最終日
巨大モンスター二体同時撃破までは達成し、プレイヤー達は四体同時撃破に燃えていた。そしていよいよ今日の夕方が最後の戦いとなる。
だけどその前にみんな一度は四体同時撃破をやっておきたい、と考えているみたいで午前中に行われる夜の戦いの前である今も活気で溢れている。
「今の時点で相当人が多いからって、作戦が出た」
誰かとコールを使って連絡を取っていたらしいカッサが言う。
「その作戦って?」
クゥちゃんが尋ねる。
「それはな、局所集中型早期各個撃破作戦…らしい」
「わかんない」
滑舌よく言って見せたカッサにクゥちゃんは一言でけりをつける。実際よく意味が分からないし。
「簡単に言うと、強い人を一つの方角に集中させて早い段階で巨大モンスターを倒して別の方角へ、を繰り返す作戦らしい」
「最初からそう言えばよかったんじゃね?」
舞浜君は呆れている。
カッサによると最初は足止めしづらい北エリアで巨大モンスターを倒し、次に東、南、最後が西という順なようだ。
「西に出るバロムは放置してても町までこないっぽいんだとさ」
この優先順位は足止めしやすさが関係しているみたいだ。
「でも最初はどうするの?」
と私は尋ねる。たとえ巨大モンスターをそうやって倒す、と言われても巨大モンスターは戦闘の途中から現れる。最初っから人数格差があれば安全と思われている場所でも守りきれない可能性はある。
「最初っからみたいだね、まぁその分NPCを北以外に参戦させるつもりらしいし心配はあんまりないんじゃない?」
「で、ボク達はどうすればいいの?」
私の質問に答えたカッサにクゥちゃんが問いかける。
「自由にやってればいいんじゃない? 声がかかった人たちがやるだけで、他の人は普通に戦ってくれていいらしいし、時間を考えればむしろ巨大モンスターを削ってくれた方がいいってさ」
「ふーん、じゃあいつもと変わらない感じかぁ」
特別私達はどうこうしろ、というのはなく動けるみたいだ。
「ナイトメアとかはどうなるんだ?」
「そっちもすでに対応済みだとさ」
舞浜君の疑問もカッサに即座に返される。
「さて、みなさん、そろそろ時間が近づいてまいりましたが」
私は話題を変えるためにわざとらしい言い回しをする。
「バカップルの二人がいないことにもそろそろ触れましょう!」
そう、バカップルの二人がまだログインしていない。午前中といってもそんなに早い時間じゃないし、休日でもそろそろほとんどの人が活動を始めてもおかしくない時間だ。
「昨日のおやすみ電話が長引いたんじゃない?」
クゥちゃんの目つきが悪くなる。
「そもそもおやすみ電話をすること自体おかしいと思うけど」
「恋愛事情に口をはさんじゃだめだよ」
「違うよ、昨日はログアウトの時間が遅かったみたいだから今日のことを考えれば、ね」
とりあえず舞浜君には一日一慌てをしていただいて。
「遅れました」
「すみません!」
二人はやってきた。
「もう! 来ないのかと思ったよ? おやすみ電話なんかするから!」
早速クゥちゃんは攻撃を開始する。さすがは獣だ。先手を打つのは得意らしい。
「昨日はちょっとログアウトが遅くなったのでログアウト直前にすませておやすみの電話はしなかったんですよ、それで朝おはようの電話をしたら長電話になってしまって…」
「おはよう電話もしちゃだめでしょ!」
「どうやら俺達はカップルに付いていけてないらしいな」
遅れた理由を丁寧に説明するゆうくんの言葉を聞いて突っ込みを入れるクゥちゃんと、どこか遠い場所を見つめるカッサ。まさかおやすみ電話ができなかったからっておはよう電話で代用するなんて…それとも普段からおはよう電話をやってるんだろうか。
「ま、まぁ揃ったし、行こうか」
「よかったです! 舞浜さんだけ正常で!」
