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ナギ記  作者: 竜顔
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 夜の戦闘が始まるのは21:00から。


 昨日は昼の戦闘だったけれど、偶然同じ時間に行われる。それが原因なのかお兄ちゃんが昨日の私と同じく急いでお風呂を洗いお湯を入れていた。私がログアウトして一階に降りる頃にはお風呂掃除が終わっていたので凄まじい早業だ。


 だけど昨日とは違うところがある。それは準備をした本人が一番風呂に入るというところだ。


 まるで門番のようにお風呂場前のドアを陣取り他人を寄せ付けんとする威圧感を放っていた。お風呂場に用事のあったお母さんから怒られてお風呂場を明け渡すことはあったけど、一番風呂を死守することは達成。


 その優越感に浸っているであろうお兄ちゃんをよそに家族みんなで一足先に夜ご飯だ。


 ――ふふ、時間帯を考えればお風呂に入るだけがベストな選択ではないのだよお兄ちゃん。


「げほっげほっげふぉっ」


「もう、そんなに急いで食べるから…秋人といい変な兄妹ね」


 お兄ちゃんがお風呂から上がってすぐお風呂に入れるようにと思って急いだらのどに詰まった。それを見てお母さんが呆れている。





 無事に二番風呂を達成して髪を乾かした後、30分ほどの余裕をもってログイン――


 時間はすでに夜。今回こそ「カルマ」を倒す、とみんな息巻いている。ミカちゃんは夜なので例のごとくおらず、私より先にログインしていたらしい男三人はその助っ人でも探しに行ってるんだろう。


『ナギちゃんもおいでよ』


 唐突にカッサからコールが来る。


『夜目が利く人を集めてる、東門で集合だとさ』


 「カルマ」を倒すために東門ではどんどん兵器が設置されていっている。魔動砲だけに限らず、普通の大砲やら、投石器やら。一方向だけ立派な要塞みたいになっている。カッサによるとその砲撃手ができる人を集めているらしい。夜目が利く、というのも単純に【視力】系のスキルを所持してる証明ってところかな。


『わかった、今行く』


 こうして私とカッサもPTから離脱することになった。


 東門の手前で見慣れた人物を一人見かける。その様子から誰かを探しているらしいことがわかる。そしてカッサのコールに気を取られてメッセージが来ていたのに確認していなかった、と思って確認すると、ラズベリーさんからのメッセージだった。新しい装備ができたらしい。


 最近イベントに参加し、狩りも行っているけど「攻略」は捗っていないので新しい装備にする必要性はよく分からないけど、年始のイベントでお金はたんまりあるし、装備のランクアップは悪い話じゃないはずだ。


「ラズベリーさん」


 丁度目が合った瞬間ぐらいに声をかけると、向こうも私を確認したらしく、顔がゆるむ。


「ナギちゃーん! よかった会えた、遅れてごめんね」


 私を見つけたラズベリーさんは駆け寄ってくると手を合わせて片目を瞑った。


 装備が完成したので私にいち早く渡そうと思ってこの廃城跡にやってきたらしい。そこで夜目が利く人が集まってると知って私もいるだろう、と探していたそうだ。


「いっぱいいるわねぇ、私達も一旦こっちに出張してこようかしら」


「あの…」


 人だかりを見て考え始めたラズベリーさんの思考の邪魔をする。新しい装備の方は…。


「あ、装備を渡しに来たのにナギちゃんに会えただけで満足しちゃってた♡ はい、お待たせしました」


 一瞬♡(キャピッ)が入った気がするけどそこはあえて触れずに差し出された装備を手渡しではなく、トレード画面で受け取る。


 今回の装備は「ベリーワーカーズ」の二人が有名になった所以でもある鎧装備みたいだ。明るい青で彩られた肩当、手先の部分が手袋になっている篭手に左右の腰当にそれより少しだけ長く広い後ろの腰当。だけど肝心の胴体部分は布地で、胸に関しては幸いきちんと隠してくれているけどそのラインは明らかになってしまっているという上半身。


 下半身はショートパンツのように丈が短く太ももは露わになっているけど膝から下はレガースがきちんと守ってくれている。


 視界を狭めないように兜はなく、代わりにカチューシャが頭に付けられた。カチューシャには深い青色の握り拳よりやや小さいバラが一つくっついていて、それは頭の右上に咲く。


