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ナギ記  作者: 竜顔
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帝国

 光魔法による巨大な明りが周囲を照らし、はるか向こうから迫る影が明りのもとで露わになる。その数は徐々に増えていき、影達が隊列を作っていることを教えてくれる。


 身に纏う鎧は夜の闇に逆らうような輝く銀色、または闇に溶けて行ってしまいそうな漆黒の色。バジルさんから聞いていた敵の内容とは微妙に違う。


「顔がゾンビ…みたい」


 そのグロテスクな見た目に私はたじろぐ。


「多分この波は一瞬のはず、気をしっかり持って」


 カッサが私に力強い視線を向ける。バジルさんからの情報だけではなく、カッサ自身が集めた情報も持っているみたいだ。


「夜はゾンビが出て…それからは普通の兵士って話だった」


「参加人数の影響がここに出なければいいけどな」


 カッサのセリフにバジルさんも不安を口にする。


「近づいてきたらナギさんは顔を伏せていいから」


「あ、ありがと」


「ヒュー! かっこいいこというねぇ」


 舞浜君の言葉にわずかに心に余裕ができた。バジルさんにおだてられて舞浜君はそっぽを向いてしまった。台無しだ。


 カッサの集めた情報通りゾンビ兵達は一瞬で倒され、次の部隊が現れた。


 今度は騎兵。光に照らされ白く輝く銀色と黒い鎧のコントラストは相変わらず。そのスピードはさっきの倍。魔動砲により数は減らされるも、一気に駆け抜けてくる敵もいる。


 未だ混戦にはならずせいぜい前線に張る部隊で止まっている。私達の所までは届いていない。


「投石器だー! やつら、投石器を持ち出して来たぞー!」


 前線の叫び声が聞こえる。すづさま魔動砲がその投石器を目指して放たれる。広範囲の攻撃なのでおそらく無事ではないはずだ。


 それから再び次の波がやってくる。波と波の間に割と時間があり、その上今度の部隊はゆっくりと行進している。比較的大柄な体躯の影に、ゾンビ兵と似た背格好の影。


 そのゆっくりな進行にこれ幸いと魔動砲が撃たれる。


「我らが帝国のためにー!!」


「「「おおおー!!!」」」


 魔動砲を撃たれたはずの場所に全くダメージを受けた様子の無い部隊が大きな声とともにわずかに行進のペースを上げる。その詳細が見えてくる。大柄な体躯の影は紫や黒い肌。頭には角、背中には背格好に違わない大きさの蝙蝠のような翼がついている。どうやら上半身裸らしくその逞しい肉体を見ることができ、武器らしきものは所持していない。


 一方普通の人と背格好が変わらない方は紫色の甲冑に身を包み、その肌の色は薄い青色、水色という方が正しいかもしれない。


 どちらも人のよう、NPCっぽいと感じる何かがある。


「放てぇー!!」


 敵側から聞こえる号令とともに、部隊全員が一斉に魔法を放つ。


「うわぁあああ!!」


「うおおおー!」


 その乱れ飛ぶ魔法に防衛軍は混乱に陥る。そしてその隙を逃さないように敵軍が攻め込んでくる。


「魔動砲準備! 敵軍を分断するぞ! 弓部隊、放てー!」


 弓部隊が矢を一斉に放つも、屈強な外見の大男たちがそれを振り払い、鎧甲冑の兵士の被害を減らしてしまう。


「前が空いた!」


 魔法による攻撃で陣形が崩れ、いつの間にか私達の前にスペースが生まれていた。そこに紫色の巨体が入り込む。


「行きましょう!」


 ゆうくんは言うが早いか、すでに前へ飛び出し、舞浜君も同時に一歩目を踏んでいた。遅れるようにして私達残りのメンバーが続く。


 ゆうくんがシールドバッシュでその巨体を突き飛ばす。


「ガハハハハ、どりゃあ!」


 その巨体は思いのほか突き飛ばすことができず、すぐに体勢を整えたそいつは殴りかかる。それをパリィで弾いて体勢を崩すことに成功する。そこに一匹の獣が飛びかかる。


 ズドン! と重たい音を響かせて踵落としを決めて前傾になっていた巨体が頭から地面に叩きつけられた。


 ――追撃。


 と思ったのと同時に巨体の周囲を囲うように炎が上がる。反応が遅れた前衛三人がダメージを受け、私は炎を躱すために後ろに飛びのいたために追撃のチャンスを逃す。


「ガハハハハ、こんな見た目でも魔法は得意なのさぁ」


 悠々と起き上がる怪物は笑いながら踵落としを決めたクゥちゃんの方を見やる。


 誘惑。それで動きを止める。


「上!」


 誰の叫びかもわからぬまま見上げると、黒い肌の色をした巨体が私めがけて落ちてきていた。


「どおっせい!」


 とっさに飛び避けたけれど、地面に叩きつけられた両手を握って造られたハンマーは衝撃波を生み、それによって近くにいた人達はダメージを受ける。


 私達のパーティは舞浜君が機転を利かせてダメージを肩代わりするアーツを使って被害を最小限に抑えてくれた。とはいえ舞浜君のHPが心もとなくなっている。硬直時間を過ぎた紫肌が舞浜君へと向かっていく。


