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ナギ記  作者: 竜顔
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 目の前に広がるのは髑髏が作った真っ黒な暗闇。髑髏の目に灯っていた青い炎は通過して一切の光もない。少しの時間を経てその暗闇が、というよりも暗闇を作っている何か…髑髏の身体にあたる煙のような形無い物が動くのを感じる。


 まるでどこかに流れるように動いている。見えているのではなく、あくまで感じるだけ。


 ふとした瞬間に当たりの景色が広がる。真っ暗闇で何も見えなかった世界から、確かに暗いままだけど、生い茂る木々が、暗闇でやや深い緑に染まる草木がみえるようになったのと同時に髑髏の目が下の方へと流れていくのが見えた。


「邪心の人形だと!」


 デュラハーンと対峙していた骸骨が動揺した様子で声を荒げる。


 先ほどの髑髏が消えていったのは私の胸のあたり、そしてあの骸骨が言うことが正しいのなら…。


 ――オスカー!!


 が守ってくれたことになる。先ほどのあの髑髏は骸骨が発生させた魔法かなんかだったんだろう、その闇属性の攻撃をオスカーこと【邪心の人形】が吸収してくれたらしい。


 動揺した骸骨を見逃さずデュラハーンがすかさず攻撃を加える。他のみんなもそれぞれなだれ込むようにして行進するスケルトン軍団を蹴散らしながらデュラハーンが対峙する骸骨の方へと向かう。


 私もダガーで一発二発攻撃を加えながら、すぐに私に飽きて町へと向かうスケルトン見送り、デュラハーンの後ろに付く。


「先ほどの髑髏が奴のならまた来るやもしれん! ナギ殿、それは任せた」


「はい」


 デュラハーンの言葉に頷く。昼にプレイヤー達が死に戻った原因があれなら私以外今のメンバーで何とかできる人はいない。


「舞浜は回復優先で」


「わかった」


「ゆうくんが盾を、デュラハーンとクゥちゃんは攻撃に集中!」


「了解」


 カッサの指示が飛び、それぞれが頷く。私も髑髏が出るまではサポート兼攻撃役として動く。


 誘惑で骸骨の動きを止めて、デュラハーンが強烈な一撃を入れる。ふらつくところにすかさずクゥちゃんが殴りかかる。と思ったら骸骨が常に後ろの位置にキープしていた棺桶が開いてその中に骸骨が吸い込まれていった。そのせいでクゥちゃんの攻撃は空振りに終わる。


 一度閉じた棺桶は少しだけ開くとそこから黒い霧のようなものが溢れ出る。


「リフレクト!」


 デュラハーンが盾を構えてアーツを発動する。これで跳ね返された霧が棺桶の方向へと向かっていく。


「あんまり意味ない?」


 とクゥちゃんが言うとおり、跳ね返された霧は一度棺桶の方向へと向かうけど、少ししてまた再びこちら側に向かってくる。反射された霧と反射から戻ってきた霧と、棺桶から流れ出る霧とが混じり合い棺桶と私達との間で停滞する。


 デュラハーンのリフレクトの効果時間が切れて停滞していた霧が一気にこちら側に流れてくる。


「スゥーーー」


 だけどそんなことは問題ない、と言わんばかりにデュラハーンの顔、じゃなくて盾がその霧を吸い込む。最初からそうすればよかったんじゃ…。


「ゴフッゴフッ!!」


 勢いよく吸い込んでいた盾が急にせき込み始めた。それに伴って黒い霧が盾の口から漏れ出る。未だ残っていた霧と棺桶から出てくる霧に押されて次第に私達を覆い始める。


「ブハァー! にげ、ゲフ! 逃げた方がよさそうだ」


 デュラハーンは霧を吐きだし、こちらに盾の面を向けて逃げることを促す。私の誘惑も、ハートショットも決まらず、舞浜君の光魔法もあの棺桶は受け付けない。


 なのでデュラハーンに従い逃げることを決める。だけど町へ進軍するスケルトン軍団に森林を駆け回ってプレイヤー達をかく乱するスケルトン部隊の二種類のスケルトン達に邪魔をされてうまく逃げることができず、振り返れば棺桶は消え、辺り一帯を黒い霧が覆っていた。


「光魔法も吸収されて周りが見えない」


 舞浜君の声。


「しばし待て、少しは吸い込めるはずだ」


 どうやらデュラハーンはまた吸い込むつもりらしい。


 黒い霧が周囲を覆ったかと思うとまるで何かがまとわりつくかのような感覚に襲われる。すると徐々にHPが減り始める。時折何かにぶつかって、それでまたダメージを受ける。どうやら周囲のスケルトンも巻き添えになるようで、辺りが見えない真っ暗闇の中で敵と対峙しなければいけないみたいだ。


