ホムラとともに
料理屋を出た後、近くにある私たちが泊まっているのとは違う宿に行く。今度受けるクエストは薪割りだ。薪割り用の斧は誰でも持てるようになっているらしく私でも扱うことができる。
30本の薪を割るのが今回のクエスト内容となっている。ホムラの検証癖に付き合わされるように、まずは私が30本全て叩き割る。10本で1上がる。Lvが30に到達したことにより、【STR補正】を【STR上昇】にランクアップさせた。使用したSPは5。
ランクアップさせると15本で1上昇となった。クエストは一度しか受けられないものだったけど、報酬は一回分だけでいいからと頼んで、何度も薪割りをさせてもらった。ホムラは30本の薪を割っても上がらず、どうやらスキルのLvによって上昇率が変動するものらしい。しかしこのクエストはSTRと同時に斧のスキルもLvが上がることが分かった。
薪割りを、もういい、といわれるまで行った後は再び酒場へと赴く。街の中ではあまりプレイヤーを見かけることはないのに酒場の近くは話が別。初日ということで外の敵がどんなものか調べに行っていたりするのかもしれない。
ホムラは一通りクエストの依頼書が貼られている掲示板を眺めた後。カウンターの方に向かい、酒場のマスターに声をかける。
「なぁ、聞きたいことがあるんだが」
「はい、どういったご用件でしょうか?」
「ここに貼られている以外に何か手伝ってほしいとかいう依頼はないのか?」
「はて? どうでしたかな、仮にあったとしても他の人の目もありますしあなた方だけを特別扱いするわけにはいきませんからねぇ」
「そうか、わかった」
会話を終えた後ホムラは何かをつかんだような顔をしていた。
「何か分かったの?」
「いや、何も…だが、この街は気になることがある、NPCに色々聞くのもありだろう」
まずは手始めにと、私たちの宿まで戻る。
「おや? 何かご用件でもおありですか?」
私たちが素通りせずにカウンターにやってきたので、受付のNPCは何か疑問に思ったらしい。
「ああ、さっき別の宿で薪割りを手伝ったんだが…そこにはポータルなんてなかった、だからこの宿にも物理的につながった何かがあると思ってな、とくにあの扉が怪しい」
そういってホムラが指さす先には一つの扉があった。
この宿は入り口を入ってすぐにロビー、その右側に受付カウンターがある。受付カウンターを素通りしてまっすぐ進めば、ポータルがある。ポータルのある場所は壁で囲われており、左側の壁の向こうは食堂、右側は細い通路になっており、電球がないため暗くてよく見えないけど奥にしっかり一つの扉が目に入る。そして、外から見ると二階建ての建物なのに、ポータルの先はこの宿の二階とは思えない空間になっている。
「ほう? 気づかれましたか…よろしいでしょう、ナギ様とお連れ様なら特別です、しばらくお待ちを」
そういって受付のNPCは受付カウンターの奥にある部屋に入っていた。おそらく代わりに受付に立つ人を呼びに行ったのだろう。NPCが代理を呼びに行ってる間にホムラの気になることを聞いた。
ホムラが気になることはまず、イベントが始まってどこにもよることなく私が持ってきたアイテムで特別扱いされたこと。つまり【猛者の証】がイベントによる特別なエリアでも効力を持っていたことが怪しいらしく、ホムラの予想ではこのエイローの街はそのうち実装されるエリアで、イベントはその先行お披露目ではないかとのこと。
となればなぜ夜が来ないのか? その手掛かりになりそうな怪しい場所が自分のわかる範囲にあるということで扉に興味を持ったとか。
先行お披露目ではないか、という話をしているあたりでNPCが代理を連れて出てきて「ついてきてください」と言って案内してくれる。
ホムラの予想に対してにこやかな笑顔で、「さあ、私にはわかりません」といってホムラも、まぁそうだろうな、と返していたが、もしホムラの予想が正しいのならこのNPCもその辺のことを知っていると思う。
なぜなら他種族とはいえ「β時代から実装されていた」と発言するNPCがいる世界なんだもの、「このエリアはそのうち実装される予定です」とNPCに言われても私はすんなり受け取れる自信がある。