「お待たせ!」


 バジルさんの声とともに紫肌の周囲を風が囲む。


「ウゥルァア!」


 風にとらわれた紫肌は一瞬身を縮ませて再び体を開くと、バジルさんの風は掻き消える。


「魔人族にそう簡単に魔法が通じると思うなぁ!」


 紫肌はそう言って笑みを浮かべる。魔人族…? 慌ててその紫肌の頭上をよく見る。「デーモン」としか書かれていない。黒肌の方は「アークデーモン」。


「なるほどね、魔法が効かないなら回復に専念するよぉ」


 バジルさんは特に気にする様子もなく魔法の詠唱に入る。


 黒肌は他のPTと交戦、紫肌は再び舞浜君を標的に変えるけどすでに舞浜君は回復薬での回復を終えて、攻撃に備えている。


 完全に私に背中を向けることになった瞬間に、フックブーメランを使う。【渡り鳥】は紫肌の肩に刺さり、後ろに引き倒す。


「ぬあぁ」


 引き倒された紫肌の顔に向かってクゥちゃんがその爪を突き立てる。紫肌は苦痛の表情を浮かべるも起き上がり、追撃を行おうとしていたクゥちゃんの前に立ちはだかる。


 ゆうくんが動こうとすると、甲冑が割り込み、舞浜君も魔法の流れ弾をガードしたせいで間に合いそうにもない。視線を奪わないと。


 スポットライト!


 予想より範囲が広く、周囲の敵が一斉に私に視線を向ける。その異様な光景に近くで戦っていたプレイヤー達もこちらに目を向ける。それにかまっている暇はない。


 続けてパワーイグニッションを発動する。私の意図を察知したクゥちゃん達前衛の三人が【パワー○○】のアーツを発動し、一瞬動きが止まることになった紫肌に殺到する。


「ウガアァァ!!」


 ようやく紫肌は光と消える。すぐさま切り替えてゆうくんが対峙していた鎧との戦いに移る。


 魔人族(?)の兵士たちは魔動砲が効かず、すべての兵士が魔法が使えるということで町の防壁の上にいる防衛部隊にも被害をもたらし、そして一体一体の戦闘力は通常のスケルトンと比べても高く、特に紫肌の「デーモン」、黒肌の「アークデーモン」は中堅クラスのPTですらてこずるような相手だった。


 さらに事態は悪化する。巨大モンスターの登場だった。「破壊神・デストロイヤー」。金剛力士像にヤギの角と蝙蝠の羽を付けた全身真っ黒の肌の色をした怪物が登場。


 魔人族の兵士たちで手一杯で、あの巨大なモンスターを相手する余裕のある人はいなかった。もしもに備えてNPCは撤退。さらにデストロイヤーは破壊攻撃。つまり装備の変更等を余儀なくされるプレイヤー多数。幸いなことにベリーワーカーズは新装備に破壊無効の耐性をつけてくれていた。


 そのおかげで割と前線の方で戦うことができた。


 誘惑で動きを止めて、ハートショットでこちらの味方に一定時間引き込み、ブーメランで敵を駆逐、クゥちゃんの攻撃の後の追撃。


 デストロイヤーの攻撃は避ける、か舞浜君が何とか持ちこたえる。闇魔法はオスカーが吸収する。


 ボロボロになりながら、なんとか制限時間耐えきることに成功した。


「帝国ーバンザーイ!」


「「「ウオオオオオォォォォ!!」」」


 時間終了で消えていく際の彼らの言葉に、プレイヤー達防衛部隊は浮かない表情になった。


「ハードすぎるわ!」


 でも、バジルさんは意外と元気だった。お兄ちゃんのPTメンバーということを思い出して、きっとこんなハードな戦いをやってきたんだろうな、とその余裕の理由を分析する。


 風魔法で扱う回復魔法は回復量は微量だけどあるのとないのとでは全然違い、切り替えの早さとか立ち回りのうまさとか含めてバジルさんと一緒になったことは運が良かった。


 各方角にも同様に魔人族の帝国兵。そして巨大モンスターの出現があったらしく、北側の門と防護壁は壊れぽっかりと穴が開いていた。


「成功…なんだよね?」


「まぁ、追い出されなかったし」


 私の問いかけに返す舞浜君も自身無さ気だ。


 まだ戦いは続く。


――――――――――

NAME:ナギ

 【ブーメラン玄人】Lv28【STR強化】Lv27【ATK強化】Lv18【SPD強化】Lv22【言語学】Lv41【遠目】Lv32【体術】Lv42【二刀流】Lv59【祝福】Lv17【スーパーアイドル】Lv23


控え

【水泳】Lv28


 SP23


称号 ゴブリン族のアイドル 恋に惑わされる者 ホマレの惚れ人 ファルカナンドの救世主 かまくら職人

次回は火曜日です。

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