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ナギ記  作者: 竜顔
242/276

開戦

お待たせしました。

 正午を過ぎて昼に入ったころから廃城跡は慌ただしくなっていた。時間帯は夜。だけど運営の告知によれば最初の防衛戦が行われる時間はこの夜の時間が終わる時間である13:00だ。周囲の見回りをしていた人々がそれなりの距離に突如として現れた敵の大軍を確認したとあって緊張感も高まっている。


 大軍はこの廃城跡地とその城下町の周囲を一周ぐるりと取り囲んでいるらしく、プレイヤーはそれぞれ東西南北の門とその周辺に分かれて迎撃準備を整えている。


 一晩見ないうちに町を守る防護壁も見れる程度にはなっていた。補修をした個所は問題ないけれど完全に壊れていた個所は人の背丈ほどの高さしかないために乗り越えられてしまう可能性がある、だけどプレイヤー側も乗り越えて人員の補充ができるので大きな問題にはならないとみられている。


 徐々に時間が迫っていくなか私達パーティーメンバーも揃う。今回はカッサも一緒に行動する。


「ポーションなら任せとけ」


「無限にストックされる倉庫だといいんですけどね」


「手厳しいね!」


 カッサが握り拳を作ってみんなに宣言するとミカちゃんのすかさずの発言に額に手を当てるそぶりを見せる。これから大きな戦いの前だということを考えれば緊張感が無い、と捉えることもできるけどこれはあくまでゲーム。と近くを見ると真剣な表情でアイテムのチェックをしている方々が…。


 ま、まぁ取り組み方は人それぞれということで。他の人の邪魔にならないように動く必要もあるだろう。


 私達が立つのは西側。北側にある森の木々と南の荒野の境目が存在する地形のところだ。


 徐々に夜の夕闇が薄れて背後からオレンジの光が差し込む。どうやら夜の時間が終わり昼の時間が始まるみたいだ。


 そんなことを考えているとあっという間に気づけば空は青色に染まり地平線というほど離れてはいない位置から迫ってくる敵の大軍の影が見え始める。


 遠くから響く地鳴りのような足音とガチャガチャという大軍が身に着けている装備が何かに当たる音。


 敵の姿がはっきりとわかるようになってくる。それが骸骨の戦士たちであるということはすぐにわかった。


「スケルトンだ!」


 最前線で敵の姿を見ていたプレイヤーが叫ぶ。これは事前に偵察に出ていたプレイヤー達によってすでに分かっていることだ。それを聞いてプレイヤーNPC関わらず人の列を作って壁を作っていく。


 ぶつかり合い上等の姿勢で遊撃部隊ことギルドに所属していないようなPT集団が待ち構える中、どこかのギルドの指揮官のような人が魔法舞台に一斉に号令をかける。


「第一撃! いけー!」


 その号令とともに大きな魔法が数発放たれる。距離があるのでうまく届かない可能性もあるけど、放たれた数から考えるとそれは織り込み済みらしい。スケルトンの足を止める、それ以外にも意味があるのかもしれないけど真っ先にわかるのはこれくらいだ。


 魔法による攻撃を受けても骸骨の軍勢はゆっくりと一歩一歩踏みしめるかのように歩を進めていく。円形の盾にとさかのついた兜。そしてきちんと手入れがされていることがうかがえる剣。意味があるのかわからない腰当もあって言うなれば上半身裸の骸骨と言った感じだろうか。


 そのゆっくりとしたペースは突如乱れる。一斉に止まるわけでも、魔法が撃ち込まれたわけでもない。


 きれいに整列をしていたスケルトン達が左右に交差しながら駆け込んできた。


「撃て―!」


 射程ぎりぎりから一気に攻め込んできたスケルトンにやや気圧されながらも魔法部隊の二発目が撃ち込まれる。前線部隊と後続が分断されたことを祈りながらスケルトンの波を消しにかかる。


