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ナギ記  作者: 竜顔
275/276

ジーノ

遅くなりました。

 案内されるままに入った家屋の中は玄関を入ると廊下があり、その奥に部屋が一つ。リビングとダイニングを兼ね備えているらしいその部屋にはテーブルと四人分の椅子があった。テーブルの上には二人分の小皿と、大皿に盛られたサラダやお肉などが並んでいた。


「いらっしゃい、ちょっと待っててね」


 廊下から部屋に入って左側に見える暖簾から顔を出したおばあさんはにこにこ顔で私達を歓迎してくれるらしい。


「さぁ、お好きなところにどうぞ」


 と村長さんは言ってくれるけどすでに小皿が置いてある場所には座りづらいので空いている椅子に座る。


 テーブルは円形ながら、椅子は二つずつ片側に寄るように置いてあるため私と同じように小皿が無い方の椅子を選んだ舞浜君と隣同士のようなかっこうになる。


「すでに小皿が置いてあって気を遣わせてしまいましたかな」


 そんな私達を見て村長さんは顔を綻ばせる。


『これでいいんだよね?』


『私に聞かれても』


 ゆっくりと席に着いた村長さんに聞こえないコールを使って舞浜君が問いかけてくる。このさいおもてなしは受けられる限り受けてやろう。


「まずは小皿ね」


 と暖簾の奥から出てきたおばあさんが私達の席の前に小皿を置いていく。


「先に初めておいてもいいですよ」


 と言いながら暖簾の奥に再び消えていく。


「じゃあ始めましょうか、いただきます」


「「いただきます」」


 村長さんにつられるように食事を始める。


『話って何か心当たりある?』


『う~ん……わかんない』


 食事を開始して早速舞浜君からコールだ。何か話があるとか言われても全く心当たりはない。


『先にこっちの要件を話してもいいのかな?』


『いいんじゃない? 任せた』


『ま、任された!』


 インベントリ的に窮屈なのは舞浜君なのでそこは彼に任せていいだろう。


「あ、あの~」


「あぁ、確か聞きたいことがあったんでしたねぇ」


「え、あっはい、そうなんです」


 今のやり取りで若干舞浜君に任せていいものか不安になる。でも私でも大差ないだろう、と言う結論に至ったのでいざとなればフォローしようと思いながら――ここ大事――小皿に取り分けたお肉を口に運ぶ。


「光の果実の処理を頼めないかと思いまして」


「なるほど、確かにあなた方には邪魔になりやすいものですからねぇ、…おーい!」


 用件を切り出した舞浜君の言葉に一度頷いた後、村長さんは暖簾の奥のおばあさんを呼びつける。


「はいはい、まずはこちら、スープになりますよ」


 おばあさんは出てくると私達二人の前にスープを出す。


「光の果実を処理したいそうだ」


「おやまぁ、じゃあ今日のデザートにでもしましょうかね」


 言葉とは裏腹に驚く様子を見せないおばあさんはのんきにそんなことを言う。デザートは私達にもでるんでしょうか、いや、そういう意味じゃなくてどうぞお構いなく…。


「それでは気休めにもなるまい、あれを作ってあげなさい」


 私の不安な気持ちを察する間もなく村長さんはおばあさんに何かを注文する。どのみち何かを作ってもらう方向ですか。 …食べきれるかな。私は再び小皿にお肉を置いた後、スープを二口流し込む。


「それだと少し時間がかかるけどいいかしら?」


「記念にはなろう」


「そんな時間がかかるなら別にいいですよ、その…長居するのは失礼だと思いますし」


 私達がよく分かってないことをいいことに話を進めていく二人を舞浜君が止める。


「ははは、食べ物ではありませんよ」


「あっそうなんですか」


「ええ」


「ははは、そうなんですか」


 どうやら舞浜君は村長さんご夫婦と打ち解けることに成功したらしい。そしてなんと私の小皿からお肉が消えていた! ここで私はサラダに手を出し、小皿に取り分けるとスープから攻めていく。


「伝統工芸品みたいな感じですか?」


「そういう見方も悪くはない代物ですね」


 詳しくはできてからのようだ。


「これぐらいの光の果実はありますか?」


 と数を指定されたトレード画面が出ているようで、舞浜君は何やら操作している。


「それではあなた方の時間で明日の夕方ぐらいにはできると思いますのでまた来てくださるとうれしいわ」


「はい、ありがとうございます! 助かりました」


「ふふ、じゃあごゆっくりどうぞ」


 おばあさんは舞浜君の相手をしながら私の方へと歩みより、空になったスープのお椀をかっさらっていた。おかわりをほしそうな顔が見破られたらしい。無駄に高性能なAIだ。


「料理は御嬢さんのお口に合うみたいですねぇ、遠慮はなさらずどうぞ」


 と微笑む村長さん。隣の舞浜君から変な視線を感じる…ごめんなさい。意外とおいしいんだもの。


 舞浜君も料理を食べ、私のスープが再びやってきた後村長さん夫婦のスープもやってきて、おばあさんはようやく食卓に着いた。NPC相手に図々しさが磨かれていっている私でもこれは恥ずかしい。


