廃墟
一身上の都合で一週間ほど休載いたします。
エイローから北へと向かう道に沿って歩いていくと見晴らしのいい平原からその一帯だけ不自然に木々が茂る林が現れる。その木々の間を縫うようにして進むと小さな小屋が建てられていた。そこからプレイヤーNPC関係なく人の列が伸びていて、人々が次々に消えていくのが見えた。
どんどんと中に入っていくので進みは早く、列に加わって10分も待たずに私達も小屋の中へと入る。小屋の中に足を踏み入れた後一瞬で周囲が真っ白になる。どうやら転移しているみたいだ。
一瞬とはいえ小屋の中を見ることができた。小屋の中は最小限の家具だけがある簡素な物だった。立方体に近いその建物の左側にはキッチンが備え付けられ部屋の中央には二つの椅子を侍らせた小さな丸机、右の奥にはベッドが置かれていてこの小屋の住民と思われる人が横になっていて、眠っているのか起きているのか、それを確認する間もなく周囲が真っ白になった。
気づけば今回のイベントの拠点にいた。
「なんだこれは」
私達より先か後かは分からないけどその場にいる他のプレイヤーが驚きの声を漏らす。それもそのはず、廃城とは聞いていたけどあまりにも見通しがいい。
私達が飛ばされた場所の周囲にはかつては壁だった物があちこちに佇む。そのほとんどは私の腰の高さから首のあたり、所々に私の頭より高い物が散らばる。高い物のほとんどは幅が無いため視界の邪魔にはなりにくい。最も高い「壁だった物」は私が5人くらい必要なので、壁だった頃も同様の高さだったのなら天井が高い一階建てか、二~三階建てくらいのお城だったと考えることができる。
足元に目をやる。これだけボロボロなら大量の瓦礫が地面を敷き詰めていそうなのに、案外荒れた土の地面が見えていて、地面に転がる瓦礫は小ぶりな物が多い。
そして公式サイトの情報が正しいのならこのお城の周囲には城下町があるはずだけど先ほども言った通り見通しはよく、私達の視界を邪魔するのはあちこちで各々できることをやっている人々くらいだ。
城下町の石畳は荒れ放題で所々から雑草が顔をだし、石造が多い家々はお城と同様に壊されていて、一番原型をとどめているのは立派な正方形の壁一枚だけ堂々と残っている家屋か、すべての壁が均等に私の膝から上の部分だけごっそり消えている家、あとは骨組みだけ残っているこの町で珍しい木造の家だったらしい家屋のどれかだ。
町を守る防壁もほとんど残っておらず、人ごみがふとした瞬間に無くなれば遠くの景色が見えてしまう。
このように、この町は無防備に近い…というよりも無防備そのものだ。スペースのない人の壁でも作らないかぎり簡単に侵入を許してしまうだろう。
「これは大変だね」
「あたふたしてるのはどちらかと言えば生産系のプレイヤーみたいだしねぇ」
ざっと城だった建物の周囲を歩きながら町の様子を見ていたクゥちゃんの言葉にカッサも頷く。生産系プレイヤーはとにもかくにもまずは町の防壁を補修…というか建て替えるというか、に力を注いでいる。
一応開戦は明日の昼ごろなので、間に合う…とは断言できないけどゲームであることとNPC達も協力していると考えれば間に合うようにできているのかもしれない。
「この景色を見ると防衛失敗すると大変なことになるよね」
私は慌ただしく動き回る人々を見ながら言う。一度始まってしまえば次の防衛戦までの時間は短い。もし明日までに各設備の設置が間に合っても防衛失敗で全部リセットされてしまえば次の開始直前まで廃城跡に入れないらしいのでまず間に合わないと考えられる。
「まぁ、そうならないようにしないとな、じゃあ俺やることあるから」
そう言ってカッサは立ち去って行った。なんでも斥候班が組織されて敵情視察を行うらしい。そういうこともできるようになっているみたいだ。
「私達は何をすればいいんだろう」
「さあ?」
「町を見て回ったり外に出てみるのもいいんじゃない?」
私の問いかけにクゥちゃんと舞浜君が返す。この城下町の南は荒野が広がっていて見晴らしがよさそうで、東側は草原があって奥にやや小高い丘があるみたいだ。
北側は城下町周辺は開けているものの奥には森が広がっていてその中は見づらい。さらに奥には山を構えていて敵側の拠点にするのはよさそうな条件がそろっている。
西側は北側に茂っている木々が浸食をしていて見づらい部分もあるけれど全体的には開けている。
あくまで城下町から見ただけだけど、こんな感じだ。
周囲をぶらぶらしていると、あちこちに人だかりができる。どうやらどこかのギルドの人達がそれぞれで何かをやっているらしい。
「プレイヤーの方! 集まってください!」
と叫んでいるので私達もその人だかりに加わることにした。
どうやら今回のメンバー編成に関わることだった。とりあえず最初の防衛戦では多くのプレイヤーの参加が見込まれるため普段野良や、ソロでやっている人は極力同じ武器や魔法を使う人とPTを組んでほしいということ。固定PTで活動している人達はそれぞれ普段通りのメンバー構成でかまわないということ。ギルドの人達はギルドメンバーの構成によってそれぞれ別々の対応が告げられていた。
あくまでこれはおおまかな事柄だそうで、NPCもいることから初戦は人海戦術を採用するらしい。あとは投石器なんかの兵器も城下町やその周辺に設置できるらしく、それに間に合えばまた違った編成を考えるとのこと。
「まぁ敵の強さもまだわからないですし、強敵がどういったものなのかもわからないのでとりあえずこんな感じでお願いします! あと、知り合いなんかにも教えておいてください!」
と言った後その人は周囲の人だかりにどいてもらうようにお願いして話を聞いてないプレイヤー達に集まるように指示していた。
「大変そうだね」
「でもおいしい大物はああやって説明する人を大量に用意できる、人数が多いギルドがとっちゃうんだろうね」
私が一生懸命説明するプレイヤーを見ながら言うと、クゥちゃんもまた自分の考えを述べる。
「と言ってもうちは盾が二人もいるんでどっちかよそにとられたりしないですかね」
ゆうくんが少しばかり不吉なことを言ってのける。
「その場合は舞浜さん、お願いします」
「え!」
舞浜君はミカちゃんによって切り捨てられた。彼氏と別々は嫌だろうから致し方ない部分もある。
「最初は人海戦術らしいから心配しなくて大丈夫でしょ」
クゥちゃんはフォローになってないフォローを入れる。まぁでも後から事情が変わって最終的に普段のメンバーと誰一人一緒に行動してない可能性もあるみたいだから最初だけに限らず気にする必要はないのかもしれない。
でも舞浜君の不安そうな表情を見るに、そのことには気づいてないみたいだ。
偵察から帰ってきたカッサから城下町周辺の地理や、まだ敵と思われる存在が確認できないことを教えてもらったりしながら何気ない会話だけでその日はログアウトした。
――――――――――
NAME:ナギ
【ブーメラン玄人】Lv25【STR強化】Lv20【ATK強化】Lv4【SPD強化】Lv18【言語学】Lv41【遠目】Lv25【体術】Lv40【二刀流】Lv58【祝福】Lv11【スーパーアイドル】Lv17
控え
【水泳】Lv28
SP15
称号 ゴブリン族のアイドル 恋に惑わされる者 ホマレの惚れ人 ファルカナンドの救世主 かまくら職人




