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ナギ記  作者: 竜顔
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エースの心得

 テツさんが投げたボールでバッファ朗の動きが鈍っているうちに、それぞれが配置につく。


「いつでもいいぞ!」


 ホムラの言葉にジェットさんは視線誘導で、逆方向に向かせる。タイミングは間一髪というところだった。


 完全にホムラ達の方向を向くわけではないのでホムラが攻撃し、顔ガードでホムラ達の方向を向かせる。ダグラスさんが挑発をかけた後他のメンバーも攻撃を再開。バッファ朗が攻撃態勢に入ったのを見てダグラスさんが盾を構える。


 ダグラスさんのパリィで弾かれ、バッファ朗の体勢が崩れる。そこにホムラが前に出てきて斧を叩き込む。


 本日三度目のダウン、そして


「よーしお前ら上出来だ、最後は【ドロップ】」


 エースさんが投げ上げたボールはバッファ朗の頭のあたりに当たると、轟音を轟かせ、バッファ朗はよろめくような動作を見せながら消えていった。やっとバッファ朗を倒した。


「ふぅ」


 緊張から解放され私はその場に座り込んだ。そこに一番近くにいたテツさんが真っ先に駆け寄ってくる。


「マネージャーお疲れ様っす、あとここでは大丈夫っすけど終わってすぐ座り込むのはよくないっすよ」


「そうだぞナギ、アクティブのいるエリアだったらどうする」


 テツさんの忠告に賛同しながらホムラも近づいてくる。というより座り込んだのは私だけで、みんな私のもとに駆け寄ってくる。…なんだか恥ずかしい。


「「エースさん、かっこよかったです!」」


 全員が集まってきたあたりで、双子のミリィさんとリリィさんが目をキラキラさせながらエースさんに近づく。


 確かにエースさんはかっこよかった。適切なタイミングで的確な指示をだし、戦闘をうまくコントロールし、要所は自分で決めてみせる姿は、マウンドにそびえ立ち、ピンチにも動ぜず点を与えない、その上見方を鼓舞しチームに勝利をもたらすエースピッチャーを彷彿とさせるものだった。


 私はてっきり周りに指示を出すような役割はホムラかジェットさんがやるもんだと思っていただけに、意外に思うのと同時に見た目でネタキャラだと思って申し訳ない気持ちだ。


「双子さんもそう思うっすか! やっぱりエースさんはかっこいいっすよね!」


「テツ!」


「はい、すいません……」


 双子の二人と同様に目をキラキラさせてその輪に入っていったテツさんはエースさんの一言でしょんぼりした。どうやら説教が行われているらしい。エースさんの投げミスは確認できなかったけど、テツさんは数回あらぬ方に投げてた、聞こえる説教はそういった内容のようだ。


「いやぁ、最初エースさんを見たときは変な人だと思ってたんですけど…とっても頼りになる人ですね」


「そうだな」


 ダグラスさんの言葉にホムラも同意する。


「どうかしたのか? ナギ」


「ん、あたしはてっきりああやって指示を出すのはホムラかジェットさんだと思ってたから意外だなぁというかそんな感じ」


 私の発言を聞いて、言われた二人はお互いに見合った後、それぞれ普段そういった役回りをしたことがなかった、とのこと。


「ところで、エースに聞きたいことがあるんだが」


「ん? なんだ?」


「あの跳んだ技はなんだ?」


 ホムラの質問はあの跳躍に関してだった。あれは下手したらダグラスさんとレイさんがいなくなってたかもしれない。


「あれか、あれはジャンプの後の攻撃まで含めて一つのアーツみたいだな、ブレイクも蹴りまでで一つだったからそれと同じだな」


「ブレイクと蹴りに、盾を飛び越えて盾とその後ろに攻撃するアーツ、か…タンカー殺しだな」


 ホムラのその言葉にダグラスさんは、このPTに入れてもらえた俺達ってラッキーだったんですね、と言って額に手を当て汗をぬぐうようなしぐさをしていた。


「おいエース、お前バッファ朗は結構倒したって言ってなかったか? その割にはブレイクにしてもジャンプにしても予想外って感じだったけど」


 ジェットさんがエースさんに詰め寄る、てかさらっとすごいことを言ったような気もするけど口は挟まない。


「あはは、今までタンカー連れて戦ったことがなかったからな」


 牛系モンスターは顔でガードさせれば動きを封じられるし、バッファ朗は受け流すことも弾くこともカウンターしてくることもないから、と笑顔で話すエースさんにジェットさんは呆れた様子だった。


