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ナギ記  作者: 竜顔
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番外編:俺の名はスカイ

「なぁジェット、このクエスト受けてみないか?」


「ぁぁ」


「こっちの討伐クエストも面白そうだな」


「ぁぁ」


「……いい加減元気出せよ」


 やぁみんな、俺の名はスカイ。今はイベントに参加中で「エイロー」って街にいるんだ。


 そして、元気のない返事を返す茶髪で少しチャラいっぽい感じのやつが、俺のパートナーであり相棒でもあるジェットだ。


 イベント前ジェットははしゃいでいた。なんでも聞いた話では第三陣の女の子の世話を焼いているらしく、仲も良好とのこと。その上この前の北門開門の共闘では一緒に行動していたらしい。


 そういうこともあってか、今回のイベントが基本二人で行動するものだと聞いて、「あてがある」といって、病気じゃないかと心配になるほどはしゃいでいた。


 実は俺とジェットはリアルでも友人でな、イベント前にリアルで会ったがすごい興奮してて、友達になって以来一番引いたかもしれない。


 ちなみに付き合いは幼稚園からだから、どのぐらい興奮してたのか察してほしいところだ。


 そして随時更新されていくイベント情報、掲示板なんかでは、やれるんじゃないか、とかいろいろな憶測が飛び交った。所詮憶測にすぎないのだけれど、もし本当だったらとか、本当ではなくてもあのジェットの様子じゃ何かあってもおかしくはない勢いだった。


 相手の女の子に関して集めた情報では、優しい性格の子なのか、はたまたジェットぐらいしか頼れる人物がいないのか、アウトといわれてもおかしくない行動をとっているらしいジェットを運営に報告するどころか、ジェットに対し拒絶する行動すらとっていないようだ。


 しかし今回ばかりは彼女の沸点を超えてしまうかもしれない、もしそうなれば俺たちにとっても友人の一人がいなくなってしまう悲しいことだ。いかにその友人に非があろうとも…。


 そういうこともあってジェットの知らないところでギルドメンバーが集まり会議を行った。その結果ジェットに誰かギルドメンバーをつけるという結論に至った。そして選ばれたのがリアルの友人であり時間も合わせやすい俺ってわけだ。


 俺が誘う形になったんだけど、ジェットは最初嫌そうな顔をしてな…ちょっとショックだったよ。まぁジェットは第一陣、相手の女の子は第三陣ならペースは会わないだろっていったらすんなりOKしてくれたけどな。


 しかし条件付き、まずイベント前に相手の女の子からPTを組みたいと言ってきたらジェットはそっちと組むこと、そしてイベント中手伝ってと言われたら即彼女のもとへ向かうこと。


 そのとき俺は確信したよ! 「コイツアブナイ」ってな。幸い相手の女の子からは何の連絡もなかったらしく落ち込んでいた。だから、お前に気を使ったんだろ、となだめておいた。


 元気がなかったのは一瞬だけで、イベント初日は積極的に動いていた。だけど、昨日から元気がない。


 あれは「火の神」とか呼ばれているプレイヤーを見かけたときからだ。「火の神」といえば固定PTも男だけで、ホモ集団だと噂されている人でもある。しかし昨日彼の後ろからついてきていたのは女の子だった。


 俺はそれを見て驚いた。もちろんホモ説が事実なんて思っていなかったけど、ああやって連れて歩く女の子もいるんだなってことに。聞いた話じゃイベント前PTのリーダーが募集かけたら異性は寄ってこなかったらしいから。でも「火の神」はかっこいい方だからな、と一人で納得していた。


 そしてジェットの方を振り返ると目から生気が失われていた。人によっては「見た目もそこそこよくて実力もあって一緒に行動する女の子もいるなんて」とか、「ホモ説のあるやつですら女の子を連れてるのにあてがあったはずの自分は…」とか考えて落ち込んでると思うかもしれない。


 だが、長い付き合いのせいか俺は気づいてしまった、あの女の子が「あてのある女の子」だったんだと。


 ジェットはギルドメンバーが心配してくれていると気づいているのか、イベントに入ってからあてのある女の子と接触しようとは言ってこなかったし、そういったことは言及してこなかった。それでも「お前がいなければ俺が先にあの娘と一緒に行動していたはずなのに」とか言ってくれる方がマシだ。


 もしかして「俺以外にもいたのか…」という意味でのショックなのかもしれない。そうなると次に考えることは「あいつ>俺」みたいなことだろう。


 聞いた話じゃ今までジェット以外に誰かと一緒に行動するときはジェットも一緒の場合しか知らないらしい。もちろんジェットも常にストーカーをしている(常にでなくてもやっちゃいけないけど)わけではない(らしい)から、他のプレイヤーとの交流は少なからずあるだろうとは考えていたみたいだ。


 今回のイベントで「彼女」に自ら接触しなかったのも「同程度の実力のプレイヤーと一緒の姿を見たことがない」と言っていたからそういうプレイヤーと一緒と考えて、呼ばれるまで「彼女」の交流に配慮していたのかもしれない。


 もしそうならギルドメンバーのことは大して重要じゃないのかとショックだが…今回は良しとしよう。とりあえずジェットの考える「彼女」の交流範囲には「火の神」はいなかったのだろう。


 正直俺も第三陣のプレイヤーが「火の神」とどうやって知り合ったのかは気になるところだ。リアルで、とか不吉なことを考えるのはよそう。


 っといっても元気のない友人にどうしてあげればいいのかわからない。この際こちらから接触してみるということも考えたが、拒絶されたらそれこそジェットが引退してしまうかもしれない。あるいは、いいよ、と言われて二人でイチャイチャしているところを見せ付けられるだけかも……よ、よそう不吉なことを考えるのは。


「ジェット、そろそろ時間だ、俺が帰ってくるまでに元気になってくれよ?」


「ぁぁ…」


 俺は用事があって抜けることになる。ジェットは一応ログインもしてくるし、クエストもちゃんとやるから問題はないんだが、このテンションではこっちがつらい。


 結局今日の午前中は何もせずに過ぎてしまった。どうにかせねば、ギルドメンバーにも相談した方がいいだろうか。


 まぁ考えるだけ無駄だろう。これはジェットの問題だ。


 にしても最初はテンションが高すぎるから心配したのに、今度はテンションが低すぎて心配になるとはな。


 ジェットが元気になることを祈りながら自室に戻る。再びログインできるのは夕方ぐらいだろうか。それまでジェットのことを心配してはいられないんだけどな。


 ログアウトして昼食を食べて、制服に着替えて準備がきちんとできていることを確認して学校へ向かった。


――――――――――


 夕方、家に帰ってきてログイン。するとメッセージが大量に――すべてジェットだ。ここに来い、と全部同じ場所だ。


『おい! 帰ってきたんなら早く来い!』


 コールがかかってくる――ジェットが元気になっている。何かいいことでもあったんだろうか、それとも単に吹っ切れただけか。まぁいい、行けばわかることだ。


『ははっ調子が戻ってる! ああ、ちょっと待ってろ、すぐ行く』


 俺は自室から飛び出し、指定された場所へ駆け足で向かっていく――

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