扉を開けるとそこには上の階へ上がる階段と下の階へ下りる階段があった。
「私が案内できるのはここまでですね、下へ下りてください、お連れ様が求めるものはおそらく上の階にはないでしょうから」
いわれるがままに下の階へ、そして降りた先には扉が一つ。
「いくぞ」
そういいながらホムラが扉を開ける。中はバーのようになっている、いや、テレビとかで見た情報でいいならキャバクラにもみえるような…。
「あら? まだ開店してないんだけど」
私たちに気づいた一人の女性がこちらに向かってくる。髪は金髪で肩の下ぐらいまでの長さがあり、頭には兎耳、細い赤フレームのメガネをかけて、顔は気が強そうな感じのバニースーツを着た女性だった。
「ホ、ホムラの好きそうな格好してる人だね」
「んあ!? 俺にこんな趣味は…」
「んふふ、冗談だよ」
そういうと、してやられたというように表情を緩ませた。最近、現実でもゲームでも落ち着いた感じの雄君を少しばかり動揺させられたみたいで、なんか勝った気分だね。これで30分待たせたのはチャラにしてあげよう。
「チッ、人前でイチャイチャしてんじゃねぇよ」
目の前のバニーガールのお姉さまが怒りに満ちた表情のままギリギリ聞こえるくらいの音量で言い放った。
「す、すみません…」
とりあえず謝る。この人なんかこわい。
「ところでここは何なんだ?」
ホムラは気にせず会話を進める。
「まぁ見ての通り、かわいいバニーちゃんとイケメンホールスタッフによるサービスが売りのバーだね、今はカーテンで閉められてるけど、あっちには一応ショーステージもあるわね」
入って右手にカウンター席、やや進んで左の壁際にはカーテンんがしてある。入り口からまっすぐ進めば普通のテーブル席なんかがある。今ははっきりとした明るさだが、それでもムードを感じさせる。そして、見ての通りというけど人はこのお姉さましかいない。
にしても、かわいい?
「小娘! 今どこがかわいいんだって思っただろ!」
「いえいえ、思ってないです!」
「チッ、彼氏がいるからって調子に乗りやがって」
なんとも口が悪いお姉さまだ。そしてさっき一瞬だけ殺気を感じた、下手に刺激しないように注意しよう。
「ってことは水商売みたいなところってことですか?」
ホムラも敬語になっている。
「そういうことにもなるかねぇ、まあそうだとしたら坊やには早いかもね、出直してきな」
「でも、こういう店っていいんですか? ゲーム的に」
ホムラですら若干下手になっている。
「ははっ、イベント前散々エイローがエロイだとかいって猿どもが騒いでたじゃない、まあ坊やが言うほど過激な店じゃないわ、一応全年齢対象の店さ、開店時間は現実の深夜帯の予定だけどね」
イベント期間中は夜の日しか開店しないけど、と付け加える。現実と聞いてホムラが不思議そうな顔をする。私はもう気にならないけど。
「現実? ってことはあなたはNPCじゃないんですか?」
「ん? そうね、私は『スタッフ』になるわね、要するに中身は現実の人間てこと」
この街にはいくつかこういった店があり、そこの責任者は中身が人間の『スタッフ』が担っているとのこと。その理由はプレイヤーが変な行動をとらないように管理するためとのこと。
「ならなぜこんな店を?」
「カジノ街を作りたくてねぇ、その雰囲気を盛り上げるためかしら」
ホムラの質問に淡々と答えていく。そしてハッと何かに気づき、
「ああ、忘れてたわ、私の名前はこっちの世界では『バニー・バーン』、この街の設計と運営を任された責任者よ、そして――」
バニー・バーン…様は、スゥっと一息おいて
「ようこそ、『夜の街エイロー』へ」
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NAME:ナギ
【投擲】Lv28【STR上昇】Lv3【幸運】Lv19【SPD補正】Lv22【言語学】Lv32【視力】Lv13【】【】【】【】
SP21
称号 ゴブリン族の友




