将軍
逃げて行ったジェーンダークと呼ばれていた女騎士に追いつけず、彼女を逃がすために必死な敵兵に囲まれそうになるも私達が戦っていることに気づいた他のパーティの人達が逃げる足を止めて、私達の援護に駆けつけてくれた。
おかげで孤立することなく、戦うことができた。回復の要であるミカちゃんの消耗が激しかったので戦闘の途中だったけど後退し、町に戻った。
「女の子三人に頑張らせちゃったし、戦場に戻るのはやめよう」
町に戻って休憩でもして時間があれば戦場に戻ろうか、と考えていたところカッサが切り出す。
「敵の真ん中割って入りましたもんねぇ」
「きついのは俺達の方な気もするけど」
カッサの言葉に納得の表情のゆうくんに対して舞浜君はカッサの言い方が引っかかったのか抗議するような物言いをしながらも、顔は綻びている。
「そうなの? 盾のお二人さんは男だからああいう方が燃えて楽しいのかと思ったのに」
「その最中はね、でも今からもう一度って言われると…」
「舞浜さんの気持ちわかります」
どうやら今からもう一度、がつらいのは盾の二人みたいだ。
ジェーンダークには結局逃げられてしまったけど、あれは勝利と言っていいはずだ。そしてそれはみんなで勝ち取った物だと思う。
確かに彼女と対峙したのは私とクゥちゃんの二人だけど、その間他の有象無象を引き受けてくれたのは残りの四人だ。
それはまさしく家のように。住人は私とクゥちゃんの二人、壁は舞浜君とゆうくんの二人、カッサは窓かな? そしてその家を支える柱はミカちゃん。
一番大変だったのは多分、ミカちゃんで間違いないと思うけどそれ以外のメンバーでそこまで差があるとは思えない。
でも強い相手と戦う緊張感と高揚感を味わった私達二人、とりあえず私達に向かいそうな敵を釣って自分の方向に向かわせるだけのカッサに比べて、盾の二人はミカちゃんやカッサを守りながら、私達二人のもとに邪魔が入らないように敵を引き付けながら、たくさんの敵に囲まれながら…と考えるとその最中は無心でできても、一度集中が切れてまたというのは他に比べて確かにつらいかも。私なんかは次こそ確実に倒してやる、みたいな熱があるけど。
「あの、私眠いです…」
珍しく話に入ってこないと思っていたらミカちゃんは、ちょっとぼけぇっとなっている。彼女はあの最前線で少しのミスでパーティが壊滅する、という中よく頑張ってくれた。
「じゃあログアウトしますか、おやすみ」
「はい」
カッサに言われて返事を返すと同時にミカちゃんはログアウトしていった。
「じゃあまた」
「じゃ」
クゥちゃんと舞浜君がそう言いながら操作を始める。
「ミカちゃんにおやすみの電話かけないと!!」
「それ、眠れなくなるやつだか…って早!」
ハッとしたようなゆうくんは遅れて操作を始めたにもかかわらず、クゥちゃん達よりも一瞬早くログアウトしていった。
「じゃあ私もこれで」
「うす」
「カッサは? ログアウトしないの?」
「戦いは終わるまではね」
「ふーん、じゃあおやすみ」
「おやすみー」
その言葉が聞こえると同時に、私の意識はゲームの世界から離れる。きっとカッサは情報収集でもするのだろう。
翌朝。
「…お、おはよう」
「おはよう」
舞浜君のあいさつに私は返事をする。彼は私の前に立ちはだかっているので、これは避けようがない。
彼がどうしたいのかは何となく私にはわかっていたけど私は譲る気はない。鋭い視線で彼の顔を凝視する。彼は私の視線の鋭さにたじろぎ一歩下がる。それでようやく私は教室に入ることができ、彼は廊下へと出て行った。
――ふっ、楽勝。
「…って心の中でやってたんだ」
「俺やられ役だったの?」
学校が終わってログインすると舞浜君しかいなかったのでみんなを待ちながら朝の話をする。
