恋の試練の街エイロー
私とホムラは案内された番号の部屋の前に立っている。
「一つ…だよな?」
そう、部屋の扉は一つしかない。二人で一部屋でもホムラとなら別に…でもそういうことができるとなるとさすがにホムラでも男だからね。
「まぁ、入ってみるか」
ホムラは腕輪をかざして鍵を開けて中に入る。
「なるほど、こうなってるのか」
一人で何かに納得している。私もホムラに続いて部屋の中に入る。部屋は円形のテーブルと二つの椅子があるだけの狭い部屋で、奥に扉が二つ。
「よし、実験するか」
そういってホムラはまず右の部屋の鍵を開けて入って、扉を閉めてまた出てくる。そしてもう一度開けようとすると開かない。どうやら一度閉めると鍵がかかるようだ。
次にホムラは左の部屋に腕輪をかざして鍵を開けようとして…開かなかった。
「じゃあナギ、右の部屋に入れるかやってみてくれ」
そういわれて私は右の部屋の鍵を開けようとして…開かなかった。そして左の部屋の鍵は開いた。
「つまり右が俺の部屋で左がナギの部屋ってことか」
今度はホムラが部屋にいるときどうなるかを試す。まず扉を開けようとして…開かない、次に腕輪をかざしてみても鍵が開く様子はない。
『開かない』
コールでそれを教え、一旦ホムラが出てきて、今度は扉をあけっぱなしで私がホムラの部屋に入ろうとすると
「痛っ!!」
透明な壁に阻まれた。
「共有スペースはあるけど、個室には本人しか入れないってことか」
と納得するホムラを、うー、っと言って睨むと、すまんといって透明な壁に阻まれる仕返しをさせてくれた。そういう意味なんだけど、そうじゃない気が…。
そのあと個室の確認をする。個室は横のスペースは一人用のベッドで半分ぐらい埋められ縦はベッドでほとんどが占められている広さの縦長という表現がぴったりくる部屋だ。ベッドの横には小さな金庫のようなものが置いてある。金庫は倉庫のような役割があるらしく持ってきた備品を中に入れることができた。
個室を出た後は今度は部屋の扉の確認をいくつか行った。結局他に人がいないので他の人が入れるかどうかはわからないままだけど、閉じれば鍵がかかることだけはわかった。
部屋から出て廊下を歩き、ポータルの上に乗るとロビーに出る。そう、ロビーと部屋は物理的につながっていないのかもしれないのだ。となると私たちはいったいどこに連れて行かれているのだろうかと疑問に思うけど、それは口にはしない。
私は昼食の時間になったことに気づいたので、ホムラに一言言って部屋に戻りログアウトした。
昼食をとって再びログイン。個室を出るとホムラが共有スペースで椅子に座っていた。
「おっ来たか、聞いた通りクエストは二人で受けるものしかなかったな、受けようとしたら二人そろってこいだとさ」
ホムラは苦笑いを浮かべていた。それでもいくつかクエストに目星をつけて帰ってきたらしく、すぐにクエストを受けるぞと促された。
「まだ詳しい敵の情報もわからんから配達系…というより運搬のクエストを受けよう、STR補正のLv上げができるみたいだし」
そういってホムラとともに酒場へと赴く。そこの掲示板に貼ってある依頼を受けると、腕輪にクエストの情報が掲載された。
今回のクエストは大工さんの作業現場へ木材を届けてほしいというものだった。さっそく木工所に向かい木材を持ち上げる。
「重っ」
思った以上に重量感がある。
「貸してみ?」
ホムラは片手でそれを持ち上げられるみたいだ。私はホムラに支えてもらい、ホムラは私を支えている分ともう一つの木材を手に運搬する。目標は10個、目的地は腕輪が案内してくれる。といっても腕輪を見ないとわからないので、今腕輪を見れる状況じゃない私はホムラについていくだけだ。
何本か配達していると
「ん?」
「どうかしたの?」
「Lvが1上がってる」
「あっ私も1上がってる」
「ナギも1なのか」
ホムラが言っていたようにこのクエストではSTRの補正スキルが成長すると書いてあった。でもホムラの考えでは私と同時とは思っていなかったらしい。