「カアァァァァッッッッッツ!!! スゥーーー!」


 一度デュラハーンは叫び声をあげて、すぐさま霧を吸い込む音が聞こえてくる。


 ほんのわずかに見えるようになった視界に映るのはスケルトンの頭。鼻先すぐにあるそれに一瞬固まる。


 そのスケルトンを光の玉が貫く。


「ナギさん! 大丈夫?」


 舞浜君だ。ぎりぎりのところでファーストキスがVR…しかもスケルトンという事態から逃れることができた。彼はいろんな意味で私の恩人となった。


「だい、じょうぶ」


「よかった、霧が薄くなったおかげで少しは照らしてくれるけど…他のみんなは見えないな」


 ひとまず舞浜君は私のすぐそばまでやってくると、他のみんなを探すように周囲を見回す。小さな光を生み出し周囲を照らす【ライト】の魔法で多少は視界が広がっているみたいだ。


 一度周囲を見る役を交代し、まとわりつくような霧によるダメージを舞浜君が回復する。


「あんまりMP無いから次からはその…」


「わかった」


 舞浜君の言葉に私は頷く。ポーションを使えということみたいだ。


 他のメンバーかも、と思った瞬間に現れるスケルトンを倒していきながらみんなを探す。そんなに遠くへ入ってないはずなのに見当たらない。


「お互いぐるぐる回ってるとか?」


「…ありえるかも」


 一度歩みを止めて首を傾げる舞浜君の言葉に私もなんか嫌な予感がしながら周囲を見回す。猫や犬が自分の尻尾を追いかけて延々追い付けないあの遊び(?)のように私達もお互いを探して延々同じところを回り続けている可能性がある。


「でも目印がないと人間って思ったように歩けない、って聞いたことがあるよ?」


 目を瞑った状態だとまっすぐ歩いているつもりでも実際は結構斜めに移動してたりするらしい。


「だから他の誰とも遭遇しないっておかしくない?」


 と私は続ける。もしかしたら私達はぐるっと回っているようで実は不規則に動いているかもしれない。他のみんなも同じような可能性を考えればどこかで交わるはずだ。


「この霧が晴れないことにはな…」


「抜け出るという方法は?」


 私の問いかけに舞浜君が固まる。まさか!


「考えてなかったとか?」


「まっすぐ進めば出られるかな?」


 質問を質問で返す舞浜君に呆れながらひたすら「前」と思う方向へと進む。多少ずれていても一周することさえなければいいわけだからどこかで霧から出られるはずだ。


 途中で巻き添えを食らっているスケルトンを倒すたびに方向を確認し、本当に突っ切ることができるか不安になったけれどなんとか霧から脱出に成功する。粘っこい霧を切り離すように舞浜君が剣を振り、私の分も切り払ってくれた。


 結局誰とも合流することなく到達した霧の先には変な人…型がいた。


 とんがり帽子に少し腰のあたりで引き裂かれたようなマントを羽織り、袖の長い上着には黒く染まっていて質感もよく分からない。ズボンの丈は長くその足元はよく見えない。


 顔は、木。質感的に言えば枯れ木。その目は細く開き、黒い中に黄色い丸が光る。口の端は吊り上りまるでニヤッとした表情の人型のモンスターがこちらを見ていた。


 それがスッと右手の指先をこちらに向け、咄嗟に舞浜君は私の前に出て盾を構える。


 …でも、何も起きず、その人型モンスターは消えた。


 私達二人は何が起きたのかわからず、あるいは何か仕掛けてくるのかも、と周囲を見渡して備えていた。だけどいつまでたっても攻撃が来ることはなく、この不思議な体験を不気味に感じ始めた矢先の事。


「……あっ、時間」


 ふいに舞浜君が気づく、その言葉が強烈過ぎて一瞬私は理解が追い付かなかった。


「時間…過ぎてるみたい、だね」


 きょとんとする私に舞浜君が再度話しかける。私の理解が追い付く。


 防衛戦の時間切れ。つまりあのモンスターが消えたのは攻撃のためでもバグでも不気味なことでもなく、単純に時間が終わったために消えただけだった。


 私達二人は来るはずもない攻撃にバカみたいに備えていたわけだ。


「あいつが紛らわしい消え方するから!」


 不気味な雰囲気に色々と不安になったじゃんか!


「まぁ、まずはみんなと合流しよう」


 舞浜君に宥められながら町へと帰った。


――――――――――

NAME:ナギ

 【ブーメラン玄人】Lv25【STR強化】Lv23【ATK強化】Lv10【SPD強化】Lv20【言語学】Lv41【遠目】Lv26【体術】Lv40【二刀流】Lv58【祝福】Lv12【スーパーアイドル】Lv18


控え

【水泳】Lv28


 SP18


称号 ゴブリン族のアイドル 恋に惑わされる者 ホマレの惚れ人 ファルカナンドの救世主 かまくら職人

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