ライン
バジルさんとの共闘し、何とか生き残ることができた夜の戦いの後。町に戻ってすぐにログアウトした。
21:00から始まる昼の戦いに向けて準備を済ませて少し早めにログインする。町には様々な種族のNPCがいる。その全てが元々この町にいた人達ではなく、プレイヤーと同様にあの小屋からこちら側に渡ってきた人だ。
現在拠点となっている村や町、国が実装されている種族はプレイヤーでもある霊人族以外に、ゴブリン、エルフ、ドワーフ、獣人族、ピクシーの5種族。竜人族はいまだ森の中にある社にいるブライトさんと、あとはどこかにもう一人、二人ぐらいしか存在しない。
ブライトさんを考えるに見た目は普通の人間と変わらないようだけど、この町にいるNPCにもどうやら竜人族はいないみたいだ。
そして魔人族。拠点となるような地域は実装されておらず、それらしき目撃情報は少しはあるみたいだけど、今回初めて遭遇する種族だ。戦士風の逞しい肉体を持つ人(?)も魔法が使えるうえに、魔法には滅法強いようで魔動砲もバジルさんの風魔法も全然効いていなかった。
そしてプレイヤー達にとって敵。まるでゴブリン王国が開放される前のゴブリンみたいだ。
そんなことを考えながら周囲を見渡す。夜の戦いを終えて帰ってきたときには気づかなかったけど、北側の防壁だけでなく、町のいたるところにも戦いの痕跡が見受けられた。目にできる範囲で言えば再建されていたはずの建物がいくつか崩れていて、その修復作業が行われている。
遠目からでもはっきりとわかるぐらい大きな穴が開いていた北側の防壁が壁として機能するぐらいには修復されているのを確認すると、背格好のせいかあんまり目につかないゴブリン族と対面した。
向こうも私を見て少し驚いた表情を見せたけれど、すぐに人懐っこい笑顔を向ける。
「これはナギ様、まさかこのような場所でお会いできるとは」
と丁寧に挨拶される。忘れているかもしれないけど、私はゴブリン族の間では有名人だ。NPCの間で有名なプレイヤーというのも今では結構増えている。その中にはプレイヤーの間でも有名な人もいれば、プレイヤー達が「誰?」って思うような人も含まれている。
「町がどうして荒れてるか知ってますか?」
NPC相手には遠慮せずに話ができる。しかもゴブリンは背が低いので子分を相手にするような感覚にもなる。
「どうやら町の方にもモンスターが出たみたいですね、何とも実体のないモンスターだったとか」
革製の鎧に右手に棍棒を持つその姿には似つかわしくないほど丁寧な様子に思わず笑ってしまいそうになるのをこらえた。
話によると、戦いの途中、私達で言えば「破壊神・デストロイヤー」が出てきてNPC達が町に避難したぐらいから町の上空に黒い大きなローブが現れたらしい。そのローブを纏う黒い何かから大量の小さい「もどき」が出てきたそうでそれが町を荒らした原因だそうだ。
「外部からだけでなく、内部からも襲撃を受けましたからね、兵器を扱う人たちにも被害は多かったみたいですよ」
とゴブリンは言う。弓矢部隊の援護が減り、大砲の砲撃が無くなったのはそれが影響しているのかもしれない。
「幸いそれらのモンスターは防衛の成否には直接影響しないようですが…、もし影響するなら失敗とみなされるぐらい大量に湧いて出ましたから」
とゴブリンは周囲を見回す。
それから各方角の戦いも教えてくれた。ゴブリン達のネットワークはバカにできないみたいだ。
各方角に巨大モンスターが現れ、南は「破壊神・デストロイヤー」、西は「厄災・バロム」、北は「キング・リッチ」、東は「真・カルマ」、と第二ステージからは全方角に巨大モンスターが出るようになったらしい。
主要部隊は主に魔人族。そして各方角には特徴があり、進軍に積極的な北。状態異常をまき散らしてパニックを引き起こす東。手当たり次第に襲い掛かる南。ただ暴れ回る西。それぞれの方角で攻め方が違い、北側の防壁が著しく被害が大きかったのもこのせいだと言う。
一通り話をした後、親切なゴブリンさんとは別れる。
