真実の果実
シンセさんに案内されて蜃気楼の村の村長の所へとやってきた。村長の家は村の家々と比べて一回り大きいというくらいで特別と言う感じはしない。高床式の家で、玄関に行くには階段を上る必要がある。
だけど村長NPCはその階段の下の隣にぽつりと立っていた。
そのNPCは口には白いひげを蓄えており顔つきは優しくダンディなおじい様。杖をついて立つその腰はやや曲がっている。そして同時にどこか見覚えがある顔つきだった。
「おや、御客人ですかな?」
優しい顔つきの村長さんは私達の姿を見るとより目を細めた。
「私達蜃気楼の塔に行きたいんですけど~」
村長に応対するのはシンセさんだ。最低でも一度はこの村に来ているみたいだし、よく知っているのだろう。
「ほう…あの塔に興味がおありですか……案内することはできますが、あれは真実の果実を持たぬ者は寄せ付けませんからねぇ、それを持ってもう一度ここにおいでなさい」
と村長さんが言い終わるとクエストが発動した。
「クエストにしておきましたから、あとはそこに書いてある説明を読むといいでしょう」
と親切な説明を終えた村長さんと視線が合う。
「おや、懐かしい…覚えておいでですかな?」
と村長さんに話しかけられた。
「ええと…よく思い出せなくて」
どこかで見覚えがあるんだけど思い出せない私は素直に答える。
「ふむ、確かに…エイローのホテルで一度会話しただけでは忘れられても仕方ありませんな」
と村長さんは顎に手を当てた後顔をほころばせる。だけど今の一言でなんとなく思い出した。
「あ! あの時の!」
「ナギちゃん…変な知り合い多いね」
私が村長さんの正体を思い出すと同時にクゥちゃんから呆れられる。でもあれはクゥちゃんと出会う前だし。
エイローイベントの時、メルサさんをあちこちに連れ回すためにホテル「ヘルオアヘブン」で待っていると、話しかけてきたジェントルマンだ。あの時は上品な服装をしていて、今は素朴な格好なので全く気付かなかった。
「おお、思い出していただけるとは…あの時接触したことは怒られましてねぇ、あなたにも迷惑をかけたようで、申し訳ない」
「は、はぁ」
何か迷惑をかけられたっけ…もう忘れてしまった。…いや、バニー・バーンから誰と会話したか聞かれることがあったけどそれと関係があるのかな。
私の困惑した様子にも村長さんは優しく微笑みを投げかけるだけだった。
「あとはこれを」
と村長さんは手袋を差し出す。シンセさんはすでに持っているみたいで私達の分だけ配られた。
思わぬ再会に戸惑いつつも、元気に森へと出発する。
真実の果実は蜃気楼の村周辺の森になる木の実で、村にたどり着くまでに見かけた光っている木の実がその可能性を秘めているとか。
「あの木の実は~、光の果実かキノミントゥルースのどちらかで~、キノミントゥルースから真実の果実がドロップするのよ~」
と一度経験しているというシンセさんが教えてくれる。「キノミントゥルース」は一度採取しないと動き始めないらしく、採取を可能にするスキルを持ってない人たちはさっき村長さんから渡された特別な手袋を装着すれば採取可能になるそうだ。
採取されると襲い掛かるのではなく逃げるそうなので注意が必要だ。逃げ足はキノミンゴールドほどではないとのこと。
真実の果実は人数分ではなくパーティで一つ持っていけばいいらしい。この分なら蜃気楼の塔に行くのにもそんなに時間はかからないだろう。
「そういえばシンセさん、蜃気楼の塔ってどんな感じなの?」
キノミントゥルースを探しながら尋ねてみた。確か制限時間が一時間で、十階層のダンジョンだったはずだ。
「さあ?」
だけどシンセさんからはその答えは返ってこなかった。なんでもまだ蜃気楼の塔へは行ってないらしい。
