投げるもの
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彼らによるとその強い人はタンカーで、ヒーラーと一緒に組んでいたらしい。そして1PTほどの人数でもまともに渡り合えていたとのこと。しかし、一瞬の隙を突かれタンカーが吹き飛ばされ、それに戸惑って四人が動きを止めてしまっている間にヒーラーが回復魔法を使ったためバッファ朗に狙われて…タンカーもろとも消えてしまったそうだ。
「うげぇ、最悪じゃん」
スカイさんは苦い表情になる。
「…タンカーとヒーラーってこのイベントじゃいい組み合わせと思ってたけど、最悪の組み合わせでもあるってことか」
ジェットさんは感心している。二人でPTを組むこのイベントでは、二人で行動する場合タンカーとヒーラーの役割を考えると最高に思える。
そしてPT単位で考えた場合も絶対に死んでほしくない存在が相互補助的に守りあえるのでいいように思う、けど裏を返せば一塊になっているので、もしもの時には絶対に死んでほしくない存在が同時に二つも消えてしまうことになる。
この四人は運悪くそういう状況に陥ってしまったというわけだ。
「本当にありがとうございます、俺たちはクエストのアイテムが手に入ればいいのでドロップ品はいりません、だからお礼に受け取ってください、えっと…一つにまとめて渡した方がいいですか?」
「いや、安定して戦えてたというのは本当だろうし、俺達もドロップはあるからこれでいい、どうしても分けたいならその娘にやってくれ」
四人の申し出にホムラはそういって私の方を見る。
「俺達もいらない」
ジェットさんとスカイさんもそう答える。
「じゃあ私もいりま「お前はもらっておけ」――え?」
そのやり取りを見て、えっと、と四人は戸惑っている。
「じゃあその娘に一人一つずつで、いいだろ?」
「ええ、むしろ半分もらえるだけでありがたいです」
そういって私はそれぞれから一つずつドロップ品をもらった。ちなみにボスは倒すとドロップ品が二つ、必ず手に入る。だから私はバッファ朗素材が6個手に入ったことになる。
「ほんとによかったの?」
四人が去ってからホムラの方を向き尋ねる。
「ああ、そんなにくれるっていうならナギのドロップをもらってやる、【幸運】が発動しているのが見えたぞ」
最近では慣れてしまって特に気にもしなくなった光の粒子が胸に入るという現象は今回も起こっていた。
私は慌てて「あげないから!」といっておいた。そして私の周りにみんなが座る。そこでジェットさんが投げていた「何か」について質問する。
「そういえばジェットさんが投げてたのって…紙飛行機です、よね?」
自分で言いながら、もし間違ってたらバカなことを言ってると思われるんじゃないかと不安になり、少し詰まった。ただ以前ジェットさんが投擲武器について説明するとき「秘密」と、あたかもダガー、ブーメラン、ボール以外にもあるかのようにいっていたそれが、おそらくジェットさんのメイン武器で、そしてスカイさんのメイン武器であると思う。
「ああ、そうだよ、俺たちのメインは紙飛行機だ」
やっぱり当たっていたらしい。っというか
「か、紙飛行機って武器になるんですか!? ってあれ? 私のスキルの選択肢にはないですよ?」
【ダガー】【ボール】【ブーメラン】はあるけど【紙飛行機】はない。
「【????】であるはずだよ? 一応特殊なクエストを受けないと取得できないスキルなんだ、もちろんナギちゃんが紙飛行機を選びたいなら手伝ってやれるけどイベント中は我慢することになるよ」
そういわれてよく確認すると確かに【????】があった。
「まぁでもその場合、俺たちのギルドに入ってもらうことになるけどな」
ここにきてジェットさんが色々暴露してくれている。ジェットさんはギルドに入っているらしい、そして話によるとギルドに勧誘するつもりではなく、紙飛行機を作る生産者がお抱えの人しかおらず、また生産者にしてみれば結構コストがかかるものらしい。
「まぁギルドに入ってワイワイやるのもいいけど、自由にやってるナギちゃんの行動を縛っちゃうのはな」
