クエスト…とな。
戦場に駆り出されまくった休日から一夜明け、週の始まりの日がやってくる。
「さむ…」
とはいえ冬全盛の気候の前に心地よい朝などやってはこないふいに出てしまった足先に冷気が当たり、再びひっこめなければならなくなった。戦いは続いている。寒さとの戦いか、はたまた自分自身との戦いか。…もしかしたら睡魔との戦いなのかもしれない。
「う…こんな時間……ふぁぁ」
ベッドからもぞもぞと這い出る。
「さむ!」
冷たい冷気が全身を襲い、ベッドのぬくもりからの温度差が余計にその寒さを実感させる。瞼は重いままだけど頭は目覚め、次のぬくもりを求めて足を動かし始める。背後のベッドに戻りたい衝動を押し殺し自らの部屋から出ることに成功した。
睡魔にも、自分にも勝つことができた。ただし寒さには勝てなかった。
「うう…」
一階のリビングにある炬燵へ一目散に潜りこむとぶるぶると震える。これは寒さによる震えであって会いたい気持ちによるものじゃない。
「トイレか…」
行くには距離がある。また寒さと戦わなければならない。
「く…」
我慢はよくないので駆け足で全てを済ませる。戻ってくると再び炬燵に潜りこむ。体が温まり余裕を持てるようになるとそれをリセットするかのように着替えを始める。全部リセットされてしまわないように素早く着替えるけど、どうしても体が冷える速度が勝ってしまう。
「はい、朝ご飯」
「よくわかってらっしゃる」
トーストとサラダに…コーンスープ! 寒い季節においてホットココアと双璧をなす彼のお方が私の食卓に並んでいる。
あったまっていいんだよ?
そう話しかけてくれている気がした。
「ほぅ…あったまるぅ」
「よく言うわ、起きてすぐ炬燵に籠ったくせに」
聞こえなーい、何も聞こえなーい。
ペース配分を間違いコーンスープを一番に飲み干してしまった私は慌てて残りのトーストとサラダを口に押し込み、コーンスープによる熱の貯金を使い果たさないうちに家を出る。
「さむ…」
貯金がすっからかんどころかむしろ借金ができるぐらいの状態になったころ学校にたどり着いた。
「おっはよう渚! 今日も相変わらず震えてるね!」
朝っぱらから元気がいいのは京ちゃんだ。スキップのような独特のステップでやってきたので冬服の制服でもしっかりとその大きな胸元が揺れる。
「震えてるとは失礼な! 凍えてるの!」
「ワンランク上だったのね…さ、あったまってあったまって」
と京ちゃんは席に着くように促す。教室は暖房が利いていてあったかい。
しかし戦いは終わっていない。暖かい教室は気づけば私をだらけモードにさせる。
昼を過ぎれば唐突な睡魔が恵まれた環境に忍び寄り、誰かが開けたドアによって流れ込んでくる冷気によってややふり払われるだけでしつこく攻撃を続けてくる。
「負けた…」
「ドンマイ」
最後の授業の後、結衣ちゃんに起こされた。今日は負けた。
そして帰りのHRが終われば再び寒さとの戦いが始まる…。
こうして戦いの一日を終えた私は着替えを済ませて寒さに対抗すべく体を温める。それからPCを起動させてまずは『○○記』公式サイトにアクセスする。アップデートは予定通りに終了している。結局どんな内容になったのかを見ると、
「夢見の王国実装!」
竜人族の末裔を悪夢から救い出すことに成功しました!
これにより夢見の王国とその周辺地域を新たに実装しました。
魔人族の国も実装されています!
「厄災・バロム」「キング・リッチ」「真・アニマ」「破壊神・デストロイヤー」「悪夢・ナイトメア」の全ての同時討伐達成により隠し要素が!