パーティのみんなが揃ってから備品を補充し、戦場へと向かう。今回はバジルさんがいないけど、バジルさん曰く「見通しがよく戦いやすい」を採用して再び南エリアへ。
門をくぐって町の外に出る。すでに多くの人が隊列を組んでいた。私達もその一部に加わる。
夜が明けて日が照りだす。完全に明るくなった視界の向こう側にふわぁっと敵の軍隊が出現する。見た感じ魔人族の兵士ではないみたいだ。
夜の戦闘では魔人族に不意を打たれる格好になった分だけ慎重になりながらも、最初の魔動砲が撃たれる。効果は十分あり、敵の隊列を崩すことに成功したみたいだ。
それでも敵の前線部隊とこちらの前線とがぶつかり合う。それにつられるように私達も前へと出ていく。横一列に盾役のプレイヤーが並び、その背後からPT単位のプレイヤー達が攻撃を加える。最前線の盾役の人はヒーラーとセットになっていて、随時回復を受けている。
私達のようなパーティは盾役の補助とセットになっているヒーラーの護衛だ。でも私達のパーティには盾もヒーラーもいるので、もしもの時は入れ替わることもできる。
魔動砲によって分断されていた前線に、敵軍の後続が追い付く。ただの盾だけではなく、槍を持った兵士、杖を持った兵士、と防衛側である私達と変わらないような戦い方をしてくる。
ぶつかり合う盾と盾の隙間から槍を差し込み、杖を持った兵士は攻撃も回復も兼ね備えているみたいで、回復する合間に攻撃魔法を私達や、前線の盾役とセットになっているヒーラーの人に目掛けて放ってくる。
お互いの盾部隊を境にした戦いは拮抗し、膠着状態に入る。魔動砲も、大砲も奥にいる敵に向かって撃たれるけれど際限なくなだれ込む敵軍は分断されてもすぐに繋がり列を作る。
また、敵も砲撃を行ってくるようになった。狙うのは前線よりも後ろ、そしてさらに後方の砲撃部隊。
弓矢の援護は魔法で撃ち落とされて被害は少なくなり、魔法による攻撃はこれまた魔法で相殺される。相殺されずに届くこともあるけど、それはこちらも変わらない。
ハートショットで敵を一時的に寝返らせても、誘惑で杖を持ってる兵士を止めてみても突破口にはならないほど盾によるラインを挟んだ部隊の数が飽和状態だ。
大きな盾で壁を作り上げる人達も下がれば押し込まれ、攻撃に転じようにも押し続けなければ押し負けてしまうため、サポート役であるパーティが重要なわけだけど、トップランカーと呼ばれるようなプレイヤーでもなければ敵の隊列に突破口を空けるほどの火力もなく、空いたはずの穴は一瞬でふさがれる。
ただ膠着を破る手札はある。盾と盾がぶつかり合ってできたラインを挟んでいるため、クゥちゃんのような近接アタッカーが戦闘に参加できていない。それをどうにかできれば。
「サポートパーティ前へ! 盾部隊! 下がれー!」
その大きな号令に大盾を持って目の前で敵軍の盾と押し合っていたプレイヤーが後ろに引き下がる。その時にできたわずかなスペースに獣が一匹潜りこみ、前へ踏み出す盾の上から【爪】で「殴る」。敵の盾が揺れた。
クゥちゃんは盾を足でけって後方へ跳ぶ。宙返りをして地面に着地――着地の時ぎこちなかったので自分でもできたことに驚いているみたいだ――。
そこへ舞浜君がシールドバッシュを仕掛ける。バランスを崩すいていた敵軍の盾兵は見事に吹き飛ばされ、後ろにいた兵士も巻き添えにしてぽっかりと穴が開いた。それを逃すまいと一気に駆け込み、後ろに控えていたプレイヤー達もなだれ込む。
敵軍に切り込むことに成功した。
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NAME:ナギ
【ブーメラン玄人】Lv28【STR強化】Lv28【ATK強化】Lv19【SPD強化】Lv23【言語学】Lv41【遠目】Lv33【体術】Lv42【二刀流】Lv59【祝福】Lv17【スーパーアイドル】Lv23
控え
【水泳】Lv28
SP23
称号 ゴブリン族のアイドル 恋に惑わされる者 ホマレの惚れ人 ファルカナンドの救世主 かまくら職人




