蜃気楼の塔
キノミントゥルースとの戦いに勝利した翌日。私達は蜃気楼の塔へと向かうことにした。
学校が終わってからの時間ではすぐに夜が来てしまうけど、クゥちゃんが週末から修学旅行らしくしばらくログインできなくなるので、お預けをするのも酷だろうという考えからだ。
それにミカちゃんがいれば夜の視界の悪さもそこまで大きな問題もなくなるし。
蜃気楼の村に全員が集まると、この村の村長さんの所へと向かう。昨日と全く同じ場所に立っていた。
「おぉ、真実の果実は見つかりましたかな?」
私達の顔を確認すると、村長さんが首を傾げて尋ねてくるので頷く。
「ふむ、ならば案内しましょう」
と村長さんが動き出すのでそれについていく。
蜃気楼の村を出て、森を抜ける。突如として現れる砂漠地帯を村長さんは明確になんらかの目印があるかのように突き進んでいく。
途中に出てくるモンスター達は私達で倒し、なにも見当たらない砂漠を突き進むこと数十分。ついに村長さんが足を止める。
「ここじゃな…」
「……何もないみたいですけど?」
ぽつりとつぶやく村長さんにミカちゃんが首を傾げる。
「ここからじゃあなた方には見えませんから……私より一歩先に踏み込むといいでしょう」
と村長さんが道を空けるようにして立ち、手でその先へと進むことを促す。
恐る恐る村長さんの横に並び、そこから一歩踏み出す。
「うわ!」
「うぉ!」
パーティメンバーのそれぞれの声が上がる。一歩踏み出した瞬間すぐ目の前に黄土色の塔が現れた。
「そこへ踏み込めるのは真実の果実を持つ者とその仲間のみ、さぁ、お行きなさい」
村長さんに別れを告げて、私達は塔の中へと足を踏み入れる。……あれ? 村長さん帰り大丈夫かな。
塔の中は若干暗く視界はいいとは言えないけれど、壁にはろうそくが置かれかすかな光を供給しているので松明を使ったぐらいの視界は手に入る。
「あ、時間が減っていってる」
クゥちゃんの言葉で視界の端に時間が映っているのに気づく。これが0になった時に塔から強制的に追い出されることになるんだろう。
「じゃあ早速進みましょう」
「カッサがいないのが若干面倒かもな」
ゆうくんが先頭に立ち、一番後ろに舞浜君が立つ隊列を組んで進んでいく。入り口からすぐは一本道の廊下だった。
最初の部屋に到達する。モンスターの影はない。部屋の出入り口は二つ。私達が入って来た方を除けば一つなので、そこから部屋を出る。
今度は一度右に曲がった。その先に少し広めの部屋があった。そこにいるのはキノミンシリーズ。キノミンイエローにキノミンブルー。その数は合計で数十匹。
私達が部屋に入るとそれらが一斉にこちらを振り向いて襲い掛かってきた。
スポットライトで注目を集めると、彼らは一斉に動きを止めた。
「ナギちゃんより弱い判定ってことだね」
とクゥちゃんは意気揚々と前線へと出ていきキノミン達を狩っていく。見ようによってはクゥちゃんが通過するだけでキノミンが消えていくようにも見える。それぐらいここのキノミンは弱いらしい。
それから数回キノミンの群れと遭遇するも、実力差があり一瞬で終わる。こうして塔に入って数分で2階層へと進む。
「一時間で十階層って…一階層6分の計算だよね? ボスとか出ないのかな?」
「ボスと戦っている最中は無効とか?」
疑問に思うクゥちゃんに一応答えてみたけど、結局それは後で分かることだろう、と結論付けて先を急ぐ。
二階層目からキノミンの種類が…というより色が増えた。キノミンレッドにキノミングリーンが追加される。
赤青緑黄と色とりどりのキノミン達を駆逐してそそくさと三階へ。
三階から登場するのはキノミンピンクにキノミンブラック、ホワイト…シルバーという色シリーズ。徐々にメンツが揃っていっているのではないだろうか。何の…とは言わないけれど。
四階層目。私の予想は的中した。
「キノミンレンジャー!?」
真っ先に声を上げたのは先頭に立っているゆうくんだった。
キノミンレンジャーの姿は私の予想とは多少違い、普通のキノミンがヒーローベルトを着けている感じだった。しかも「キノミンレンジャー・レッド」を中心にブルー、グリーン、イエロー、ピンク左右に立って(?)私達を待ち構えていた。