経緯としては、普段と変わらない力でドアをスライドさせたつもりが異様に軽く思い切り開く格好になってしまった。大きな音が聞こえるとともに目の前に立ちはだかったのが舞浜君だった。
どうやら偶然同時にドアを開ける感じになったみたいで、教室に入ろうとした私と廊下に出ようとした舞浜君が対峙する羽目になった。
余裕があるように見せていた私だけど実際は舞浜君のぎこちない「おはよう」が出てくるまでフリーズしていたりもする。その間人には見せられない表情をしていたに違いない。舞浜君にはその顔をすぐさま消去していただかなければ。
「もう戦いは始まってるみたいだね」
「そうだね」
一段落したところで舞浜君が話題を変える。ゲーム内は昼の時間が来たばかり、だけどすでに戦いは始まっている。昨日のあれから人が少ない時間帯の戦いだったらしく、防壁に大きな被害は見られない。
「リベンジしないとね」
「また敵陣に入るの?」
私の宣言に舞浜君は少し意外そうだ。
「でも次は攻撃力も上がってないかもだし」
「確かに」
ジェーンダークはプレイヤー側――NPCも含む――の人を倒した時に攻撃力が上がっていた。真っ先に私達が対処すれば盾二人が耐えられるレベルで収まるはずだ。昨日やられたパーティも乱戦の中で不意を打たれた印象が強いので、元から絞っていれば多分何とかなるし、今度はパーティ全員でのリベンジ戦だ。
みんなが集まったので南で戦うことになった。私とクゥちゃんのリクエストだ。
カッサは私の想像通りあれから情報収集をしていたみたいだ。話によると他の方角でもジェーンダークのような存在は確認されているみたいだ。
「名前が分かったのは西だけ、将軍クルトームだとさ、馬に乗っててそこそこ強いらしい」
「生前で出てくるんだ」
カッサも詳しくは聞きだせなかったみたいで、簡単に説明する。クルトームと聞いて思い浮かべるのは第二ステージに入る前に出てきていた「スケルトン・クルトーム」だ。クゥちゃんも同じことを思ったみたいで、生前の姿に少し興味を持ったらしい。
「でもまずはリベンジ…ですよね! 私は体調万全です!」
町に戻ってから睡魔に襲われぼんやりしていた記憶しかないミカちゃんだけど、人一倍燃えている。
「あれだけゆうくんに守られてるって感じれるんですよ、昨日はその安心感で眠くなってしまいましたけど今日は最後まで見届けるんです!」
「任せてよ! ミカちゃん!」
バカップルは放置だ。まるでアイドルのライブに来てるファンみたいだ。っていうか回復やらで忙しなくやってたように見えたのにそんなことを考える余裕があったなんて。
すでに戦いは始まってしまっているので慌てずしっかりと準備を整えて戦場へと向かう。
盾役でできたラインは後ろに下がり、パーティが前へ出て敵軍に切り込んでいるところだった。その流れに乗って私達も一気に前の方に出る。
敵軍の波をかき分け奥へと突き進む。今日の味方は昨日よりも頼もしく、前を突き進むパーティから遅れることがない。気が付けばすでに一番前まで出てきていた。ジェーンダークはまだ見当たらない。だけど焦ってどんどん進むと孤立しかねないので、あくまで自分達の周りにいる敵を倒しながら、徐々に奥へ。
そこでようやく目当ての鎧姿が現れる。
覚えているのか忘れているのか自分の目に映る獲物――私達――にご満悦みたいだ。
――――――――――
NAME:ナギ
【ブーメラン玄人】Lv29【STR強化】Lv31【ATK強化】Lv23【SPD強化】Lv27【言語学】Lv41【遠目】Lv34【体術】Lv46【二刀流】Lv59【祝福】Lv18【スーパーアイドル】Lv25
控え
【水泳】Lv28
SP28
称号 ゴブリン族のアイドル 恋に惑わされる者 ホマレの惚れ人 ファルカナンドの救世主 かまくら職人




