閃光
黄金竜が放った眩い閃光から目を開けると、黄金竜は私の目前にまで達していて、腕を振り上げ、その爪を振り下ろそうとしているところだった。どういう状況かなんて整理する余裕などなくただ避けなければという直感が体を後ろへと突き飛ばす。
振り下ろされた爪は私の身体をわずかに掠ったけれど、直撃を免れることはできた。黄金竜の攻撃力はそこまで高くないみたいで掠っただけでは一割もHPバーは減っていない。
黄金竜が上へ舞い上がった隙に改めて状況を確認する。前に立っていた二人、舞浜君とクゥちゃんはそれぞれ突き飛ばされたようで今立ち上がったところみたいだ。舞浜君にはカッサがポーションを供給し、クゥちゃんには来栖さんが回復魔法をかけている。
先制は私の攻撃だったけど黄金竜に先手を取られた格好で、陣形は崩れている。とはいえこういう想定外も情報を集めずに挑むときの醍醐味だ。
黄金竜が空中で次の攻撃の準備をしているうちに陣形を立て直し、舞浜君が再び挑発を当てる。
私達の真上に円を描くようにぐるぐる回っていた黄金竜は再び下の方に降りてきて私達の前、舞浜君の正面に対峙すると口を開く。
「ブレスか!」
カッサが叫ぶとともに、それに気づいた全員が舞浜君の後ろに直線になって並ぶ。ブレスには盾で防いでも盾の横から溢れて完全には防ぎきれないものや、モンスターが顔を左右に動かして広範囲に攻撃を繰り出すものがあり、盾の真後ろが最も安全とされている。
黄金竜の口の奥に見えた光の玉が、太い光線となって放たれる。その光線は舞浜君に当たり、舞浜君を飲み込み…私達にも襲い掛かる。
「ちょ!」
誰のものかわからない叫びとともに本日二度目の光に包まれる感覚。黄金竜が光った時とは違い目が眩むことはなかったけれどHPバーが吹き飛…ばなかった。失ったのは四分の1ほど、特に防御力に不安のあるマルセスさん、来栖さん、カッサの三人は半分から7割近くHPを失っているけど生き残っている。
思ったより攻撃力はない? と思ったのも束の間、黄金竜の正面に立っていた舞浜君が虫の息、というよりも「1だけ」残っているような状況だった。
他のメンバーのHPの減り方から見てPTメンバーのダメージを肩代わりするアーツを使ったんだろう。
「ラッキー」
舞浜君が呟く。おそらく残りHPがこの値より高ければ「1だけ」残して生き残ることができるスキルかアーツ、装備の効果が発動したらしい。
黄金竜はすでに首のあたりを持ち上げて次の攻撃へと移ろうとしているように見える。
ギャンブルに成功したとはいえ依然後手を踏んでしまっているので次の攻撃までに舞浜君だけでも戦える状態に戻ってもらわないと一気に崩壊してしまう。そう思った私は少しでも時間を稼ごう、と誘惑を発動する。
「うわ!」
「ちょ!」
「ナギちゃん!?」
「ごめん!」
誘惑には成功したけどそれと同時に黄金竜が強烈な光で私達の視界を奪う。時間を稼ぐつもりがあわや立て直す準備がリセットされるところだった。来栖さんが呪文を切らないでいてくれたおかげで舞浜君のHP回復だけはリセットされず時間を作ったことがマイナスにならずに済んだ。
とりあえず私は「黄金竜は状態異常になると光るらしい」と心に刻む。
体勢を立て直すという部分ではマイナスになりかけたけど、光によって目が眩む時間と誘惑による釘付け状態の時間では目が眩む時間の方が短くようやく攻撃するだけの時間的猶予ができた。
クゥちゃんがこの時間がチャンス、と短い時間ながらも溜めが必要なアーツを構え、私も黄金竜に突き刺さったままのブーメランを放置して【赤き悪魔の大斧+4】を取り出しチャージスローを構える。
黄金竜が動き出す前に溜め終えたクゥちゃんが駆けだす。クゥちゃんが攻撃を当てる瞬間と同時、それが無理でも直後に当たるタイミングを計って私も大斧を投げる。
キィィィィン!!
