バッファ朗
「俺が正面で顔を狙う、ナギは俺の後ろに控えてろ」
「うん、わかった」
ホムラの言葉に頷く。
「俺とスカイは奴の後ろに回り込んで攪乱する、多分ホムラの旦那の攻撃が完璧に決まらないとジリ貧になるかもしれないからな」
「…? よくわからんが、そういうなら奴の後ろからで頼む、隙ができたらしっかり叩き込んでやる」
ジェットさんの提案をホムラが了承し、作戦会議が終了し、戦闘態勢に入る。
「すまない! 頼んだ!」
残り三人のプレイヤーが過ぎ去っていき、入れ替わるようにホムラが前に、ジェットさんとスカイさんは横に割れて後ろに回り込もうとする。
――ん?
私はあることに気づき構えてチャージの体制に入った。アーツ【チャージスロー】は一定時間ためなければいけないけど、一定時間を過ぎればチャージした分だけ威力が上がる。最大ならパワースローよりはるかに威力が上になる。
バッファ朗がやってくる。その顔にまずホムラが一撃を打ち込む。正面からの攻撃のため顔でガードされる。その隙にスカイさんとジェットさんがバッファ朗の後ろに回り込む。スカイさんがバッファ朗の右後ろ、ジェットさんが左後ろで、正面のホムラと三角形を作る感じになっている。
スカイさんが何かをなげると、光の筋がバッファ朗に突き刺さる。以前の共闘イベントでジェットさんがとどめに使った技と似ているけど、ちょっと違う気もする。
バッファ朗がスカイさんの方へ向こうとするのですかさずホムラが攻撃、そしてガードさせる。
私はためながら戦闘を眺めている。そしてふと、牛系のモンスターのヘイトってどうなってるんだろう? 普通は威力のある攻撃をした人に向くけど、牛系はガードするからその分他のモンスターと勝手が違ったりするのかな? とか考えていた。い、いや決してのんきなわけでは…。
ジェットさんが上に何かを投げ上げる、それは弧を描き上からバッファ朗に突き刺さる。するとバッファ朗はジェットさんの方に向く。しかし、ジェットさんがまた「何か」を投げるとそれに視線を誘導される形で再びホムラの方を向く。そしてそこでホムラが一発打ち込みガードさせる。
このときジェットさんの投げる「何か」の正体がなんとなくわかった。
戦闘はいい感じでできていると思う。なぜならバッファ朗は攻撃行動に移れていない、ジェットさんやスカイさんが攻撃を当てて削りつつ、ホムラがバッファ朗にしっかりガードさせて二人の方を向かせない。
今度はスカイさんが「何か」を投げ上げ、バッファ朗に突き刺す。バッファ朗はスカイさんの方に向こうとする、そのタイミングでホムラの攻撃が間に合い、バッファ朗はまたガードをさせられる。
先ほどから見てるとホムラの打ち込みはすごい、ものすごく重い一撃なのか、バッファ朗がガードした際には衝撃波が伝わってくるかのような重い音が響き、バッファ朗の足には力が入り重い一撃を耐えるため踏ん張っているように見える。
戦闘を眺めていて気になることもある。ジェットさんとスカイさんはアーツを出し惜しみなく使っていて、アーツを使うとき以外は「何か」を投げていないように見える。
――ホムラの一撃にバッファ朗が踏ん張りきれず体勢が崩れる。
「チャージ!!!」
ホムラがチャージの体制に入ったことを伝える。それを聞いてスカイさんが光の筋を突き刺し、ジェットさんも攻撃を加える。
体勢が崩れたため「ダウン」をさせようとしたみたいだけど、うまくはいかずバッファ朗はすぐさま体勢を立て直し、ホムラに向かって攻撃を仕掛ける。
「ホムラの旦那!」
「大丈夫だ!」
ちょうどチャージが終わりホムラが一発を打ち込む。バッファ朗はガードしたのか、はたまた攻撃の打ち合いになったのかよくわからないけど、空気の振動が伝わって来そうなほどの衝撃音が轟く。
「ホムラの旦那! 一回仕掛けよう! 顔をこっちに向かせるから後は頼んだ!」
「わかった!」
ホムラが答えるのが早いかジェットさんが投げ上げ、「何か」が突き刺さりバッファ朗がジェットさんの方を向く。
その後ろ姿にホムラはアーツを下から打ち上げるように叩き込む。
――え?