 舞浜君やゆうくんが挑発でスケルトンをひきつけているうちにクゥちゃんと私の二人で倒していき、ミカちゃんは回復をカッサも時折殴る、蹴るで応戦しながらサポートに回る。


「撃てー!」


 大きなエフェクトが出ないので今度は魔法ではなく弓矢なようだ。スケルトンの波が少しでも穏やかになればそれだけ私達も楽に戦える。


 最前線でこぼれてしまったスケルトンを受け持ち、自分たちのPTだけははぐれないように気を遣いながら戦う。


「少し経つとリセットされる!」


 舞浜君が声を荒げる。挑発を当てても少し時間が経てばすぐに再びスケルトンは町へと向かっていく。そのため最前線で戦う人たちもスケルトンの通過をゆるし、私達も通過を許してしまっている。


「遊撃隊の皆さん密集してください!」


 という号令がかかったためそれぞれのPTがまた位置を確認しながら元の場所を陣取るようにして戦う。号令をかける人は防護壁の内側に建てられている櫓から状況を見ているのでまずいと思ったのだろう。


「でもこれって…」


「戦いづらいよな! でもやるしかねぇ」


 何かを言いかけた舞浜君の言葉をすぐ隣で戦っていた男性が受け取ってこたえる。先ほどまで盾役が止めているうちに他のメンバーで倒すという戦い方だったけど、密集したことによって盾と盾の間にほとんど隙間がなく、クゥちゃんのような接近戦が得意な人達を持て余してしまっている。


 槍使いとか魔法使い、私のような投擲使いの人がいないと盾役が攻撃も防御も担わなければならなくなって却って殲滅スピードは落ちてしまっているように見える。


「撃てー!」


 しかしそんな心配なんか不要と言った感じで魔法部隊や弓矢部隊がスケルトンの軍勢に無慈悲ともとれる攻撃を繰り返しスケルトンの数を削っていく。


 前線で受け止めている私達の後ろで余ってしまったPT達は回り込んで横からスケルトンの軍勢に攻撃を仕掛け始めた。


「俺達遊撃部隊というより壁部隊になったな」


「何言ってるんだよ」


「ボク達暇だし」


「クゥさんはまだしもカッサさんは弓矢が使えるんじゃ…」


「ポーション配給係がインベントリ埋めるわけにはいかんでしょ」


 盾二人と暇になってしまった二人が言い争いをしている。まだまだ余裕があると考えて大丈夫だよね?


 だけどカッサの言うとおり完全に私達が壁部隊だ。とはいえ最初の遊撃部隊が連携も取れてないようなPTの集まりだったことを考えれば、元々撃ち漏らしを食い止める壁部隊だった人達は大規模戦に向けて連携を深めていたギルドの面々だけあって壁役の負担を少しでも減らせるように、とうまく立ち回っている印象だ。


 心なしか戦い方もスマートに見える。


「撃てー!」


 号令さんにはもう少し状況を教えていただきたいところだけど号令の勢いから考えるといい感じなのかもしれない。


 段々視界に映るスケルトンの数も減りより遠くが見れるようになってきた。


「連絡! 各方角にてスケルトン以外のモンスターの進軍を確認! こちらでも注意だ!」


「遠くに見える影はなんだ!?」


 号令が他のエリアの情報を報告すると同時に注意を促す。遊撃隊となって前線で戦う人たちには何かの存在が目に入るらしい。


「スケルトン! 槍を持ったスケルトンだ!」


 前線からの質問に号令の人が答える。今までのスケルトンと微妙に違うみたいなので注意が必要かもしれない。


「ボスクラスってことはないよね?」


「さあ?」


「でもプレイヤーの数多いですし…告知だと強敵が出るって言ってましたよね」


 クゥちゃんの質問に首をひねるとミカちゃんがその可能性もあると示唆する。


「数は少ないし、遊撃部隊の皆さんを見ながらお手並み拝見でいいじゃねぇか」


 ちょいちょい私達のPTの会話に入ってくる男性の言葉に耳を傾けながら、煩わしそうにしている舞浜君と戦っているスケルトンにダガーを投げ込む。


――――――――――

NAME:ナギ

 【ブーメラン玄人】Lv25【STR強化】Lv20【ATK強化】Lv4【SPD強化】Lv18【言語学】Lv41【遠目】Lv25【体術】Lv40【二刀流】Lv58【祝福】Lv11【スーパーアイドル】Lv17


控え

【水泳】Lv28


 SP15


称号 ゴブリン族のアイドル 恋に惑わされる者 ホマレの惚れ人 ファルカナンドの救世主 かまくら職人

次回は火曜日か水曜日になります。

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