待機側
私達の修学旅行から一週間が過ぎ、今度はクゥちゃんが修学旅行へ行ってしまった。これからの数日間はクゥちゃん抜きで活動することになる。
バカップルは先日の「彷徨い」がよほど辛かったのか今日は現実を満喫するらしい。つまりはデートでもするんだろう。
午後から用事があるというシンセさんに午前中に蜃気楼の村まで連れてきてもらった。
もしまた蜃気楼の塔へ行くときに、また真実の果実を手に入れるところから始めるのは大変なのでガツガツ狩りをやる気がない今日みたいな日に一つ二つ真実の果実を手に入れておくのも悪くない。
「じゃあ私はこれでぇ~」
シンセさんは村にある転移ポータルを使ってどこかへと去っていく。最近私達と一緒に行動してくれていたけど、元々シンセさんには一緒に行動しているメンバーがいるのでまたしばらくは別行動になりそうだ。
「別についてこなくてもよかったのに」
シンセさんを見送った後、私は視線を横にいる人物へと向ける。
「どうせ誰もいないし、装備も新調したばっかりだし、キノミントゥルース探しは消耗も少ないし、って考えたら、ね」
と付いてきた理由を舞浜君は明かす。
「まぁでも前回は舞浜君が真実の果実手に入れたし、そういう意味では期待してますよ」
「時間もあるし、のんびりやりましょうか」
私の期待を込めた言葉に彼は視線を外す。
そんなことを言っているうちに森へと出る。採取に必要な手袋は前回の時にもらったのがそのまま使えるので再び村長さんの所へと向かわなくてもいい。
そして前回の時にはバラバラで探す作戦を採ったけど、今回は二人で一緒に探す作戦だ。こうすれば他の一人がキノミントゥルースを捕まえて逃げられそうになってももう一人でフォローできるはず。キノミントゥルースとの遭遇率や手間を考えれば急がないからこそ採れる作戦だ。
蜃気楼関連は察知系スキルはものの見事に機能しない。昨日蜃気楼の塔でクゥちゃんがカベワタリやラビリンスウォール、ウォールゴーレムといった面々に気づかなかったのもそのせいだ。
一方で目の良さは生きている。なので前回キノミントゥルースを探した時の「目の良さを活かして」というクゥちゃんの言葉はあながち間違ってないのかもしれない。でもこの【遠目】に擬態を看破する能力はない。
採取するのは舞浜君だ。理由は言わなくてもいいと思うけど、私が飛び道具を使えるからだ。まるでパシリのように彼を顎…指で使いながらそれが尽く「はずれ」だったところでお昼ご飯の時間が近づいてきたので一度ログアウトする。
昼食後に再びキノミントゥルース探しをする。動き回ると当然満腹度や渇水度といったものが減少するわけだけどこの両方とも「はずれ」で補える。つまりキノミントゥルース探しは実質物資を消耗することがない。
唯一の問題点は「溜まっていく」こと。イライラとか、ストレスとか、光の果実とか光の果実とか…光の果実とか。前二つは時間に追われずのんびりやっている分には溜まらないんだけど、あとの奴がね…満腹度や渇水度の回復のために食べてもガンガン増えていく。
今日は全部舞浜君のインベントリに消えているので私の方は食べた分だけとりあえず減っている。全体では食べた分を引いても30個は増えている。
「インベントリ余裕ある? ちょっと俺危ないんだけど」
木の実を採取し終え、『無事に』光の果実であることを確認した後木から降りてきた舞浜君が尋ねてくる。
「え? もう危ないの?」
「倉庫で整理すればよかった…、こっちの村に無いのは誤算だった」
私が驚くと舞浜君は申し訳なさそうに続ける。蜃気楼の村には倉庫もなければお店もないので処理は難しい。
「ちゃんと整理して来ないと」
と言いながらトレード申請をして、光の果実を入荷する。遠慮される意味もないので、舞浜君のインベントリに余裕が出るくらいまで送ってもらう。
「申し訳ない」
と畏まる舞浜君に優しい視線を送ってあげる。
もう少しで夜の時間帯が来てしまうのでキノミントゥルース探しは諦め村へと向かう。でもやっぱり誘惑には勝てず道中の木の実を採取して回り、「はずれ」を引き続けているうちに夜になってしまった。
