴は?」
「頭に当たると厄介らしい」
「厄介、ですか?」
「聞いた話じゃ、精神系の状態以上にかかるらしい」
精神系…と聞いて思い出すは、バトルハッピーになったときのことだった。
「どっちも油断しなければナギでも大したことはないみたいだ」
若干顔が引きつっていた私を安心させるためかホムラがフォローを入れる。
今回受けたクエストは、キノミンエイローがドロップする「欲望の果実」とニヤットレントがドロップする「金のなる木の種」を指定のNPCに渡すというクエスト。どちらのドロップ品もクエスト用のアイテムで、レアドロップらしい。【幸運】持ちの私には大した問題ではなさそう。
一つのPTでそれぞれ一つずつ持っていかなければならず、パートナーで別の物を所持しなければならないめんどくさいクエストで、クエスト用アイテムは捨てることやNPCに売ることはできるけど、トレード不可。そして報酬もイマイチ…まぁだからポイントが高いんじゃないかといって受けたわけだけど。
クエストの特性もあって、四人で動くよりペアを入れ替えて二人行動の方が効率がいいと、ホムラとスカイさん、私とジェットさんの組み合わせになった。
「ジェット、変なことするなよ?」
「あ、当たり前だろ、ちゃんとエスコートするから」
スカイさんから釘を刺され慌てるジェットさん。なぜこの組み合わせになったかって? 元々のペアでグーとパーに別れた結果だ。
「じゃあ俺たちがトレント、お前たちがキノミンでいいな?」
「了解(うん)」
PTを組んでいるからかなり遠くに離れない限りドロップは手に入る、森の中にいれば問題はないはず。まずは別れて狩りをし、状況によって四人で動く手筈となっている。
私たちはキノミンエイローを探す。
「ニヤットレントも後ろ向きだと一応擬態できてるんですね」
「…そうだね」
心なしかジェットさんが緊張しているように感じる。最近二人きりで行動する機会が少なかったからかもしれない。
「ナギちゃん、あれを見て」
そういわれてジェットさんが指さす方を見る。梨のような色をした木の実が並ぶように二つ実っているのを発見した。
「俺が右のやつに当てるからナギちゃんは左の方をお願い」
「わかりました」
ちょうど二つでよかった。もし三つ以上あったらアーツを使わなければ先制に失敗していたことだろう。そして私とジェットさんは息を合わせてほとんど同時に投げた。
「えっ?」
両方ともキノミンだった。ドサッと地面に落ちると、何もなかった木の実に目と口が現れ、飛び跳ねながらこちらに向かってくる。一瞬戸惑ったのもつかの間、ジェットさんがもう一発、私はもう二発攻撃することでキノミンは消えた。
――そして
「ナギちゃん、今…」
「…はい、ジェ、ジェットさんは一つも?」
今倒した2体のキノミンから放たれた二つの光の粒子が私の中に吸い込まれていった。
「えっと…複数手に入ったとか?」
「はい」
「ナギちゃんにとっては超簡単なクエストかもね…」
呆れながらに言うジェットさん、言うまでもなく「欲望の果実」のこと。
「まぁ、頑張ろう」
「はい」
もしかしたら私にとっては稼ぐチャンスかもしれない。このクエストの元々の稼ぎは少なくても大量に余ったクエスト用アイテムを売りつければ、十分苦労に見合った稼ぎになると思う。そう思うと少しうきうきしてきた。
「――まだ、ですか?」
「ああ、それ以上言わないで悲しくなるから」
あれから10体以上のキノミンを狩った。どうやらこの森になる木の実はキノミンエイローしかいないらしく、木の実を見つけるたびにそれはキノミンだった。
そしてあれからジェットさんはまだ「欲望の果実」を手に入れていない。ホムラたちもクエストアイテムが手に入らないそうだ。ちなみに私は5個くらい手に入れている。
「お、また固まっているな」
5個の木の実、おそらく全てキノミンエイロー。戦ってみて気づいたのが、「キノミンイエロー」と比べるとエイローの方が少し小さい。「黄色の木の実」がバスケットボールくらいなら、「エイローの木の実」はバレーボールくらいだろうか。
ジェットさんが3体、私が2体を受け持ち戦闘を始める。ジェットさんは紙飛行機のアーツで一瞬にして2体ぐらい消し去る。私も攻撃していない方のキノミンの攻撃をかわしながら一体ずつ順に倒していく。
「お、まただ」
お次は3体のキノミン、私が1、ジェットさんが2を相手に――
「きたぁぁぁぁぁ!」
ジェットさんの絶叫が聞こえる。音を聞いてるともう1体残ってるみたいだ。私の方は目の前のキノミンに集中。ほどなくして倒した。…
「あっ」
「――イタッ!」
「ごめんナギちゃん」
私の頭に何かが当たる。よく見るとそれはキノミンだった。一応味方からの攻撃判定ということでダメージは受けていないみたいで、私のHPは減ってない。私はパッと後ろを振り返る。
「いや、アイテム手に入ったから、さっきキノミンが投げれるか気になったのを実践したんだけど、位置を確認してなくて…」
アイテムが手に入る前にやったらふざけてると怒られると思って、とジェットさんはばつが悪そうな表情をしながら両手を合わせ「ごめん」のポーズをしている。
「――ジェットさん♡」
私の口から今まで発したことがないくらいの甘ったるい声が出てきた気がする。そしてここで私の意識が途絶えた。
――そしてその日、ジェットさんは死んだ。
あっいや、そんな深刻な意味じゃなくて…多分。
――――――――――
NAME:ナギ
【投擲】Lv30【STR上昇】Lv10【幸運】Lv26【SPD補正】Lv30【言語学】Lv32【視力】Lv23【】【】【】【】
SP32
称号 ゴブリン族の友 恋に惑わされる者
状態異常:心酔【魅了Lv3】




