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ナギ記  作者: 竜顔
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ジェットVSホムラ?

 三日目、ホムラは午前中用事があるらしくてログインできるのは夕方からになるかもしれないと、お兄ちゃんが教えてくれました。


「お前ら二人でこそこそイベントなんて行ってたのかよ」


 ちょっとイラついた顔で言われました。何か嫌なことでもあったのでしょうね。


 さあ、そんなことより、私は午前中メルサさんに予想が的中していることを報告に行き、時間があわなかったらしく掃除が終わるまで待っていてほしいと言われた。待っている間掃除以外で何か手伝わせてほしいと頼んだらOKをもらい、お使いを頼まれた。


 このホテルの簡単な依頼は一人でも受けられるらしい。


 お使いの内容は手紙の配達、ホテルから外部への手紙を役所に持っていく、そしてそこでホテル宛に届けられた荷物や手紙を受け取り帰ってくる。


 帰り着くとちょうどメルサさんは休憩時間になっていて、会うことができた。メルサさんに昨日のことを話すとものすごく興奮していた。そして――


「私がホテルのメンバーズカードを手に入れたら、あちこち連れまわして紹介してください!」


 と頼みごとをされた。実装するまでに手に入れて頂くとありがたいけど、それまで彼女たちは活動しているのだろうか。


 それどころかもしこの先行お披露目が失敗ということになって実装されなかったら、このかわいらしいメルサさんも存在しないものとなってしまうのかな。そう思うと少し悲しくなってきた。


 依頼の報酬を受け取りホテルから出ようとすると、地下通路に案内してくれた老スタッフとすれ違った。この人なら知っているだろうと思い、今の疑問を聞いてみた。


「おそらく別の街の人として、すべてを忘れて存在しているかもしれませんね、とはいえバーン様は一つの街をこれほどまでご自分の好きなようにできる方ですから、よくはわかりませんがきっと相応に上の立場にあるのでしょう、ナギ様の心配も杞憂かと思われます」


 丁寧な笑顔で答えてくれる。そのバーン様を思い浮かべて却って心配になったけど、この老スタッフが言うのだからたぶん大丈夫だろうと言い聞かせながらホテルを後にした。


 ホテルの外ではいかにメンバーズカードをちらつかせようと一人で依頼を受けさせてくれなかった。酒場のマスターに聞けばまた違うのかもしれないと思って酒場に行っても結局変わらなかった。マスターは守秘義務を徹底的に守る方らしい。


 仕方がないので街を散策する。市場には露店商が並び、ほとんどはNPCだけど、ちゃっかりプレイヤーも混ざっていた。


 知り合いはいなかったのでまた別の場所へ移動、その途中見覚えのある姿が…いや、違う人かも。


 確認するためそぉ~っと近づいていく、建物の壁の前で俯いて立ち尽くしているその男性を知っている気がするけど、何かが違う。


 ハッとその人がこちらに顔を向けて目が合う。知っている人にそっくりな顔だけど…目に生気がない。


「……ナギちゃん?」


 か細く小さな声でそう言うと、みるみる目に力が漲っていくのが分かる。そして同時にそれが知り合いの顔だとわかる。


「…ジェットさん!?」


「ナギちゃん! ナギちゃんだよね!? どうしてここに!? 一人で来ちゃダメじゃないか! ここは二人でないと活動できないはずだよ!?」


 ものすごいテンションの高さに若干引いてしまった。さっきまで死んだ目をしていた人とは思えない豹変ぶり。


「お、落ち着いてください! 今はパートナーが用事でいないだけです、ってジェットさんも一人じゃないですか」


「お、おおそうだ…俺の連れも今用事でこっちにいないんだ」


 ジェットさんが普段の調子に戻った。


「そういえばこの前ナギちゃんが男と二人で歩いているのを見たんだ」


 どういった経緯でそうなったのか聞かれたので、私がギリギリまで誰からも誘われなかったことと、ホムラ(名前は明かさず)に誘われたことを教えた。


「固定PTは結局その人たちで参加するって聞いてたから諦めてたんですよ、だから今のパートナーに誘われたときはびっくりしました、ジェットさんもそういう感じですか?」


「ん? 俺はちょっと違うな」


 ジェットさんの相手は男の人らしく、固定PTってほどではないけどよく一緒に行動している人らしい。そしてもしその人に誘われなかったら私と一緒に参加しようと考えてくれていたとか。


