いい人?
翌日、日曜日の朝、朝食を食べている最中にお兄ちゃんが、
「昨日いろいろ迷惑なプレイヤーがいたらしいな」
「それ私・・・」
「・・・・・・そうか」
とてつもなく気まずい空気になった。なんとか場の空気を換えようとお兄ちゃんは新エリアの話をしてくれた。――そして、今日も私を放置することも。
あぁ兄よ、困る妹を助けてくれてもいいではないか。
という私の心の声は聞こえることはなかったようで、朝食を終えた兄はそのまま自分の部屋へ行ってしまった。
私も朝食を終えてログイン、ご飯はどうしてるのかって? 親がいないなんて言ってませんよ?
前回ログアウトしたところから開始されるので、雑貨屋の前、開店中だったので入店、予想は見事に当てはまり、マイホーム用の雑貨はもちろん楽器類、投擲用の武器、生産メインの人が使う道具など様々な用品が置かれていた。
生産系の道具が多いから中心街の近くにあるのかな、と思いつつどうせなら武器は武器屋で一括してくれればいいのにと思ってしまう。
店の投擲用の武器は初心者ダガーとゴムボールがあった。
【ゴムボール】
武器カテゴリー:ボール
ATK+3(STR微依存)
初心者ダガーよりATKは高いけどSTR微依存ってことはATKにばかり目が行くと初心者ダガーより威力は低くなるってことかな。説明文表記がOFFになってることに気付いたのでONにしてみると
【ゴムボール】
武器カテゴリー:ボール
ATK+3(STR微依存)
子供用の軟らかいボール。メジャーリーガーも幼少時代愛用していた。
説明文ってアイテム自体の説明なのか・・・っておい! ゲームの世界観大丈夫なの!?
初心者ダガーのほうが安いので――10G、ゴムボールは20G――初心者ダガーを購入し、東門から街の外に出る。
そういえばスキル枠が解放されて5枠になってるけど、何を取ったらいいのかわからないので保留、プニット狩りを行う。
昨日よりも人が減ってる、次のエリアに行ってしまったのだろうか。ちなみに東門をでてすぐのエリアを第一エリアというらしく、その先を第二エリア、南門出てすぐを第三エリア、西門を出て第四、第五エリアその先に第二の街、北門は閉門(その先は未実装?)となってるらしい。出てくるモンスターを基準にした名称らしく、第三エリアの先は第六、第七のエリアがあってその先に第三の街。新エリアとはその街の閉じていた門が開かれた先らしい。
第一エリアにはプニット以外にもモンスターがいるけど、もう少し街から離れないと出会わない。
プニットを狩り続けていたのでその特性が分かってきた。逃げる際全力で走ってやっと引き離せた感じなので、スピードは決して遅いわけではないと思う。しかし攻撃した後、一定時間動きを止める。だからこちらがもたつかなければやられる心配はほとんどない。
一段落したところで、街に戻る。今日はプレイヤーに戦利品を売ろうと近くの露店に足を運び――
「あの・・・」
その露店の店主はこちらの声に反応する様子はなく、メモみたいなものを眺めている。さっきまでほかのお客さんに対応してましたよね?