「キノミンが五体揃っただけじゃキノミンレンジャーにはならないのねぇ」
そのシンセさんの言葉はみんなの気持ちを代弁していると言っていい。
しかし、彼らは特殊なようで異様に強かった。レンジャーのうち一体が欠けることで格段に弱くなったけれど、これまでの階層の強さを考えると二つ三つランクが上のエリアのボスが急に出てくるような印象だった。一体欠けた瞬間これまでの弱いキノミンと大差ないけど。
キノミンレンジャーの五体揃った時のタフさに戸惑いながらも次の階層へと進むことができた。
キノミンレンジャーにブラックやホワイト、シルバーのどれかが加わった六体体制のキノミンレンジャー。それらの追加メンバーは他の五体と比べて強く厄介であり、先に倒しても他のメンバーは弱体化しない。
でもやっぱり主要メンバーの一体が欠けると格段に弱くなる。
攻撃型のホワイトは誰かがひきつけているうちに主要メンバーを倒せばいい一方ブラックは撹乱型、シルバーは主要メンバーを守るようにして動く防御型なので主要メンバーを倒すのも簡単じゃなかったりする。
そしてさらにキノミンエイローやメタルキノミン、ヒーローベルトにヒーローマントを羽織った白色のキノミンヒーローなんかの多彩なバリエーションを持つキノミンシリーズがそろい踏みだ。
五階層を突破したころ、残り時間は十分ほどしか残っていなかった。
もうキノミンシリーズは追加できないだろう、という気持ち半分、まだゴールドやトゥルースが出てないからもっと種類があるのかもしれないという気持ち半分で六階層へと挑む。
六階層は部屋が見当たらない。通路だけの階層らしい。
出現するモンスターは「カベワタリ」。煉瓦でできた壁が急ににょきっと膨らんだかと思うとすぐさま人型の上半身を形作ってどこから持ち出したのかわからない剣を振り下ろしてくる。
壁に巨大な胸像のようなものがついている、と思えばそれがウォールゴーレムというモンスターだったり、その一撃の騒音でカベワタリが集まってきたりと散々だった。
急に現れるカベワタリを面倒に思いながらも六階層を歩き回る。
「……道がない…ですよね?」
壁に突き当たった。一本道ではないのでいくつかの道を試したけれど、どこを通っても最後は行き当たりに阻まれる。
「全部の道を試したと思うけど」
先頭に立つゆうくんにクゥちゃんが答える。
「どこかの壁がモンスターとか?」
「じゃあ殴ってみる」
舞浜君の言葉を受けたクゥちゃんは壁を殴る。
「……反応なし」
「他の行き止まりに行きましょう」
しばらく待ったけど反応はなく、クゥちゃんが呟くとゆうくんが次の場所へ行くように促す。残り時間は少ない。せいぜい試せて一つ二つの壁が限界だろう。
途中カベワタリや、さっきまでそこにはなかったゴーレムが設置されていて戦わなければいけなかったりしながら、一度訪れた行き止まりに戻ってくる。
「じゃあいくよ」
とクゥちゃんが殴る。
「……反応な………ああぁ!」
反応なしとクゥちゃんが言う前に、目の前の壁が私達の方に向かって倒れだした。
慌てて全員退避する。さっきまでただの壁でしかなかったそれに「ラビリンスウォール」という名前が表記される。
壁は倒れた後立ち上がり、何事もなかったかのように立ちふさがる。もう一度クゥちゃんが攻撃を仕掛ける前に
「またカベワタリが集まってきた!」
狭い通路の壁に人型に浮きあがった煉瓦の集団が左右に並ぶ。その混戦を抜ける間もなく時間は過ぎ去った。
砂漠には夜が訪れ、舞浜君のインベントリからは真実の果実が消えた。私達の視界に蜃気楼の塔は映らなくなっていた。
それから砂漠を彷徨い続け、なぜかホレイーズにたどり着き、ログアウトした。
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NAME:ナギ
【ブーメラン玄人】Lv43【STR強化】Lv43【ATK強化】Lv38【SPD強化】Lv36【言語学】Lv41【遠目】Lv42【体術】Lv49【二刀流】Lv60【祝福】Lv30【スーパーアイドル】Lv39
控え
【水泳】Lv28
SP63
称号 ゴブリン族のアイドル 恋に惑わされる者 ホマレの惚れ人 ファルカナンドの救世主 かまくら職人




