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ナギ記  作者: 竜顔
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Jane Dark

 剣を持っている右手をだらんとして力感はないものの、どこか威圧的な雰囲気を纏う立ち姿。焦点があっているかどうか分かりづらい、でも獲物を捉えて離さない目。


 整った顔立ちから美しさはそのままにかわいさは薄れ、不気味さが増すニヤつくような表情。


 それが目の前に立つ。昨日逃げられたジェーンダークと呼ばれる鎧姿の女性だ。年齢設定は若くしてあるのか、10代、20代前半くらいの顔立ち。


「あれが噂の将軍ってやつの一人か」


 後続のパーティも彼女の存在に気づいたみたいだ。


 彼女の視線が動く。私に、そしてクゥちゃんに。


 どちらに照準を定めたのかわからないけど、彼女は体を前に傾けると、その流れに体を預け駆け出す。


「来た!」


 舞浜君が動く。彼女の走るルートを作り出すように敵兵が左右に分かれてスペースができ、そこに迷わず飛び込んだ。


「グガァ!」


 昨日の奇声とはまた違った発声をしながら彼女は剣を振り下ろす。目の前に立つ舞浜君の盾とぶつかり音が鳴る。


「うぐ!」


 ジェーンダークは振り下ろした剣の勢いに乗ることで体の左半身が前へとつんのめる形になる。そのまま左手を突き出して舞浜君の盾を掴み、そこを基点にして自らの身体を持ち上げアクション映画のように空中で一回転して舞浜君を乗り越える。その時に彼の後頭部に肘を当ててダメージを与えることを欠かさない。


 舞浜君が盾でなければそのままバランスを崩して敵兵の集団に向かって体をダイブさせることになっていたかもしれない。


 ジェーンダークは舞浜君を乗り越えて着地した際におそらく衝撃を受け止めるために膝を曲げ、踏ん張って見せた。止まることを知らない彼女が自らの動きの中で停止するのは初めてだ。


 だけどそれすらも彼女の動きの一部。人間ではありえないくらいあらゆる動作が流れるようで、攻撃する瞬間以外に力感のない彼女にとってその一瞬の踏ん張りすらも「溜め」になるらしく、自ら地を蹴って一歩目を踏み出した駆け足のスピードは速く、舞浜君のフォローに入ろうとしたゆうくんに一瞬で詰め寄り、スピードを殺すことなく横に薙ぎ払うことでゆうくんを弾き飛ばし、その後ろにいる私達へと向かってくる。


「跳べー!!」


 その野太い声は知ってる声か知らない声か。その判別もつかないまま私達は横に跳ぶ。


 ドン!


 荒野の土が舞う。今まで見る中で一番の威力の攻撃だった。


 土煙が消えたころ、ジェーンダークは剣を振り下ろした前傾姿勢をふらふらと立て直すとすぐさま体を次の標的に向けると前へと預けて走り出す。その先にいるのはクゥちゃんだ。


 ジェーンダークが剣を振り下ろす。クゥちゃんは体を回転させて躱すとそのまま攻撃に移る。ジェーンダークは左腕でその攻撃を受け止め、持ち上げた剣で攻撃に転じる。クゥちゃんは後ろに跳んで躱す。


 チャージ完了。


 チャージスローで背中を向けるジェーンダークへ。的中。彼女の身体が前へ傾く、そこからまた何かするつもりだ。


 一度距離を取ったクゥちゃんもそれを感じたのだろう。再び詰め寄って地を蹴って足を振り上げ踵落としの構えを取った。


 落とす。


 ジェーンダークは地面に打ち付けられた。


「あぶね」


「ありがと」


 ジェーンダークから距離を取りながらホッと一息吐く舞浜君に、クゥちゃんも同様に距離を取りながらお礼を言う。


 クゥちゃんの踵がふりあがたっ瞬間ジェーンダークは体を回転させ始めた。おそらくクゥちゃんが踵を落とすタイミングで攻撃を仕掛けるためだったに違いない。舞浜君はそれを察知して飛び込み、ジェーンダークの体の回転に付き従っていた剣に盾をぶつけ、彼女の体の回転を遅らせた。


 それによってクゥちゃんの踵落としが決まった。


 追撃は忘れない。フックブーメランで彼女が立ち上がるのを遅らせる。


「グガァ!」


 かわいい顔に似つかわしくない獰猛な口が開く。クゥちゃんはもう一度踵落としを試みるもそれは躱された。


 クゥちゃんの攻撃を躱すとふらっと立ち上がってクルッと私に向かって走り始めた。


 私達がジェーンダークと戦っている傍らでは他のパーティが邪魔が入らないように戦ってくれている。カッサもジェーンダークとの戦いには参加せず、敵兵の注意が私達に向くたびに矢を放って自らに注意を向けさせている。


 だから余裕を持って戦える。ジェーンダークの攻撃は基本的に直進攻撃。躱されたら人間をやめた動きで追撃、でもリーチの届く範囲しか攻撃できない。闘牛士のようにぎりぎりで軽くかわし、追撃がきそうだと思えばさらにもう一度地を蹴る。