「検証してみるか」
ここで再びホムラの検証が始まる。ホムラがこんな検証好きだとは思わなかったけど、私もそれに付き合う…付き合わされる。
何度も同じクエストを受けることができるみたいで、それを利用して検証していく。
まずは私が一人で十分に木材を持てるまで普通にクエストをこなしLvを上げる。そうしながら、4個の運搬終了と同時にLvが1上昇することが分かった。
そして私が一人で木材を持てるようになると、ホムラが1個の木材を運搬し、私は木材を抱えっぱなしで待機する。やはりホムラが4個の運搬終了とともにLvが上昇、私のLvに変化はなく時間経過では上がらないことが分かった。
次にホムラが2個抱えた状態で待機、私がその間運搬する。結果やはりホムラのLvが上昇することはなかった。
「よし、次は大石の運搬クエストを受けるぞ」
「ええ~またぁ?」
ゲームとはいえ重さの感覚がある。そのため精神的な疲労が当然あるわけだけど、ホムラはそんなのお構いなしだ。
大石の運搬は鍛冶屋から料理屋への運搬だった。大石の用途は漬物石に使うらしい。目標は4個だ。鍛冶屋にたどり着くとそこの親方さんから
「重いから気を付けるんだぞ」
と注意を受けていざ持ち上げ…。
「む、無理…」
「確かに、俺でも結構重く感じるな」
こうしてホムラと二人で運ぶ。このクエストは一度しか受けられないものらしく、細かな検証はできなかったけど、二人で運んで2個でLvが1上がるものだった。
クエストの報酬は料理屋(和風)の特別メニューだった。漬物はなかった…。
「つ…つかれたぁ」
料理を食べ終わり、テーブルの上に倒れこむように腕を伸ばし顔を伏せる。指に何かがふれる、おそらくホムラの手だろう。
「どうかしたのか?」
私が急に手に触れてきたので何か疑問に思ったのか、ホムラが聞いてくる。私は顔を上げて手を戻した後、別に、と答えた。
「にしても補正スキルがLvに関係なく同じ条件で上がるのは不公平な気もするな」
確かにLvが高い人も低い人も一律に条件を満たせば上がるというのは変だ。普通はLvが低い人の方が上がりやすくてもいい気がするけど…。でも運搬した数が影響して、一人で運んでも支えて運んでも支えられて運んでも上がるんなら
「STR補正を持ってる二人ぐらいしか得しないからじゃない?」
私の考えではもし仮に二人のうちどちらかしかSTR補正を持っていない、あるいは必要としないならば、運搬のクエストは二人で受注しても恩恵を受けるのは一人でしかなくなる。そうすると積極的にこのクエストを受けようとする人は減る。
つまりLvの高低による差別化ではなくてパートナーとの組み合わせによる差別化がされていると考えた。
「そうかもしれないが、それだけではないかもな、色々調べることがありそうだ」
とホムラの目に赤い情熱の炎がともった気がする…あっ元々目は赤かった。それと少し気になったことを聞いてみる。
「固定PTがあるのに何でホムラは私と一緒にイベントに参加しようと思ったの?」
「ん? ああ、ランキング上位の褒賞が何か気になってな、PTのやつらは行く気がないっていうから行く気があって相手がいないやつを探してたんだ」
「ランキングの褒賞…って、私と一緒で大丈夫なの? もっとすごい人と一緒の方がいいんじゃないの?」
「まぁ無理ならそれはそれでいいんだ、参加すると決めたのはイベント直前だったからナギぐらいしか空いてるやつがいなかった、そしてやれるだけのことはやるってだけだ」
ホムラは褒賞目当てだったのか…ってことは私も頑張らなくちゃダメなのかな。
「ところでランキング上位に入ることとさっきの検証って関係あるの?」
「ない」
……いいの? こんなので。
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NAME:ナギ
【投擲】Lv28【STR補正】Lv29【幸運】Lv19【SPD補正】Lv22【言語学】Lv32【視力】Lv13【】【】【】【】
SP23
称号 ゴブリン族の友




