夢見の王国
転移ポータルで降り立ったのは防衛イベントの時と違って街のとある一角だった。
大きな城が見えて、その周囲を取り巻く家々は防衛イベントの時よりも生活感のある外観をしていて、街行く人々には戦いの前の準備という名目以外の活気で溢れていた。まるでこの空間はずっと前から存在していたかのように。
「市場もあるみたいだね、行ってみよう」
転移ポータルから視界に入るところに市場があった。クゥちゃんにつれられるようにして市場へと向かう。
市場はNPC達で構成されていた。売っている品もそれぞれ特色があって、料理用の素材、鍛冶用の素材、木工用の素材、とそれぞれの露店で並べられている物が違う。元々ある店から安く売れる物を市場の露店で出して本店の宣伝も兼ねているみたいだ。
それでも私が行ったことがあるどの町よりも品ぞろえはよかった。
防具や武器の店の隣に鉱石店が。
「うちの工房で扱っている鉱石だ、うちには誰でも使えるスペースがあるからここで買ってそのまま工房に行ってもいいんだぜ」
「うちの店はここの工房の職人さんが作った防具を売っているよ! 本店にはとっても珍しい装備があるから機会があったら行ってみてね」
そんなことを言いながら客の視線を集めようとしている。まだプレイヤーの数は少ないのか、見た限りではNPCと思われる人たちが多い。
でもこんな風に見せられるとついついその本店とやらに行ってみたくなってしまうのも仕方がない。新しい町だしお店のチェックは必要だよね。
「いらっしゃいませ」
防具屋の方は高級ブランド店のような店構えで言葉を失った。店に入ると執事のような店員さんが出迎えてくれる。露店の時のフランクさはどこへ。
売っている物もなんかすごそうだ。売っているというより飾られている、という方が正しく感じるショーケースに入れられた防具。
赤い色に炎が燃えているようなオレンジの模様が入っている「ドラゴニア」装備に、プラチナカラーの「白竜騎士団モデル」装備。二階の奥に堂々と飾られた「ドラグーン」装備。
性能は十分、特殊な効果もついているけど、値段がすごかったよ。だけど装備を新調したばかりの私には今すぐほしい、と思えるほどじゃなかった。装備一式の値段がね、もう少し安ければね、もっと心が揺れたと思う。
「舞浜君、なんか気になったの?」
「この白竜騎士団モデルが防御よりの性能だし、それに軽そうだなぁって思って」
舞浜君はプラチナカラーの「白竜騎士団モデル」が気になるらしい。
「買えば?」
「あのドラグーン装備も気になるんだけど…金額がおかしいし、どうしようかな」
悩む舞浜君は余計に悩みの溝にはまってしまった。ドラグーン装備はこの店の中で一番というか、既存の防具の中でもぴか一の性能だ。額は桁が3つほどおかしい気がするけど。
「こういうのって他にも手に入るパターンだよ」
悩む舞浜君にクゥちゃんも親身になる。盾役の強化はパーティにとって大事な話だからね。
「じゃあ、買います」
舞浜君が意を決したようにカウンターの方へ、防具はショーケースから取り出されるわけじゃなくて普通に奥から持ち出されてきた。舞浜君は一瞬意表をつかれてたっぽいけどすぐに気を取り戻して購入した。
「これで多分舞浜はお年玉が無くなったな」
クゥちゃんが怪しい笑みを浮かべる。キノミンゴールドを探せで手に入れたお金の事だろう。
「なくしてもいい投資だと思うけど…」
とつっこんでおいた。
早速装備して見せた舞浜君には「まぶしい」「目が痛い」と私達二人から苦情が寄せられることになり、結局以前の防具のまま歩き回ることになった。
次は武器店。
武器店は隠れた名店のような雰囲気を醸し出す店構えだ。上等なものはしっかりと飾ってあるけどそうでないものは置けるところに置いてある、という感じだ。