区切りをつけようとした舞浜君に普段は変なことを吹き込んで遊んでいるミカちゃんはこんなときだけ舞浜君を褒める。
「いや、時間がね…」
何か色々言いたそうだったけど言葉は出てこず、そのまま黙々と舞浜君は歩き出した。話し合いもしてないのに向かうのは南の門。どうやら今回は南エリアの戦闘に参加することになりそうだ…というか第二ステージに入って南にしか行ってない気が…。
巨大モンスターを倒せ、という押せ押せムードの中マイペースだった私達はすでに隊列を組んでいる人達の後ろの方に並ぶしかなかった。でも時間が経てば前へ出なきゃいけなかったりするので最初の位置はそこまで関係はない。
時間がやってきて戦いが始まる。最初はいつも通り静かな始まりだ。
それも少しの間だけ、跳躍力のあるデーモンやアークデーモンが次々とプレイヤー達に襲い掛かり、後方の魔人族兵は大砲を持ち出して砲撃を開始する。
列は乱れ始めて、あちこちで戦闘が開始される。敵味方入り乱れるようになるとスペースが必要になる。一定の距離で戦い、狭い場所から抜け出るように前へと駆け出す。
やや開けた場所に出るとすぐさま黒い影が頭上から降りかかる。
それを舞浜君が盾で受け止め、すぐさまクゥちゃんが蹴りを入れる。
黒い影の正体は「アークデーモン」ちょっと強めで倒すまでに時間がかかる相手だ。
乱入者が来ないか見張りながら誘惑で動きを止める。その隙にしっかりと陣形を整えて戦いを始める。アークデーモンと戦う時は舞浜君とクゥちゃんの二人がメインだ。私やゆうくん、カッサの三人は不意の乱入者に常に注意を張る。
ミカちゃんは回復。魔人族は魔法攻撃に極端に強いので攻撃に転じる必要はない。
誘惑で足を止め、パリィで攻撃をはじき、…さまざまな方法でアークデーモンの隙を作る。そしてそこにクゥちゃんが一撃を加えていく。隙の大小で時にアーツをキャンセルしながら極力その時に一番ダメージを出せる方法を取りながら。
まだ味方が多い場所だったために邪魔ものも入ってこずに戦闘を終える。徐々に場所も狭くなってきているので移動する。
そこから徐々に前へと出ていきながらデーモンを倒していく。意外と魔人族兵はこちら側まで攻めてこれていないようだ。
デストロイヤーが出現するのとほとんど同時に、私達は前線へと顔を出した。
「防ぎつつ削りつつ足止めしつつ…だよね?」
カッサに視線を送りながら聞くと、ただ首を縦に動かすだけ。人は少ない。邪魔が入った時にサポートしてもらえるかは微妙だ。だからといってサポート側に回るほど人がいるわけでもないので結局デストロイヤーと戦わなければ。
「おし! 削るぞ!」
「「おお!!」」
数は少ないけど味方がいないわけじゃない。
「ガード!」
出鼻をくじくようにデストロイヤーからの攻撃。ビーム系なので盾で防ぎきれる。
そこからは凄まじい戦いだった。油断をすれば乱入者がやってくるし、そっちに気を取られてデストロイヤーに痛手を食らうパーティもあった。私達はあくまで安全志向。生存と足止めに重点を置いて、削れないならそれでもいい、と割り切る感じだ。
ものすごく長く感じたけれど援軍はやってきた。そこで私達は後方へ下がった。
その数十分後。
四体の巨大モンスターの討伐に成功した。
幸いクゥちゃんの予想は裏切られ、次のステージはなかった。
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NAME:ナギ
【ブーメラン玄人】Lv36【STR強化】Lv39【ATK強化】Lv31【SPD強化】Lv32【言語学】Lv41【遠目】Lv37【体術】Lv48【二刀流】Lv59【祝福】Lv27【スーパーアイドル】Lv35
控え
【水泳】Lv28
SP42
称号 ゴブリン族のアイドル 恋に惑わされる者 ホマレの惚れ人 ファルカナンドの救世主 かまくら職人