戸惑う私の後ろからほかのプレイヤーがやってきた。すると
「はい、いらっしゃい、何か買うのか? それとも売りにきたのか?」
そういってあとから来た人の接客を済ませ、またメモに目を移す。
「あの、素材を売りたいんですけど・・・」
どうやら話を聞いてくれる様子もなく、諦めて立ち去ろうと振り返――
「はいはい、無視されたからって諦めない」
誰かが私の両肩をつかみ、体は再び露店の店主の方に向けられた。
「なぁ、話しかけてるんだからそう無視するなよ」
その声の主の男性は私の右側に立っていて、左手を私の腰に回そうとしたので払う、何の戸惑いもなくその左手を私の左肩に回し抱き寄せる感じになる。
「あんたの知り合いかい?」
「ああ、そうだよ、な?」
と隣の男性は顔をこちらに向けてくる、が
「えっ・・・と」
この場合どうしたらいいのかよくわからなくて、助けようとしてくれるみたいなので話を合わせるべきなのか・・・
「違うみたいだな」
「えっ!? 嘘!? 昨日ナンパしたじゃん!?」
どうやら昨日ナンパしてきた人の一人らしい、でも、下向いて顔を見ないようにしてたから・・・。そういうと少しがっくりしていた。
「とにかく、こんなかわいい御嬢さんが話しかけてるのに無視はないでしょ」
そういって隣の男性は右手の人差し指で私の頬をつんつんし始めた。色々思うことはあったけど、助け船を出してくれてるので、ここは大目に見る。
「この娘の噂はいろいろ聞いてるからな、昨日大量に石を拾ってたみたいだし、その転売を疑われたらこっちもいろいろ面倒になるしな、とりあえず対応は控えて様子見ってのがこの辺の露店で決まったことだ」
どうやら昨日の諸々が影響してるらしかった。
「それに、そういう生産者なら俺たちにも何か害があるかもしれないし――」
「あの、生産者とかではないんです、だから鑑定とかはできなくて・・・」
「? そうなのか? で、鑑定でもしてくれってか?」
「いえ、普通にプニットのドロップ品を・・・」
おそらく店主さんは石が拾えるのに鑑定できないことを不思議に思ったらしい。採取、鑑定は対応したスキルがないとできないので、店主さんにとって採取ができることはつまり、鑑定もできる、と考えていたのかもしれない。
「まあ、これ以上騒がれてもたまらん、だが昨日の今日でプニットの素材は安く買うことになるぞ?」
そういってアイテムを渡し、お金をもらうと、隣の男性―まだ左手は私の左肩に―が
「ん? それで全部じゃないだろ? 俺見てたんだ、光の粒子が胸に入っていくのを、あれはレア素材が手に入った時のエフェクトだろ」
「えっ! 見てたんですか!?」
一体、いつ、どこで!? そういえばナンパしてきた人なんだっけこの人。
「ああ、俺はストーカーしてたからな!」
めっちゃドヤ顔で決められた。ってかやっちゃいけないことでしょ!?
どうやら昨日女性プレイヤーに注意されて街を出て、狩りから帰ってきたところからついてきていたらしく、どうせなら迷子になった時に助けてくれてもよかったのに、と呟くと、取り乱していた。
「――とりあえずレアな素材は多くないからそれなりの値段で買い取れるぜ」
そういわれたので渡すとNPCに売るより高く買い取ってくれた。
「で、もう用は済んだか?」
「あっ・・あの! 石の鑑定って失敗したり、はずれだったりしないんですか?」
一番そこを聞いておきたかった。また安易に石を拾って迷惑になるわけにはいかないので、鑑定した後の廃棄物を入手できればという算段だ。
「ああ、この辺の石では石ころが外れ枠になるかな、大した使い道もないし」
「それ、5Gで売ってくれませんか?」
「!! ちょっ・・ちょっとお嬢ちゃん!? 正気!? 一旦冷静になろう、うん」
慌てて大きな声を出したのは隣の男性、店主も目を大きく開けて驚いている。
「いいかい? 石ころってのはNPCに売っても1Gにしかならないし、大した使い道もないアイテムだ、だから大抵は、数がたまったころにNPCに一気に売りつけるものなんだよ・・・それを5Gって」
そうやって力説してくれる男性。しかし、ダガーより石ころのほうが気持ちスキルのLvが上がりやすいように思うので、私にとってはそれぐらいの価値がある。と自分の考えを述べると、投擲スキルのLvを聞かれたので「7」と答えた。
「君が考えたうえで発言してることは分かった、でももうプニットじゃダガーでも石ころでも大して変わらないと思う――よし俺と外に出よう、そこで考え直してほしい、もちろんそれでも考えが変わらないのならそれでいい」
そういってその男性は店主に今の話はなかったことにしてほしいと頼んで、店主もそこは納得してくれた。そして二人で東門から街の外に出た。
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NAME:ナギ
【投擲】:Lv7 【STR補正】:Lv5 【幸運】:Lv3 【】 【】
SP8