でも、
「きれい」
村にたどり着かなかったのは悪くなかったのかもしれない。あちこちに生る光る木の実は、まるで木の実の外観をした街灯のように夜の森を照らし、木の葉の合間から垣間見える空の黒と、光に照らされないところに落ちる影とともに幻想的な景色を作り上げていた。
画像珠を持っていなかったのでSSを撮るしかなく、これではみんなに見せびらかすこともできないので次来るときには持ってくると心に誓う。
光る木の実がもしかしたらキノミントゥルースかもしれないという誘惑にはどうしても勝てないので、一つ一つ光源を採取していきながら村へと戻っていく。
「キノミン!」
すぐ目の前に見える位置。最後の一個というところで舞浜君がついに「あたり」を引き当てた。採取されたキノミントゥルースはぴょんと跳ねてすぐさま舞浜君の腕の中から抜け出して木の下に落ちてくる。
待ってましたとばかりにそこに私が投げたブーメランが突き刺さった。
それによってキノミントゥルースが動きを止めている隙に舞浜君は木から降りてきて、剣を叩き込む。やや吹き飛ばされたその先には私の攻撃がもう向かっていた。
ビッグブーメランは吹き飛んできたキノミントゥルースに当たり、光の粒が体から漏れだす。本来であればそのまま消えるんだけど、キノミントゥルースは一回り小さな球体を残す。光の果実が強く光を発するならこちらは淡く優しい光を放つ球体、真実の果実だ。
「こんな風にドロップするんだね」
モンスターによるドロップはそのままインベントリに入っていくことが多いので、その場に残るのは新鮮だった。
「ちゃんとロックがかかってるから倒したパーティしかしばらくは拾えないようになってる」
と近寄る舞浜君の言葉を聞きながら、私はガラス玉のように透明な中に光を渦巻かせるそれを拾う。
「目的も達成したし、村に戻りますか」
「村長にこれの処理を頼みたいしね」
そう言って舞浜君は光の果実をインベントリから一個取り出す。
「知り合いだからってそこまでできるかわからないけど…、いざとなれば捨てればいいんじゃない?」
「ええ!」
さすがに捨てるのには抵抗があるらしい。一か所に大量に捨てると邪魔になってしまうこともあって抵抗があるプレイヤーは少なくない。でもいざとなったらまた誰かに付き添ってもらう前提で別の町に転移するか捨てるかのどちらかを選ばなければいけない。
蜃気楼の森の場所はなんとなく分かったので、誰かに付き添ってもらう前提と言うのは周辺に出てくるモンスターとの相性だ。
村に入ってからまっすぐに村長さんの所へ向かう。夜の村も所々光の果実が明りとして利用され夜道を照らしている。
村人は見当たらず、家々の窓からは光が漏れ、煙突のある家屋からは煙がもくもくと上がっている。
村長さんも例にもれず夜は家の中無いいるらしい。普段上がることのない階段を上がってドアをノックする。NPC相手にならば中々図々しいことができる自分に心の中で苦笑いしてしまいそうだ。
「おや、何か御用でも? 丁度夜ご飯のところですからおいでなさい、そこで話を聞きましょう」
「あ、えっと…別にそんなつもりじゃ」
「手短に済む話ですから」
家に連れて行こうとする村長さんに二人で抵抗する。
「はは、私も話がありましてね、時間があるのならばご一緒にいかかですかな? おーい! お客人だ」
と村長さんは奥にいる誰かに向かって叫ぶ。
時間があるので、お邪魔することにした。
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NAME:ナギ
【ブーメラン玄人】Lv43【STR強化】Lv43【ATK強化】Lv38【SPD強化】Lv36【言語学】Lv41【遠目】Lv42【体術】Lv49【二刀流】Lv60【祝福】Lv30【スーパーアイドル】Lv39
控え
【水泳】Lv28
SP63
称号 ゴブリン族のアイドル 恋に惑わされる者 ホマレの惚れ人 ファルカナンドの救世主 かまくら職