行く方法:英雄の末裔の小屋の中にある転移ポータル
と書いてあった。とりあえず、ログインしよう。
ゲーム内は昼。フレンドリストを開くと防衛イベントで共に戦ったみんなはすでに全員ログインしていた。
『クゥちゃーん、今どこ?』
早速クゥちゃんにコールを。
『エイロー』
もう行く気満々じゃないか。急がねば。
ビギから転移ポータルで一瞬にしてエイローへと移る。クゥちゃん達は迎えに来てくれていた。といってもクゥちゃんの他に舞浜君しかいないけど。
「あれ? みんな一緒じゃないの?」
「バカップルは先に行ったみたいだね、カッサも別のパーティに護衛してもらう形で向かったみたい」
ということらしい。
「でも、二人はどうして?」
考えてみれば夢見の王国で待ち合わせてもよかった。そう思ったので聞いてみた。
「俺がログインした時にはバカップルが先に行ってたし…」
「それに、簡単にはいかないみたいだし」
舞浜君の言葉をクゥちゃんがリレーする。
「どういう意味?」
「クエストクリアしないと小屋の中に入れてもらえないんだってさ…」
ただあそこに行けばまた防衛イベントのように無条件にあの場所へと行けるわけではないらしい。
「そのクエストって?」
「竜人の教えを知っているか、魅惑の果実を持ってくるかだってさ、パーティの場合は一人一ついるみたいだね」
とクゥちゃんが言う。魅惑の果実はキノミンエイローのドロップだ。竜人の教え…? あれかな、というのはあるけどどうなんだろう。
「まずは狩りに行くよ」
とエイローから出るわけですが…人だらけ。
「今日中にクエスト完了できますかね」
私の似合わない言葉遣いには誰も返事をしない。
「とりあえずやりましょう」
そう言って舞浜君は先頭に立った。
キノミンエイローが見当たらない…。数匹倒すことができたけれど、その時点で周囲からキノミンエイローの存在が見当たらなくなっていて他のパーティは別のモンスターを狩りながらキノミンエイローが出現するのを待っている。
「止まっちゃったね」
クゥちゃんもぼーっと他のパーティが違うモンスターと戦っている姿を眺めながら口にする。
「魅惑の果実は二つ揃ったんだっけ?」
「そうだね、二つあるよ」
「じゃあ行ってみよう、私竜人族の教えとかいうの多分わかってるから」
「そうなの!?」
私の言葉にクゥちゃんが驚く。言葉は出さなかったけど舞浜君も同じようでフルフェイスの兜で顔がよく分からないけど驚いている様子だ。
「多分」
「じゃあ並んでみようか…人も少ないみたいだし」
ということで並ぶことになった。カッサにコールして確認してもらうのもいいかもしれない、と思ってコールしてみたけどすでに夢見の王国に足を踏み入れていた。バカップルはコールに応えてくれなかったので取り込み中のようだ。
ということで確認することができないまま順番がやってきた。意外と時間は長くかかった。
小屋の扉の前に一人の男が立っていて、その前に列の始まりがあった。
「お前たちも俺の小屋に入りたいのか?」
私達の順番が来て早速男性が口を開いた。ややうんざりした口調なのは気のせいだろうか。
よく見てみると防衛イベントの時小屋のベッドで眠っていた人っぽい。あの時は顔までよく見れなかったから確信はないけど。
「はい」
私が答える。
「じゃあ、竜の教えを知っているか魅惑の果実を持ってこい」
「持ってきました」
と言ってクゥちゃんと舞浜君が魅惑の果実を渡す。
「二つしかないぞ? おまえは?」
「竜人の教えって…極みの心得のことですよね?」
私は恐る恐る尋ねた。各種族ごとに設定されている心得スキル。教えと言われて思いついたのはこれぐらいだ。ピクシーが変身、竜人が極みだったはず。
「その通りだ! よく知っているな、竜人族の友と見える、さあ、入るといい、小屋の中には大したものもないがな」
といって男性はそのまま小屋のドアを開けて奥へと招いてくれた。どうやら正解だったみたいだ。
ベッドの傍らにある転移ポータルに乗って、夢見の王国に足を踏み入れた。
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NAME:ナギ
【ブーメラン玄人】Lv37【STR強化】Lv40【ATK強化】Lv33【SPD強化】Lv33【言語学】Lv41【遠目】Lv39【体術】Lv49【二刀流】Lv60【祝福】Lv28【スーパーアイドル】Lv37
控え
【水泳】Lv28
SP52
称号 ゴブリン族のアイドル 恋に惑わされる者 ホマレの惚れ人 ファルカナンドの救世主 かまくら職人