そういってジェットさんは優しい目を私に向ける。するとすかさずスカイさんからコールが来る。
『どうせナギちゃんの面倒を見る投擲プレイヤーの立場が独占できなくなるからだよ、まぁナギちゃんの好きにしたらいいよ』
私の世話を焼いてくれる先輩プレイヤーは、ジェットさん以外にもホムラがいるし、生産メインのプレイヤーでいいならマキセさんなんかもいる。ただ同じ【投擲】プレイヤーということに関してはジェットさんしかいない。
でもジェットさんはあんまり情報開示に積極的じゃない。ギルドに入ればもっと教えてくれるようになるかもしれないし、他のメンバーに聞くこともできるし。
「……今悩んでも意味ないだろ? イベントが終わらなければ紙飛行機もギルドもどうにもできない、俺たちの目的を考えれば途中離脱はしたくないからな」
ホムラが私の思考を打ち切らせる。正直ブーメランにしたいけど、未だどこで売ってるかもわからないし。でも紙飛行機にも興味がある。
「あの、紙飛行機ってどんな特徴があるんですか?」
「単体火力役ってところかな」
「ただ使いづらい面もあるんだよねぇ、とりあえず一番弱い奴なら一つあげるよ、あんまり人に渡すと後が怖いからお試し用の一つで我慢してね」
スカイさんから紙飛行機を受け取る。
【紙飛行機】
武器カテゴリー:紙飛行機
ATK+1
アーツ時 ATK+60(STR依存)
紙を折って作られた飛行機。
使いづらいというのは多分通常時は威力が極端に低くなるせいだろう。そして同時にバッファ朗と戦うときにアーツを連発していた意味が分かった。
武器スキルを上げると対象の武器の威力にかかる補正が上昇するけど、【紙飛行機】はアーツ時の威力に補正がかかるらしい。なのでどんなに【紙飛行機】スキルを上げても通常時は【投擲】で得た分の威力補正しかかからないので、アーツを使わないときは他の武器を使うそうだ。
そのあと狩りを続けながら紙飛行機のアーツについて教えてもらった。
投げ上げたやつは【特攻】といって敵が自分にターゲットを切り替えるというもの、【挑発】と効果は似ているけど、挑発よりも確実らしい。
そして、バッファ朗が視線を誘導されたのは【視線誘導】というアーツで、名前の通り敵の視線を紙飛行機にくぎ付けにする、モンスターの視界に入らなければ効果はないらしいけど、これを使えばモンスターのターゲットをリセットできるとのこと。
光の筋は【一閃】というアーツで、一応チャージ系のアーツだけど、ためなくても使えて、ためた時間の分だけ威力が増すというアーツらしい。紙飛行機で最も使い勝手のいい技だとか。
「現在紙飛行機を使うやつは俺の知る限り三人しかいない」
「ジェットさんと、スカイさんと?」
「「俺たちのギルドマスターさ」」
ギルドの名前は「神風」、そこからギルドマスターの二つ名は「神風一号機」というらしい。
結局この日はこの後、現実でのご飯休憩をはさんで雑魚モンスター狩りに明け暮れた。
「明日はバッファ朗のクエストを受けようと思うんだが、一緒にどうだ?」
狩りを終えて街に戻る時にホムラがジェットさんたちの方を向いて提案する。
「了解!」
「人集めは俺がどうにかしようと思う」
「じゃあ俺達もイベントに参加してる知り合いに声かけますけど、1ペアしかいないんで、他はホムラの旦那に任せます」
ジェットさん達の知り合いということはおそらくその人も投擲プレイヤーなんだろう。
「となると前衛…タンカーがほしいな、それとヒーラーもか、人集めはこの辺を探して、あとバッファ朗の情報なんかも調べておくか」
私としては四人だけでも倒せると思ったんだけど、上級者の会話に口を挟まない方がいいと思ったので黙って聞いていた。明日の集合時間などを決めて、その日はログアウトした。
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NAME:ナギ
【投擲】Lv30【STR上昇】Lv7【幸運】Lv23【SPD補正】Lv28【言語学】Lv32【視力】Lv18【】【】【】【】
SP26
称号 ゴブリン族の友




