漆黒のジェーンダーク
勢いで先陣を切る格好になった私達は後ろから我も我もと続くプレイヤー達のせいで引き返すこともできず、立ちはだかる敵をなぎ倒し――主にクゥちゃんが――て行き、奥へと突き進む。
だけどそれもそのうちに勢いを失い、場は乱戦状態と化す。
当然ながら周りを見渡せば敵敵敵。味方まではわずかに距離があって、そのスペースは尽く敵によって埋められてしまっている。勢いを失った瞬間に孤立するようにうまく入り込まれた感じだ。
でも私達をなめてもらっては困る。こう見えても中堅の域。舞浜君が前を固めて、脇をゆうくんがしめる。その間にカッサとミカちゃんの二人が入り、私は比較的敵が少ない後ろを守る。クゥちゃんは邪魔な奴らをガンガン狩っていく。
ハートショットを撃って寝返らせるでしょ、誘惑で別の奴の動きを止めて…、突っ込んでくる奴は背負い投げで乗り切って、ミカちゃんへと向かう魔法は体で止める。
「うぐぅ!」
「ナギさん」
ダメージを受けたタイミングで回復が入る。とりあえずブーメランを投げる余裕もない。円形の陣を固めた私達の周りを駆け回る狼によってまた全部がリセットされる。でもリセットされないとゲームオーバー一直線だ。
またまた躍り出てきた奴を投げ飛ばし、蹴り飛ばし、魅了し、狼の餌食にし、ようやく分断されていた味方と固まることができるようになってきた。
二つ、三つ四つ…と徐々に味方のパーティが増え始める。すると全体が横に広がり始めるのですかさず前へと出ていくパーティも出始める。私達は直前に切り込み隊長をやったので、今度はその後ろを追う側に回る。
最前線を離れたことで漏れてきた敵や、孤立した敵を相手にすることが増えて余裕も出てきた。さっきの忙しさが異常だっただけなんだ。
そんなことを考え始めたころ。
「うわぁ!」
「んな!」
「キヒヒ」
叫び声が聞こえるとともに奇声が響く。みると真っ黒な鎧に身を包んだ女の子が真っ赤な色した剣を振り回していた。先ほどの叫び声は斬られたプレイヤーとそのパーティメンバーだったみたいだ。
「うわ!」
「くそぅ!」
真っ黒な鎧の女の子は動きがすばしっこく、魔法も当てられないうえに攻撃力も高いのか一撃でどんどんとプレイヤー達を切り伏せていく。
「お返しだぁ!」
生き残っていた最初に斬られたと思われるプレイヤーが全快して反撃へと出るも受け止められ、
「ハァ!」
「えっ」
そのまま切り上げられた。宙を舞う体に付随しているHPバーは見事に空っぽになっていた。
「さっきは半分ぐらいで耐えて…ぬわぁ!」
切り上げられたプレイヤーのパーティメンバーがまた斬り捨てられる。当然のようにHPバーは0を示す。
「なんだこいつ! 逃げろー!」
不気味さを感じた他のプレイヤーが叫び、それに伴うように一斉に後ろに下がり始める。それを面白そうに眺める黒い鎧の女騎士。鎧といっても重装備ではない動きやすそうなもので、兜はしていないためその黒い髪と紫色にも見える瞳を持つかわいらしい顔ははっきりと確認できる。髪型はショートのストレート気味。
その笑顔はかわいい顔には不釣り合いなほど不気味で、プレイヤーを追う目は次の獲物をどれにしようか、という程度の感情しか感じさせない。まぁ一応敵だし、NPCみたいなもんだから感情を感じるっていうのもおかしい話だろうけど。
その目がとある一点で止まる。逃げようとしてなかった私達のところで。
「俺ら…というか奴にとって敵を倒すほど攻撃力は上がるっぽいな、アーツを使ってる感じはしなかったのに威力が変わってるみたいだし」
先ほどのプレイヤーとの戦いを見てカッサが分析をしている。
「動きの速さから逃げてもすぐ前線まで来るだろうし」
「それまでに攻撃力がさらに上がってたら…一気に壊滅ですよね」
舞浜君とゆうくんが続ける。
「俺達でも耐えられないかもしれないのが問題だ」
舞浜君が真剣な表情で言う。女騎士は不気味な笑みを浮かべたまま刀身の赤い剣の先を地面に向けるようにだらりとした姿勢で一歩二歩と駆け出す。
「ナギちゃんとボクの二人で受け持つよ、舞浜達は寄ってくる雑魚を何とか処理して!」
「頼んだ!」
戦うと決めた私達は陣形を整えて迎え撃つ。
「ヒャァ!」
奇声を発し駆け寄ってきた鎧の女の子のターゲットは私だったらしくクゥちゃん達には目もやらずに飛び込んでくる。縦に居合切りをするかのように剣を振りおろす。横に飛んで躱すと、すぐさま誘惑を撃つ。
「止まらない!?」
誘惑の効果はかかっているみたいで一応視線は私に釘付け…。でもどうやら体は動くらしい。ぬるぅっという表現がしっくりくる動きで距離を詰めてくる。