ここにも「ドラゴニア」が置いてあった。「ドラゴニア」は武器の種類は関係がなく、そしてその名前がつくものは大体赤色に炎を表していると思われる模様がついている。
剣や槍には「白竜騎士団モデル」もあった。カウンターの向こうに佇む無愛想な店主の後ろには大事そうに高々と「ドラグーンの槍」が飾られている。お値段は大変なことになっているけど一応販売品らしい。
いっそのこと、と舞浜君はここでも「白竜騎士団モデル」の剣を購入。武器の方もまぶしく輝くプラチナカラー。幸い鞘に収まっているうちはその凶悪な眩さは目に入らない。
「舞浜君、お金は大丈夫」
「まぁ、年明ける前に戻ったと思えば…」
私の問いかけに彼はそう答える。この場合大丈夫と受け取っていいんだろうか。
それから雑貨屋へ。「ドラゴニア」シリーズはここでも猛威を振るい、投擲武器から楽器に至るまで存在した。
「多分ここドラゴニア王国っていうのが実名なんだと思うんだけど、気のせいかな?」
「夢見の王国ダヨ」
防衛イベントの時のデュラハーンの「夢」という言葉をそのまま当てはめるなら今のこの国も夢になるはずだ…夢見の王国と付くぐらいだし。その夢の元となる国が「ドラゴニア王国」であった可能性は高いんじゃないだろうか。私の問いかけにクゥちゃんも同じようなことを想ったのか若干片言で答えてくれた。
そんなことをしているうちにプレイヤー達が続々とこの地にやってきた。NPCでにぎわっていた町が今度はプレイヤー達でにぎわう。
「まだ散策したいけど人が多くなってきたし、外に出てみますか」
「そうだね、舞浜君も装備新調したし試してみもんね…まぶしいけど」
クゥちゃんの提案に頷いて、外に出ることになった。丁度一番近かったという理由で東の門から外に出る。
東のエリアは相も変わらず少し遠くに丘が見える平原で、足元には丈の短い草花が生い茂っている。真っ先に目に入ったのは…鹿? トカゲ…、いややっぱり鹿?
「なんだあれ?」
舞浜君が首を傾げるのも無理はない。頭には角があり風貌は鹿っぽい。だけどその表面は爬虫類を思わせる鱗に覆われていて、頭上から背中にかけて鹿のような毛が鱗を覆っている。口元は鹿。尻尾は長めでトカゲのような尻尾。脚のつき方は鹿だけど足先は細かい指に別れて先には鋭い爪がついている。
「マジダリー」という名前が頭上に表示されている。そしてその名前に恥じぬ眠そうな目をしたモンスターだ。名前だけ見ると「カッタリー」を思い出すけどカッタリーは馬っぽいので鹿とトカゲを混ぜ合わせたような「マジダリー」との外見は全然違う。
「とりあえず、戦ってみよ」
クゥちゃんは戸惑いを隠せない表情のまま口に出す。こういうふざけたようなモンスターが地味に厄介で強いのがこのゲームでもある。
「まぁやられたらやられたでまた散策に戻ればいいし」
と舞浜君も戦うことに異論はないみたいだ。
「じゃあやりますか」
のんきに足を崩して休み始めた「マジダリー」を見ながら私は攻撃準備を始める。まず手始めにチャージスロー。
カキン!
「「「え?」」」
鱗によって弾かれた。マジダリーさんは一瞬こっちを見た後何事もなかったかのように首を下して眠り始めた。
「「「え?」」」
やっぱりなんかめんどくさそうなモンスターだった。
――――――――――
NAME:ナギ
【ブーメラン玄人】Lv37【STR強化】Lv40【ATK強化】Lv33【SPD強化】Lv33【言語学】Lv41【遠目】Lv39【体術】Lv49【二刀流】Lv60【祝福】Lv28【スーパーアイドル】Lv37
控え
【水泳】Lv28
SP52
称号 ゴブリン族のアイドル 恋に惑わされる者 ホマレの惚れ人 ファルカナンドの救世主 かまくら職人
一週間ほどお休みします。




