悪夢
町は混乱に陥っていた。
戦いが始まってカッサと合流した後、バカップルの二人がこちらに向かって小屋の前で並んでいることを連絡してきた。こんな状況下だから、とあちこちで即席パーティを作る中、私達は二人を待っていた。
私の得た情報はカッサや、あちこちを通じて少しは広まったと思うけど、まだまだ不安だ。特に北と南。脅威はこの二つの方角だ。
だけどそんな余裕はなかった。ようやくカップルの二人がこっちのエリアにやってきたかと思った時には巨大モンスターが各方角で出現。NPC達が町に戻ってくるのとほとんど同時に空に噂の黒いローブ姿の何かが現れた。
その巨大なローブは小さなローブをまき散らし、それとの交戦が始まった。
「武器での攻撃はあのでっかいのしか効かないみたいです」
近くで戦うパーティが叫ぶ。先ほどから辺りをうようよと飛び回るローブをミカちゃんに撃ち落してもらっている。
上にいる巨大なモンスターは「ナイトメア」。小さなローブは「レイス」というみたいだ。
レイスの弱点は光魔法。ただでさえ物理攻撃が効かないというのに魔法への耐性も高いようで光以外の属性の魔法では思ったより数を減らせない。一方光魔法であれば舞浜君の初級と中級の間ぐらいの魔法でも一発で消し去ることができる。
それでもナイトメアから数秒ごとに数十体規模で湧き出るレイスの数を減らせているかどうか怪しい。だけど、町の外を照らす光魔法を放っている人達が、手が空いた隙に町の援護に乗り出てくれたおかげで、レイスの数は目に見えて増えているわけでもない。一定の数を保っているという印象だ。
「遠距離攻撃できる人はナイトメアを! 光魔法を撃てる人はレイスを! 他の人達はその人達を全力でサポートしてください!」
おそらく仕切っているギルドのうちの一つのメンバーだと思われる人が叫ぶ。低くは私達の腰辺りぐらい、高くは二階建ての建物の屋根の上ぐらいの高さを飛び回るレイスと違い、ナイトメアはそれよりさらに一段ほど高い空の上でゆっくりと移動しているので近接系のプレイヤーでは攻撃が届かない。
レイスは私達の身体をすり抜けることができるので、壁役も役には立たない。
「口空けて!」
ごくごく、キュポッ!
「ありがとう」
光魔法が使える舞浜君とは違い全くできることがないゆうくんはポーションを取り出してそれをミカちゃんに飲ませている。ゆうくんが手に持っているMPポーションが消えては現れてミカちゃんの口へとつけられる。見ようによってはいちゃついているようにすら見える。
「舞浜!」
「サンキュ!」
一方舞浜君はカッサにMPポーションをかけられていた。こうすることで時間を節約できるけど回復量は下がってしまうので効率がいいのかはわからない。効率がどうのこうのよりも恋人からポーションを飲ませてもらっているミカちゃんと、同性からポーションをかけられるだけの舞浜君の姿に格差を感じた。
さて、私はというと遠距離攻撃が可能だけれどナイトメアとの戦闘には参加せずにみんなと一緒にレイス狩りに力を注いでいる。
レイスは私よりステータスが低いらしく、視線を奪うだけで彼らの動きが止まる。スポットライトを使えば周囲のレイスが一斉に動きを止めるのでまとめて消し去ることができる。
「釘付け」状態になっている敵にだけ効果があるステージフラッシュを一度だけ使ったけれどレイスにダメージを与えられなかったので、魔法攻撃っぽいけど違うんだと分かった。その時釘付けが一斉に解かれてしまってからはレイスへの攻撃は諦めて誘惑などで動きを止めることに専念する。
レイスの近接攻撃は威力こそ低いものの麻痺の効果がついているため極力近づけないように立ち回らなければならないうえに、彼らは魔法が使えるので距離があれば安心というわけでもないのが面倒なところだ。幸いナイトメアが攻撃してこないのでレイス殲滅班はレイスだけに集中できる。
倒すのが間に合わず、レイスの完成された魔法が放たれる。その先にいるパーティの前で私は立ちはだかった。
「おわ! っとどうも」
どうやらそのパーティの人達はレイスの魔法に気づいてなかったみたいだ。壁になった私にお礼を言うと、自らが相手しているレイスへと光魔法を放つ。