クゥちゃんが爪を突き立てると高い音が響き、その直後に私の大斧が当たって重たい音が響く。大斧が持ち上がっていた黄金竜の首に当たると黄金竜は首を一瞬くの字に曲げた後、頭を振り上げその勢いのまま地面に打ち付けた。
黄金竜が仰向け(?)になっている隙に大斧と刺さりっぱなしになっていたブーメランを回収する。
キンキンキィィン
「ダメージ通ってる気がしないんだけど…」
私が武器の回収をしている一方で攻撃を集中的に繰り出していたクゥちゃんは爪で攻撃するたびに甲高い音を響かせる黄金竜の鱗にあまり手ごたえを感じていないようだ。刺すとか切る(引っ掻く)とかの攻撃は相性が悪いのかもしれない。
「クゥちゃん、できるだけ鱗と鱗の間辺りを!」
「了解」
フックブーメランで突き刺さったままだったのは鱗と鱗の間だったはず。アーツの性質だというだけの可能性もあるけど何分堅そうな敵に突き刺した経験があんまりないもんで、ボスということも考えれば何か特別な仕掛けがあるかもと疑ってみてもいいはずだ。
結果的にはあんまり違いが判らなかったけどクゥちゃん曰く何となく手ごたえがあった気がするらしい。
ゆっくりと寝転がっていた黄金竜は起きる時は機敏な動きで起き上がり吠える。特に何か効果があるわけでもないみたいだ。
そこに舞浜君が挑発を当てて自分へと注意を向けさせる。
ゆっくりと後ろに翻って舞浜君の正面に対峙して口を開く。
「またブレスだ」
「止めます! 目を!」
カッサの叫びが先か、私も声を張り上げる。目を閉じてと言いたかったけどその猶予はなく私は誘惑を発動する。
閉じた目の視界が白に近かったのできちんと当たったと安堵しながら目を開ける。
「デカイのいきまーす」
のんびりした口調で来栖さんが宣言する。いつの間にか詠唱を終えていたらしい。
それを受けてクゥちゃんは一目散に黄金竜へと接近し、私もビッグブーメランを発動して構える。巨大な光の柱が降り注ぎ、見事に黄金竜に突き刺さる。そして動きを取り戻した黄金竜の頭にクゥちゃんが踵落としを決める。
頭が地面に叩きつけられたのを見て縦向きにビッグブーメランを放つ。それによってもう一度黄金竜は頭を叩かれる羽目になった。
「ようやく準備完了!」
マルセスさんも何かが終わったらしい。
それは一定時間魔法の詠唱が不要になるという強化だった。それを合図に来栖さんが攻撃魔法を次々と撃ちだす。光魔法ってこんなに攻撃の種類があるんだぁ、と思いながらもこれで主導権はこちらに移った。
強力な魔法を詠唱時間がなく撃つことができる。それによって黄金竜の動きを止めることもできるようになる。来栖さんは絶妙なタイミングで強力な魔法を放っては動きを止め、その間は威力が低めの魔法を放ち、を繰り返し、それでも再び動き始めそうになったら私やクゥちゃんが全力で止める。
カッサはMPポーションを来栖さんとマルセスさんに交互にふりかけ、マルセスさんは完全にMPを回復できる魔法で来栖さんをサポート。舞浜君はいつ来栖さんの詠唱完全短縮が終わってもいいように黄金竜の前で注意深く盾を構えていた。
来栖さんの詠唱完全短縮が切れたけれど、最終的に舞浜君が誰よりも一番ダメージを与えたようなエフェクトを出しながら黄金竜を切り伏せた。
「……その、インベントリにですね、竜系相手だと威力が上がる武器がありましてね、倉庫に入れた記憶があったんだけどなぁ」
「ポーション、返せや」
戦いが終わって黄金竜の森からあの屋敷の中――廊下じゃないどこかの部屋――に戻ってきた後、視線をそらしながら話す舞浜君にカッサが詰め寄る。舞浜君がそれにもう少し早く気づいていれば多少は楽に戦えたのかもしれない。
こうして無事(?)に私達は【黄金の果実】×5を手に入れたのだった。
――――――――――
NAME:ナギ
【ブーメラン玄人】Lv16【STR強化】Lv15【ATK増加】Lv37【SPD強化】Lv13【言語学】Lv41【遠目】Lv24【体術】Lv37【二刀流】Lv54【祝福】Lv6【スーパーアイドル】Lv11
控え
【水泳】Lv28
SP12
称号 ゴブリン族のアイドル 恋に惑わされる者 ホマレの惚れ人 ファルカナンドの救世主 かまくら職人