 この要領で剣を振り下ろす彼女の左に跳び、その私に剣を突き刺すかのように持ち上げて追撃をする。でもそれは私に届かない。


 そしてその隙にダガーを投げることを忘れない。結局左手ではたかれてしまったけど、結果的に剣を振るう右手とダガーをはたく左手が体の前で交差することになった。


 戦った感じでは攻撃の要である右手は剣を振り回すだけの不器用な物。一方で何も持たない左手は防御や敵を掴むなどの補助など器用に使い、厄介なのはどちらかといえばこっちだ。


 それが今両方体の前にやってきて動く方向は逆。彼女の背後に隙ができる。そこにゆうくんが飛び込む。ジェーンダークはその姿をちらりと捉えていた。だから左方向に回転している身体にさらに勢いをつけるように右手を突き出すか、一度平手でダガーを打ち払った左手を体の回転を使ってゆうくんとの接触に間に合わせるか。


 彼女は左へと向かう回転を加速させて剣を振ることを選んだ。テニスのフォアをこんな風に打ったら指導されるだろうな、というほど大振りで。


 ゆうくんはそれを受け止める。ジェーンダークの左手は体に巻き付き、回転に遅れている。


 彼女の視線が「それ」を捉えた。だけど力なく体の回転の余韻で動く左腕を逆の方向へと動かすのはさすがに無理のは…ず。剣はゆうくんの盾に打ち付けられてべったりだ。


 「それ」――クゥちゃんの【爪牙】がジェーンダークに迫っていた。手数重視な拳系の武器において割と溜めが大きいのでクゥちゃんは滅多に使わないけれど、踵落としを躱されてから即溜める構えを作っていた。


 クゥちゃんの【爪】は「牙」と化し、左手は下顎、右手は上顎だ。


「シャアアアアアア!!」


 ジェーンダークの甲高い咆哮が空気を震わせる。そして彼女の頭上に赤い剣が現れた。彼女は左手が体の回転から遅れていたことを利用してそのまま剣の柄を掴んだらしく、そこから体の動きを無視して強引に剣を振り上げたみたいだ。


 ジェーンダークの顔がクゥちゃんの方向を向く。盾で受け止めた後のゆうくんの攻撃がようやくジェーンダークの左脇に当たる。威力は十分なはずなのに、さっきまでと変わらない立ち姿にもかかわらず、これまで攻撃を受けたら受けた勢いそのままに流れていた体は、聳え立つ塔のように微動だにしない。


 舞浜君を乗り越えて踏ん張った後が頭をよぎる。最終的に荒野の土が舞うほどの威力で剣が振り下ろされた。今はその時以上に力強く踏ん張っている。このまま剣を振り下ろさせればクゥちゃんのHPは間違いなく空っぽになってしまう。


 でもだめだ。ダガーじゃ動きが止められない、ブーメランを取り出す余裕も、アーツを出す余裕もない。


 ジェーンダークは両手で剣を斜めに振り下ろす。同時に「虎」がジェーンダークに食らい付く。


「グルルルルァァアアアアア!」


 ジェーンダークの剣はクゥちゃんの右脇に打ち付けられ、「虎」の上顎はジェーンダークの右肩に突き刺さり、下顎は脇腹に突き刺さっていた。クゥちゃんのHPは減らない…。


 あっ、舞浜君がダメージを肩代わりしてるんだ。


「アアアアアアア!!」


 ジェーンダークの咆哮は止まらない。クゥちゃんは無言。


 怪物と怪獣のぶつかり合い。どっちがどっちかはわからない。


 数十秒にも感じる数秒の押し合いの末、ジェーンダークの身体は後ろに押し出され、力なく数歩下がり尻餅をついて転がった。


 そこにミカちゃんの光魔法が降り注ぐ。


「キャアアアアアア!!」


 その悲鳴は女性の物で、ジェーンダークに初めて人間を感じた――AIだけど――。


「フシュゥ」


 光魔法が消えても未だ健在で、人魚のようなポーズでクゥちゃんを睨む。でもそこにはクゥちゃんはいない。止めとばかりに踵を上げて、空中から落ちてくるところだった。そう、その一瞬ジェーンダークはクゥちゃんを見失っていた。


 空中のクゥちゃんを見つけても、ジェーンダークの剣は転がる時に手から落ちて手元にはなく、上体を持ち上げるために両手を使い、それだけですでに震えている。


 防ぐ手段を持たないジェーンダークの頭にクゥちゃんの踵が落ちた。ジェーンダークの顔が地面に打ち付けられると、彼女は光となって消えていった。


――――――――――

NAME:ナギ

 【ブーメラン玄人】Lv29【STR強化】Lv33【ATK強化】Lv25【SPD強化】Lv28【言語学】Lv41【遠目】Lv34【体術】Lv46【二刀流】Lv59【祝福】Lv19【スーパーアイドル】Lv25


控え

【水泳】Lv28


 SP28


称号 ゴブリン族のアイドル 恋に惑わされる者 ホマレの惚れ人 ファルカナンドの救世主 かまくら職人

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