「ばらばらで探す方がいいわよ~、この森はキノミントゥルースしかいないから死に戻ることはないから」
ということで一度みんなバラバラで探すことになった。
白く光る木の実はあちこちで見かけることができる。特別な手袋は木登りにも補正をくれるらしく、すいすいと木を登って、木の実を採取していく――
「ああ! もう!」
私は周囲に誰もいない森の中で声を荒げる。
キノミントゥルースを探し始めて数十分が経っていた。これだけ沢山の木の実に、この特別な手袋、真実の果実はパーティで一つでいい、そしてバラバラでの捜索。この感じなら楽勝だと思っていたけど先程から採取する木の実は尽く光の果実だった。
今思えばさっきのシンセさんにもっと深く追及しておくべきだった。彼女が蜃気楼の塔に行ったことがないのも何か特別な事情があったからではなく、きっとキノミントゥルースを見つけられずに諦めたからに違いない。
『5個もあれば一つは引っかかると思ったんですけど…やっぱり全部光の果実ですね』
パーティチャットでゆうくんの声が聞こえてくる。情報交換は随時行っているけどキノミントゥルースの発見報告はない。
私のインベントリが光の果実でいっぱいになっているようにみんなのインベントリも光の果実によってそのスペースのほとんどを埋められていることだろう。
『見分ける方法とかないの? いちいち木に登って採取するの面倒くさくなってきた』
『あったら苦労してませんよ、っていうかクゥさんが蜃気楼の塔に行きたいって言うからこうなったんじゃないですかぁ』
クゥちゃんの発言にミカちゃんは発端はクゥちゃんにあると訴える。
『うぐ…そうだナギちゃん! 目の良さが活かせないかな!』
とクゥちゃんが提案する。目の良さは決して鑑定するためのものではないんだけど…それ以前に
『そもそもキノミントゥルースを見たことがないから見分けるとかそういう問題じゃ…』
『他のパーティの喜びの声が聞こえてますよぉ~、みんなもがんばりましょ~』
シンセさんは未だ自分のペースのままだ。
ため息をつきながら近くに木の実を見つけ、木に登って採取する。すると急に真ん中あたりがぱかっと割れて、鋭い歯が生えた口が現れた。
「うわぁ!」
と思わず投げ飛ばしてしまう。しまった!
慌てて気を下りて、逃げ始めたキノミントゥルースを追いかけ…
「ぬわぁ!」
る間もなくキノミントゥルースは自らの身体(?)を強く発光させた。急なフラッシュ攻撃に目くらましをされて目が元に戻るころにはキノミントゥルースの姿はなかった。
『キノミントゥルース逃がしたぁ~』
『ナギちゃんしっかり!』
『ナギさんのバカァ!』
『光って目くらましするなんて思わなかったんだもん!』
逃がしたの報告にクゥちゃんとミカちゃんから返事がくる。ミカちゃんは若干イライラしている。まぁ私もフラストレーションは溜まっている方なのでその気持ちはわかるんだけど。
『ナギさんドンマイ、それにまだ近くにいるかもしれないよ』
舞浜君は優しい。
言われて周囲を見渡すと光っている木の実は先ほどのキノミントゥルースの発光に呼応するかのように光が強くなったり弱くなったりしていた。しばらくするとそれもおさまる。
結局それから時間いっぱいキノミントゥルースを探し、最後は舞浜君が真実の果実を確保した。
村に戻ってログアウト。蜃気楼の塔はまた後日ということになった…。
――――――――――
NAME:ナギ
【ブーメラン玄人】Lv41【STR強化】Lv42【ATK強化】Lv36【SPD強化】Lv35【言語学】Lv41【遠目】Lv42【体術】Lv49【二刀流】Lv60【祝福】Lv29【スーパーアイドル】Lv38
控え
【水泳】Lv28
SP60
称号 ゴブリン族のアイドル 恋に惑わされる者 ホマレの惚れ人 ファルカナンドの救世主 かまくら職人