後ろから打ち上げられたバッファ朗の体は宙に浮き上がった。
「よし! チャージ!」
ジェットさんがチャージの体制に入る。私もすぐさまいままで構えていたものをバッファ朗めがけて思いっきり投げる。
ドォォォォォン!!!
すさまじい音とともにバッファ朗のお腹のあたりに当たる。
「おお! なにそれ!? 俺も負けてられねぇえな!」
そういってジェットさんが宙に浮いたバッファ朗に「何か」を投げる――スカイさんより少しだけ太く見える光の筋がバッファ朗に突き刺さる。
ズドォォォォン!!!!
ゴブリンとの共闘で聞いたのと同じ音が轟く。
そして落ちてくるところにホムラが構えている。何かのアーツの影響なのか深紅の大斧は赤い光を帯びていつにもまして赤く、そして輝いている。
落ちてきたバッファ朗に真っ赤に輝く大斧を叩き込む。
大斧を打ち込まれたバッファ朗は宙に一瞬だけとどまった後、地面に落ちる。
――そして消えていった。
私はみんなのもとに駆け寄り、さっき投げた物を回収、そしてそこに座り込んだ。
「ナギちゃん、お疲れぇ、ってかさっきのあれ何?」
「えへ、あれはね、――「タイタンキラーだ」」
ホムラが私の言葉を遮りジェットさんに伝える。
「へぇ、そんなものどこで?」
「ホムラからこの前もらったんです」
スカイさんの質問には私が答える。
戦闘前、私は自分の【投擲】のスキルLvが30になっていることに気づいた。そして、【投擲】がLv30になるといろんなものが投げられることを思い出し、ホムラからもらった「タイタンキラー」を構えチャージし、投げるタイミングを見計らっていた。
「ナギちゃん、ナイスタイミングだったよ! ――あとホムラの旦那はおかしいでしょ!? あんな大きいのが宙に浮くとか…」
「さすがは物理最高火力プレイヤーですね!」
ジェットさんもスカイさんもバッファ朗が宙に浮いたことがものすごい衝撃だったのか、ジェットさんは呆れるように、スカイさんは大興奮でホムラに話しかけている。
「あ、あのー、ありがとうございます」
後ろから声がするので振り返る。さっき逃げていたプレイヤー四人が並んでいた。私を中心に挟む形でホムラたちと向かい合っている。
「お前ら! 逃げるのはいいが、そのあと戦えなかったのかよ!?」
ジェットさんが珍しく怒っている様子だ。ホムラも彼らを責めるような視線を送っている。おそらくホムラの算段でも彼らが援護に入ってくることを考えていたのかもしれない。
「入ろうと思ったんですがうまく立ち回ってたので、却って邪魔になるんじゃないかと…」
「そうか、まぁ結果的に勝ったからいいだろう、それよりどうしてこうなったんだ?」
ホムラの表情が柔らかくなる。そして、ホムラからの質問に四人のリーダーと思われる人が答えていく。彼ら四人は普段から行動を共にしている間柄らしく、イベントでも4人+2人のような感じで狩りをしていたらしい。
そして今回、知り合いでものすごく強い人がいて、その人たちと組んでレイドボスに挑もうということになったらしい。しかし、人がうまく集まらなかったのでそのまま6人でクエストを受けてレイドボスに挑むことになったとか。
「おいおい、6人でってバカだろ?」
ジェットさんは呆れたようにいうが、向こうは首を横に振り
「実際安定して戦えてたんです、ですが一瞬隙ができてしまって…」
そして彼らの話は続く――
・・・私は立つタイミングを見失い座ったまま彼らを見上げている。
――――――――――
NAME:ナギ
【投擲】Lv30【STR上昇】Lv5【幸運】Lv21【SPD補正】Lv24【言語学】Lv32【視力】Lv16【】【】【】【】
SP26
称号 ゴブリン族の友




