表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ナギ記  作者: 竜顔
245/276

番外編:全方位

 エフェクトに現れない重い衝撃が空気を震わせる。大型の人型モンスター「トロル」がその巨体にふさわしい大きな棍棒を地面に向かって振るい、いや、叩きつけるかのように振り下ろした。


 それを受けるのはとても人なせる業ではないように思われるが、その巨大な棍棒より一回りは小さいが普通の人にとって小さくはない斧でっもって拮抗する人影が一人。


 真っ赤な装備に身を包み深紅の大斧を振り上げるのは、赤髪赤目ととにかく赤色に拘る男。ホムラだ。


「ったくどうなってやがる、いくらファンタジーでも限度ってもんがあるだろ!!」


 一方でその身を隠せるほど大きな盾を使う男が、これまた「トロル」を一人で受け持ちながらホムラの様を見ながら悪態をつく。普段は自らの前で構える大盾は、今は振り下ろされたトロルの棍棒の下、自らの頭の上に持ち上げられている。簡単に言えば下から重たい物を支える格好だ。力と力のぶつかり合いでトロルを止めたホムラとはどうしてもかっこよさが…。


「今変なこと考えただろ!!」


 おっと。踏ん張ってる方がお怒りのご様子。


「ってぅおあ!」


「あっ」


 盾の上に体重を乗っけていたトロルは風の刃で切り刻まれて、緑色の巨体が後ろに傾く。その拍子に踏ん張っていた人がその力が上に流れてバランスを崩し、尻餅をついた。ざまぁ。


「こんのぉー! バジル!!」


「遊んでないで俺にも手を貸せこのやろぉ!」


 踏ん張っていた人は瞬間火力ではうちのPTで右に出る者はいない風魔法使いのバジルに尻餅をついた文句を言っている。矛先はバジルに移ったらしい。その一方でまた少し遠くから怒声が聞こえてくる。


 あぁ、あれは多分うちのPTのリーダー兼空回り要員の彼だろう。本人曰く「紅葉色」の赤茶を基調とした装備に身を包み――遠くから見ると初心者が一度は必ず装備すると言ってもいいレザーアーマーと見間違う――時々バーサークモードに入って大変な目に合うが、今はまだ「正常」らしい。


 オールラウンドに対応できるが、トロルが現れてからは奴らの攻撃を引き受ける役だ。大きな盾が尻餅ついてるしな。大事な役割だ。


「ちょっ、時間かかるんだよ」


「殲滅おせぇよ!」


 バジルは紅葉カラーのアッキーに詫びながら再び風魔法の詠唱に入った。単体攻撃魔法の威力は他の属性の追随を許さない風魔法。その分詠唱時間はお察し。二つ目の言葉は大きな盾の人が俺に向けた言葉だろう。俺は広範囲への攻撃魔法を使うからな。


 だが俺はみんなには言ってない、というか言えないことがある。


 状態異常、沈黙(強)


 まぁ、なんだ、詠唱ができない。(弱)なら口を動かせるから合図できるんだけどな。回復役の紅一点は用事思い出して最初のスケルトンの波が終わるころログアウトしていった。すぐ終わるらしいから5人でも余裕と思ってたんだけどな。


 ここは防衛イベントの町の南。。一帯に荒野が広がるエリアだ。最初にやってきたのは普通のスケルトンの波。ただやみくもに町を目指す骸骨をホムラが大斧を振り回すだけで大分いなくなった。


 それからやってきたのがこのトロル軍団。一体1PTで受け持つのがほとんどだが火力に自信のある俺達は1PTで3体受け持つような状態だ。トロル軍団を従えるようにして弓矢を携えたスケルトンも一緒に少数やってきたんだが、こいつの放つ矢が厄介だった。


 耐性破りの矢、とだけ言っておくか。正直沈黙には耐性のある装備だったのに一本掠っただけで効果を受けちまったんだからそう呼ぶしかない。


 ホムラはトロルを一人でやっちまったらしい。まぁトロルぐらいのサイズで肉弾戦しかできないような相手ならまだホムラも一人で戦えるか。トロルのサイズは一般的な2階建ての家屋の高さと思えばいい。4メートルぐらいか。


 ホムラはそのままアッキーの援護に向かう。スケルトンが町に向かっていくので突っ立ってても問題ないのは運がいい。


「お待たせしました」


 紅一点の回復役が帰ってきた。さぁ、俺の沈黙を解いてくれ!


「あ、ジードさん沈黙になってるじゃないですか!!」


 ――なぜ言ったクソアマァァァァ!!


「聞いたか! ジードが沈黙だったらしいぜ!」


 大盾の人の表情がイキイキしてやがる。


「どうりで静かなわけだ!」


 リーダーは当たり障りのない感じだな。ホムラは黙々とトロルをなぎ倒す。


「ほらよぉ」


 バジルが詠唱を終え大盾の人が受け持っていたトロルを倒す。他のPTを見ているとトロルは中々タフそうなのにたった二発とはさすが風魔法。でも倒す時間はホムラの方が早いな…。


 紅一点のルーナの詠唱が終わり俺の沈黙が解除される。


「やっとしゃべれるぅ!!」


「いいから早く詠唱しろよ!」


 大盾の奴はうるさいな。


 てっとり早く威力そこそこ範囲そこそこの魔法でトロルをまとめて攻撃する。それで寄り付けばアッキーと大盾の人が注意を引き付けホムラは一対一に持ち込む。盾役二人に張り付いたのは俺とバジルで消し去る。


 トロル軍団の次は黒い馬に乗ったスケルトン軍団。それからトロルの二倍はあろうかという「ビッグトロル」。最後はビッグトロルとほとんど同じ大きさで、胡坐をかいて宙に浮いて移動する「スケルトン・ギーガ」が出てきた。


 スケルトン・ギーガは他のPTとも協力して時間ぎりぎりで倒すことに成功した。


――――――――――


 東は骸骨と狼の入り混じる混成軍団。


 丘を越えて間断なく現れ流れるようにして迫ってくるモンスター達を相手に、魔法部隊はほとんど機能せず、白兵戦による戦いが続いた。


「丘が視界を邪魔するし、速すぎて魔法を撃ってもわらわら出てきてきりがねぇ!」


 どこかかから聞こえる声も最もだろう。その数の暴力もNPCとプレイヤーの協力によって耐え抜き、一切の町への侵入を許さなかった。


 北は森を使ったいわばゲリラ戦。役割分担されたスケルトンのPTが森から奇襲をしかけ、一方で普通のスケルトン軍団が町を目指すという厄介さに、プレイヤー達も森の中へと入り敵を倒していく方法にシフトしていく。その戦果は大きく、町の前でただじっとしているときよりも明らかに被害が少なくなっていった。あからさまなボスクラスのモンスターは見つけることができなかった一方で得体のしれない何かに森の中で襲われ死に戻るPTが途中から一気に増えることとなった。


 しかしそれは森から顔を出すことはなく。モンスターを一体も町に侵入させることなく時間が過ぎ去った。



『防衛戦第一戦目』


防衛成功いたしました。



次は3時間後の18時から1時間となっております。




南に集中し過ぎた…。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