「どうして誘ってくれなかったんですか?」


「ええっと…俺の知り合い連中にナギちゃんのストーカーとかしてることがばれてて、まぁ心配してくれてのことだろうから安心させてやった方がいいかと思って、ごめんナギちゃん」


 手を顔の前で合わせるポーズで誤ってくるジェットさん。私もジェットさんの友人にあれこれ文句を言える立場じゃないし、それに多分ジェットさんのことを心配したんじゃなくて私のことを心配してくれたんだろうから、心の中で感謝しておいた。


『ナギ、今からそっちに向かう、そこで待ってろ』


 ホムラがログインしてきたらしく、コールが来た。


「あっパートナーが来たみたいです、ここで待ってろって言われたんですけどジェットさんの方は大丈夫ですか?」


「ああ、こっちの相方はまだ来てないし、ナギちゃんの相手も誰かわかってるから問題ない」


 今まで話したことがないけど、もしかしてホムラとジェットさんは知り合いなのかな。そういえば二人とも第一陣だし知り合いでもおかしくはない…か。


「知ってるんですか?」


 聞いてみると


「ああ、有名人だよ、一目見れば誰でもわかるってぐらいの有名人、ってナギちゃん自分の相手がどんな人か知らないの?」


 ものすごく驚いた顔をするジェットさん。第一陣や第二陣の人の間ではホムラは相当な有名人みたい、確かに全身真っ赤で目立つけど。


「ん? ナギ、知り合いか?」


 後ろから声が聞こえて振り向くとホムラがきていた。


「ああ、お宅のパートナーと知り合いですとも」


 ジェットさんが挑戦的な感じでホムラに突っかかる。


「そうか、意外だな」


 それに対してホムラは冷静に反応する。


「ホムラたちがみんな私を放置してる時に助けてくれたんだからね!」


 すかさず私が文句を言う。この世界のことなんてわからない私を助けてくれたのはジェットさんだ。そして、こっちの世界ではホムラより古い付き合いなんだから。


「面倒をかけたな、ナギも楽しんでるみたいだし、礼を言うよ」


 私の威勢の良さを見てか、優しい表情で言う。


「…そういえばナギちゃんにはお兄ちゃんがいると言ってたが?」


「似たようなもんだが違う」


 ジェットさんの質問にホムラが答える。それを聞いてジェットさんが動揺していたので、慌てて私のVRメットにお金を出してくれた一人と教えると、ジェットさんもホムラに「ありがたい」と言ってホムラの手を握っていた。


 ――まぁ、仲間から心配もされるよね。


 その姿を見て私は内心そう思う。


「今まで街の外に出たことがないんだ、できればお前たちも一緒の方が安心できるんだが」


「おう! こっちは別に問題ない、だがまだ相方がきてないみたいだ、待ってもらっていいか?」


「ああ」


 ジェットさんと行動することが決まった。ホムラは相手に心当たりがあるのか質問していたけど、ホムラの心当たりははずればかりだった。


「二人とも知り合いなの?」


 そう思いたくなるほど二人は一瞬で打ち解けて、私は話に入れそうにもない。


「直接話すのは初めてだ、だけどジェットは結構有名だから俺も少しは知ってる」


「ホムラの旦那にそういってもらえるのはうれしいが、あんたの方が有名だろ?」


 そういってまた二人の会話が弾んでいく。ってかジェットさん、最初はあれだけホムラに突っかかる感じだったのに、いつのまにか「ホムラの旦那」とか呼んでるし……。


「相方がログインしてきたな、すぐ来るって言ってる、集合場所はここにしたが」


「わかった、そっちの相方が来たら酒場でクエストを受けよう」


 私は仲良く話す二人を眺めながら、ジェットさんの相方の到着を待つ。


――――――――――

NAME:ナギ

 【投擲】Lv28【STR上昇】Lv3【幸運】Lv19【SPD補正】Lv22【言語学】Lv32【視力】Lv13【】【】【】【】


 SP21


称号 ゴブリン族の友

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