私の背後を狙う無粋な敵兵はカッサが珍しく弓矢を取り出して注意を引き付け、一番の危険人物にはクゥちゃんが飛びかかる。
紫の瞳が横目でクゥちゃんを捉えたのが分かった。一瞬で反撃に出て切り上げられたプレイヤーが頭によぎって行動に出る。
スポットライト。
周囲の敵兵も一緒に私へと視線を向ける。当然かわいい顔した鎧のあの娘もだ。
でも
ガキィン! と金属がぶつかり合うような音が聞こえる。腕でクゥちゃんの爪をガードした。視線を私に向けたまま、腕を振り払いクゥちゃんを弾き飛ばすと、剣をクゥちゃんに向かって放る。
ギリギリ当たらず剣は地面に突き刺さり、女騎士は悠々とそれを拾う。
視線はすでにクゥちゃんに向いていて、私への意識は薄らいだらしい。でも敵兵が寄ってきてるわけですよ。
味方が逃げてしまったせいで敵陣で孤立してしまっている格好だ。舞浜君もゆうくんもカッサもミカちゃんも手一杯だ。
しばらくあの鎧の女の子はクゥちゃんに何とかしてもらわないと行けなくなった。
寄りつく敵兵を投げ飛ばしたり、ブーメランの範囲攻撃で多数を削っては回復されて無駄に終わり、カッサがこちらのサポートに回れるようになった隙に、クゥちゃんのフォローへと向かう。
「シャハァ!」
あの顔には似つかわしくない奇声を放ちクゥちゃんを追いかける女騎士に、フックブーメランを当てる。後ろから肩に当たり、後ろに引き倒される。
「イヒ!」
それでも変わらず笑みを浮かべると後ろに引き倒される上半身を諦めて、下半身を宙に投げ出す。一度地面に背中をぶつけるも、後転してすぐに起き上がる。
「恐ろしいぐらい動きが止まらないね」
「そうだね」
いつの間にか私の隣に来ていたクゥちゃんの言葉に相槌を打つ。向こうはこちらを凝視している。
猛スピードで駆け寄り剣を振り下ろす。からの薙ぎ払い。私達は左右に跳び、薙ぎ払いはクゥちゃんの目の前を通り過ぎる。そして私は人間をやめた動きの女騎士の左手につかまった。
すごい力で引き寄せられ、振り上げられた剣が目に映る。引き寄せられた力を利用して振り下ろされる剣の下を通り抜けて、今度はこちらが引っ張って体勢を崩させる。
うまく投げ切り、地面に放る。仰向けになった彼女のおなかに間髪入れずにクゥちゃんが踵落としで畳み掛ける。
「うぐぁ!」
初めて彼女のうめき声を聞いた。
「クゥちゃん!」
「分かってる」
それでも動きを止めない彼女の反撃をクゥちゃんは躱す。
女騎士はふわっと立ち上がってそのまま私の方へ。振り下ろされた剣を避ける。
――違う!
振り下ろされた剣の力感はいつもより軽く、攻撃そのものというより事前の予備動作のようにも見えた。
その違和感は正しかった。女騎士はさらに一歩踏み込み、一度振り下ろされた剣が上昇する。
届く。
それはわかっていたこと。
だから後ろに下がりながらも右手拳を突出し、必要な言葉を発していた。
「ファルカナンド・エンブレム」
目の前に白く輝く紋章が現れ、女騎士の赤い剣とぶつかる。
バリィン!
一瞬で割れる。「リーステスの剣」が手元に無ければ維持はできないので問題ない。
それにその一瞬で、剣は届かなくなった。
渾身の力を込めていたらしく女騎士は剣を振り上げた勢いそのままに体は後ろに傾き、がら空きになった懐に「虎」が襲い掛かる。
私の体感では長く感じたけどおそらく溜め技を使うだけの時間はなかったはずなので、アーツでも威力はそこまで高いやつではないと思う。
だけどクリーンヒットした一撃は女騎士を吹き飛ばすには十分だった。
吹き飛ばされた女騎士はすぐさま起き上がると、私達二人を睨み付け、視線を切ってそのまま奥へと引き下がっていく。
「ええ! 逃げるの!」
とクゥちゃんは驚きながらもすぐに女騎士を追いかける。
「ジェーンダーク将軍を守れえ!!」
「「「オオーー!!」」」
だけど逃げ行く彼女を守るように敵兵が私達の前に群がり、彼女に追いつくことができない。
群がる彼らを振り払い、一瞬ぽっかりと空白ができたけど、すでに彼女の姿は見えなくなっていた。
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NAME:ナギ
【ブーメラン玄人】Lv29【STR強化】Lv30【ATK強化】Lv22【SPD強化】Lv26【言語学】Lv41【遠目】Lv33【体術】Lv46【二刀流】Lv59【祝福】Lv18【スーパーアイドル】Lv25
控え
【水泳】Lv28
SP28
称号 ゴブリン族のアイドル 恋に惑わされる者 ホマレの惚れ人 ファルカナンドの救世主 かまくら職人
次回は金曜日