 その話の最中私はテツさんに、バッファ朗の動きが鈍ったあのボールについて質問していた。あれはアーツ【カーブ】で攻撃行動のフィニッシュまで動きを遅くさせるらしい。投げること自体は簡単で狙った所から外れたりあらぬ方へ行ってしまうことも少ないらしいけど、動きを鈍らせる効果を発揮させるには攻撃行動中に当てなければならず、球速が遅いのでなかなか使うタイミングが難しいみたい。


「あの、ドロップが四つあるんですけど、クエストで一つ増えるのは知ってますけど、どういうことかわかりますか?」


 アイテムを確認していたらしいレイさんの言葉にみんなが一斉にアイテムイベントリを開きドロップを確認する。私も四つある。


「それか、それは俺の【ドロップ】の効果だ」


 【ドロップ】はそのアーツでとどめを刺した際にドロップアイテムが+1されるという効果があるらしい。エースさんはここでも素敵だ。にしてもどうしてとどめが刺せると分かったんだろうか?


「何をやってくるかわかっているから…そういうことだよな?」


 ホムラはからくりが分かっているらしい。


「ああ、【観察眼】スキル持ちだ」


「ボスのHPが見えるほどLvが高いってすごいですね!」


 エースさんの回答にダグラスさんが驚いた表情を見せている。格好からしてエースさんは大して強い人には見えないかもしれないし、戦い終わって実力があるとわかってもダグラスさんはそこまですごい人と思わなかったらしい。


 でも私は戦い終えた後エースさんに対する評価は変わったからスキルのLvが高くても、ホムラなんかもすごいんだろうし、と驚かなかった。私の予想では、ホムラが最高の斧使いだとすると、おそらくエースさんは最高の投擲プレイヤーだ。その理由は癖が強くて扱いづらいとジェットさんが言っていたボールをあれだけ使いこなせていたからだ。


 いくら相手の行動が読めるからといっても、攻撃のタイミングが絶妙で、特に【スライダー】なんかすごかった。


 スライダーは、盾を構えて発動する【パリィ】のようにクールタイムが長くなる代わりに発動したまま敵の攻撃を待つということはできず、攻撃の瞬間に投げたボールが当たらなければ効果を発揮しないという高難易度のアーツだ。


 あくまでテツさんの説明だけど、もし本当ならそれを見事に成功させるエースさんはただものじゃない。だから私の見立てではジェットさんよりエースさんの方がすごい人、という認識になっている。


「「【ドロップ】は高威力の技じゃない、にしてはすごい威力が出てませんでした?」」


 双子の質問にエースさんは私の方に顔を向ける。


「だそうだスコアラー」


 エースさんは私をスコアラーと呼ぶらしい。コンビで呼び方は統一してほしいんですけど。


「ボールが高性能ってことですか」


「正解だ」


 といって親指を立てるエースさん。


「――にしてもそこまでぺらぺら情報をしゃべっていいのか?」


「研究されてなお期待以上の活躍をしてこそ、真のエースなんだぜ」


「「「きゃぁぁぁ!」」」


 ホムラの質問にエースさんは白い歯を輝かせながら答え、女性陣の黄色い声援。私は声を出しそびれたけど気持ちは女性陣と同じだ。そして、ここまで「エースピッチャー」というロールに徹するエースさんはかっこよく、尊敬してしまうほどだった。おまけに高身長のイケメンだし。


 それを見て苦笑いする男性陣。あっ、テツさんは誇らしげだった。


――――――――――

NAME:ナギ

 【投擲】Lv30【STR上昇】Lv10【幸運】Lv24【SPD補正】Lv30【言語学】Lv32【視力】Lv19【】【】【】【】


 SP30


称号 ゴブリン族の友

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