「ところで村長さんの話ってなんですか?」


 恥ずかしさを紛わすように私は村長さんに話を振る。


「いえね、私の祖父の話に出てくる人物がどうも御嬢さんと似ているような気がしましてね」


「他人の空似ですよ、そもそも村長さんのおじいさんとは会えないはずですし」


 ゲーム内で凄まじいスピードで話が進んでいるならばまだしも…もしかして蜃気楼の塔へ行った時と代が違うのだろうか。


「そんなことはありませんよ、祖父の話に出てくる人物は未来からやってきたみたいですから」


「えっ…あ、そうなんですか」


 蜃気楼の塔へと連れて行ってくれた村長さんと同一人物かまではわからないけど、どうやらそういう問題でもないみたいだ。


『どういうこと?』


『俺に聞かれても…そもそもナギさんの知り合いでしょ?』


『知り合いのころの代の村長さんかな?』


『こ、ここに来てそれ!? ナギさんあんなに……その、ほら…料理食べてたし』


 うぅ…。痛いところを突いてくる。


「エイローで会った時はどうでしたか?」


「その時も不思議な何かは感じましたね」


「そうなのよ、この人ったらエイローから帰ってくると話してくれましたのよ」


 あ、同一人物らしい。


「私の家系は代々特別な目を持っていましてね、祖父はその中でもさらに特別な目を持っていました」


 村長さんの目が昔を懐かしむようなものに変わる。小皿に取り分けた分と、スープを食べ終えた舞浜君は真剣な表情で話に聞き入っている。


「特別な目?」


 舞浜君が質問する。


「真実の目という物です」


 ん? どっかで聞いた記憶が…。思い出せない。


「なるほど、それで蜃気楼の塔も見えるのですね」


「察しがいいですな、キノミントゥルースを見分けることもできますよ」


 真実の目を記憶から引っ張り出そうとする私にお構いなく二人は話を進める。っていうかキノミントゥルースを見分ける目を持つ人物がここにいたよクゥちゃん!


「あとはその人の本性などですかな、あなた方がどういった人物かは一目でわかりますよ」


「あ、そういえば自然にこちらの時間で完成する時間を教えてくれましたね」


 言われてみればさっきの光の果実の処理でできる物は私達の時間で指定してくれていた。


「そういう意味だけではありませんがねぇ」


 と言う村長さんの言葉は変装していても見破れる、とか持っているスキルが分かる。とかだろうと推測する。


「それで村長さんのおじいさんは何が見えたのでしょうか?」


「その人物の運命まで見ることができました、そういうと大げさですが過去や未来が見れるというべきでしょうかね」


「なるほど」


 村長さんの祖父の話で何となく思い当たる人物が浮かんだ。思い出すとあの声が再び聞こえてきそうだ。あの落ち着いていて丁寧な声が。


「村長さんの名前ってなんでしたっけ?」


「そういえばまだ名乗っていませんでしたねぇ、こちらはあなた方の名前を知っているものですからついうっかりしておりました、私の名前はジーノ…正しくはジーノ・デックマンと申します」


 やっぱり


「おじいさんの名前は――」


 ――ラドムス・デックマン


 ホレイーズイベントの登場人物と思わぬところでの接点だった。


――――――――――

NAME:ナギ

 【ブーメラン玄人】Lv43【STR強化】Lv43【ATK強化】Lv38【SPD強化】Lv36【言語学】Lv41【遠目】Lv42【体術】Lv49【二刀流】Lv60【祝福】Lv30【スーパーアイドル】Lv39


控え

【水泳】Lv28


 SP63


称号 ゴブリン族のアイドル 恋に惑わされる者 ホマレの惚れ人 ファルカナンドの救世主 かまくら職

明日は更新できないかもしれません。


四月に入ってからしばらく更新できなくなります。その後はまだわかりませんが、定期的な更新は難しいかもしれませんので、読者の方々には気長に待ってもらうことになるかと思います。申し訳ありません。


完結まではきちんと持っていきたいと考えておりますので、これからも応援していただければ幸いです。

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