 右の腰当の横にはダガー用のホルダーが取り付けられ、反対側にはブーメランをかける場所がある。


「これはぁ…」


 かわいさを追求したという感じではない。表現するならかわいくもカッコいい、私の感想で言えば中途半端な印象だ。


「新米っぽいわね! でもこれで大きな斧を背負ってても違和感なんてなくなるわ」


 ラズベリーさんはどことなくすっきりした表情をしている。客観的にみるとそこまで悪く見えないのかもしれない。


「じゃあ次は武器ね」


 と言ってラズベリーさんはブーメランを渡してくる。それは白く輝き、くの字型をしていた。



【渡り鳥】

武器カテゴリー:ブーメラン

 ATK+300

効果:使い手に戻らなかった時インベントリへ移動

   必中


渡り鳥は必ず帰ってくる。



 ――おお! なんと使いやすい!


 これなら帰ってこない時を心配せずに好き放題ブーメランを使える。


「フフッ喜んでもらえたみたいでよかった、今度からローエスなんかの装備を受け取っちゃだめよ?」


「は、はい…」


 圧が! 圧がすごい!


 にこやかなのに圧が凄まじいラズベリーさんにローエスさんから頂いた装備を身の安全のために渡した後別れ、目がいい人の集団に混ざる。


「お、それなりにあんたは目が利くみたいだな、すまんがあっちにいる奴んところで説明を聞いて協力してくれ」


 集団は列になっていて、その先では門の外のまだ明りが灯ってないエリアで遠くに立っている人が見えるかということをやっていた。私は5人まで見えた。その場の係りみたいな人から及第点以上の評価を持って、言われた通りの人の場所へと向かう。


 私の後に数人が集まったところで分厚くなった防壁の上に案内され、操作方法をレクチャーされた。一つ1~2PTで担当する。というのもオスカーもどきが空を飛べることや「カルマ」の攻撃範囲の広さもあって町のすぐ近くでも安全じゃないらしく、それに対処するため、または誰かがやられても他のメンバーでカバーするためだそうだ。


 担当が一緒になった人たちと軽く話をする。といっても私は主に話を聞く側だ。といっても内容はこのイベントどこで戦ったとか、あれがつらかったとかそんな話がほとんどだ。


「カルマ、倒せるといいな」


「そもそもこれだけ配備して出てこなかったら悲しいですよね」


 とあるメンバーが話をしている。


「でもこの時間帯ならカルマが出てくるだけの人数は集まるだろ」


 そこに他の一人が入る。


「出たら倒す、出なかったら次のチャンス、としか言いようがない、ですよね?」


 新たに話に入った人が私に振る。


「え!? あ、はいそうですね…他の防壁も強化して、週末勝負もありだと思いますし」


 適当に自分の考えを言う。


「実際毎回窮地に陥るから、防衛成功させたきゃカルマとか出ないほうがいいし、ナギさんの言うことはもっともだ」


 と最初の人は言うと、口をニッと広げて、


「でも早くリベンジして気が狂ったようにカルマを狩れるようになりたいってやつの方が多いだろうさ、俺もその一人」


 と言い放ち、過去挑んだ戦いでのやられっぷりを披露して、みんなに笑われていた。何となく和やかな雰囲気になったころに戦いが始まり、望み通り「カルマ」は現れた。


 そして、大勝利とは言えないけれど見事にカルマを倒し、東のエリアにプレイヤー達の歓喜の叫びが轟いた。


 その隙にオスカーにやられる人もいたけど無事に防衛には成功。「アニマ」「サタン」も撃破に成功し、ついに三体の巨大モンスターの同時撃破を達成した。


 ――そして、新たな幕が始まった。



――――――――――

NAME:ナギ

 【ブーメラン玄人】Lv26【STR強化】Lv26【ATK強化】Lv15【SPD強化】Lv21【言語学】Lv41【遠目】Lv31【体術】Lv41【二刀流】Lv59【祝福】Lv15【スーパーアイドル】Lv19


控え

【水泳】Lv28


 SP21


称号 ゴブリン族のアイドル 恋に惑わされる者 ホマレの惚れ人 ファルカナンドの救世主 かまくら職人

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