私が壁として機能するのはレイスの魔法が闇魔法だからだ。オスカー…じゃなかった「邪心の人形」様様である。
そしてついにナイトメアが動き出す。
一瞬にして町中を真っ暗闇にすると、私はそのまま地面に倒れた。それから目を閉じる。眠りの状態異常みたいだ。まだレイスもたくさんいたはずで、これは危ないかも。と思っても動けないんだけど。
あちこちで物音が聞こえる。多分魔法が放たれているんだろうけど、まだ体は動かない。
「うぐぅ!」
割と近くでうめき声が聞こえた。でも私の体は動かないので何が起こっているのかわからない。レイスが大量にいるにしても魔法による爆発音のような音が多いような…。
「おっ、お?」
とここで目が開けるようになった。…でも体が動かない。一応周囲には光が戻り何があるのか見ることができるけど、地面に倒れた状態なので体が動かせない以上大して何も見えない。
「ナギさん、大丈夫ですか!?」
ミカちゃんが駆けよってくるのが分かった。目が覚めたのはレイスに攻撃されたからで、体が動かないのは麻痺状態になってしまったかららしい。
ミカちゃんに治してもらって戦線復帰。
「ナイトメアがまた動く前にやるんだ!」
という叫び声に呼応してレイスにダメージを与えられない人たちが集中砲火で攻撃する。
私達は再びレイスの数を減らす方に全力を注ぐ。まだ各方角の防護壁は傷一つないみたいで、町の外のプレイヤーも頑張っている。
しばらくしてナイトメアを倒すことに成功した。その後も残っているレイスはNPCに任せてプレイヤー達は各方角へと散っていく。
「今のところ南も問題ないみたいだね」
「でも気になるね」
町の中での戦いが終わってパーティで集まると、舞浜君は南側の防護壁を見ながら口にする。私としては自分の情報がちゃんと伝わっているのか気が気でない。
「行くか」
とカッサの言葉を皮切りに南のエリアへと駆け出す。
デストロイヤーは結構町まで迫っていた。ぎりぎり攻撃範囲が防護壁に届かないくらいの距離だ。
「足止めしてるパーティが少ないな」
カッサがその様子を見ながら言う。2~3パーティで足止めをしている状態だ。しかも魔人族が時折飛びかかるのでデストロイヤーだけに集中できておらず、このまま持ちこたえられるとは思えない。
防護壁前も混戦状態だった。敵味方入り乱れるようにして戦っている。
その人ごみをかき分けるようにして進む。デストロイヤーさえ壁に近付けさせなければ問題ないはずだ。
近づいていくと、デストロイヤーの足止めをしているパーティの一つはお兄ちゃんがいるパーティだった。
「ナギちゃん! とりあえず周囲の奴らをどうにかしてくれると助かる!」
「分かりました!」
一番前でデストロイヤーを相手取るホムラとお兄ちゃんよりも先にバジルさんが私達に気づいた。私達がここに来た理由が分かったのかはわからないけど、バジルさんの言うとおりに周囲の魔人族を受け持つことにした。
黒肌の「アークデーモン」は見当たらず、「デーモン」と鎧姿の魔人族兵ばかりだった。
「倒すのはデーモン優先! 鎧は俺が止める!」
舞浜君はそう叫んで鎧を身に纏った魔人族へと突っ込む。ゆうくんがデーモンの前に立ちはだかって速やかに私達は陣形を作る。
誘惑で止めて、クゥちゃんが飛びかかり、ゆうくんが攻撃を受け止めてカッサが弓矢でわずかなダメージを与えつつも、私達を見つけて飛びかかってきそうな敵兵に牽制する。
残り時間はあとわずか。おそらくデストロイヤーは倒せない。
「帝国ーバンザーイ!!」
時間終了とともに生き残った魔人族はそう言いながら消えていった。
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NAME:ナギ
【ブーメラン玄人】Lv30【STR強化】Lv34【ATK強化】Lv26【SPD強化】Lv28【言語学】Lv41【遠目】Lv34【体術】Lv46【二刀流】Lv59【祝福】Lv22【スーパーアイドル】Lv27
控え
【水泳】Lv28
SP33
称号 ゴブリン族のアイドル 恋に惑わされる者 ホマレの惚れ人 ファルカナンドの救世主 かまくら職人
次回は金曜日です。




