黄金竜
舞浜君と合流してからしばらくすると、私達は屋敷の前に伸びる列の中に溶け込んでいた。
夜の時間帯にもかかわらずログインしてきた舞浜君は折角ログインしてみんなと合流したんだから、とキノミンゴールドを探すのが難しいなら黄金竜に挑戦してみたいと言うのでその希望に応えることにした。
とはいえ黄金竜が光源としてどれだけの範囲を照らしてくれるのかわからないのでこちら側から光源を用意する必要がある。
カッサが松明を持ってもいいし、舞浜君が光魔法で照らしてくれてもいいけど前に出られないカッサが松明を持っても前に出ていく舞浜君やクゥちゃんがその恩恵を受けられそうにもないし、舞浜君にしても戦闘中になれば光源の維持に注意を割くことも難しい。
なので結局光魔法が使える回復役を連れてこなければならなかった。それもあって多少時間がかかったけどとりあえず適当に連れてくることができたので列に加わっている。
「いやぁ、ちょうど二人ぐらい空いてる人なんていないと思ってましたよ」
カッサが急遽かき集めた二人のプレイヤーに対して言う。ボスが相手となればパーティで挑む人が多いし、ましてやこのことが発見されてから日にちも経ってないので普段パーティで活動している人ぐらいしか【金竜の鱗】を持っていないだろうし、そのままパーティで黄金竜に挑む人がほとんどだと思っていた。
運よく空いていた二人。そのうちの一人、回復役の男性。
「まぁこっちも興味本位で首突っ込もうかと思っていた矢先の誘いだったんでよかったですよ、二人で挑むのはさすがに気が引けましたし」
深い青色の髪の毛にライトブルーの瞳。服は青色を中心に正面から見ればその外枠を白色で縁取りしたかのような色合いの神官服を纏うその男性はカッサの言葉に笑顔で返す。
そしてもう一人。こちらは黒を基調としたフードつきのローブを纏い、フードを深くかぶっているため目元がよく見えないけれど、その下に見える口元に白い歯が光るほどほどに見慣れた男性。
「俺にしてみればこの三人とは一緒に行動したこともあるし、本当丁度いいところにいてくれたもんだな」
クリスマス島の冒険で一緒に行動していたマルセスさんだ。
とりあえず回復役を探しているとばったりこの二人、というよりもマルセスさんに遭遇した。思わぬところでの遭遇にお互い一瞬動きが止まってしまったけれど事情を話すとマルセスさん達も【金竜の鱗】を集め終わった後で、元々行動していたパーティが解散してしまったので、屋敷に挑戦するどこかのパーティに入れてもらおうと考えていたところだったらしく一緒に挑戦することになった。
舞浜君や、マルセスさん達二人と合流する間にいい頃合いになってしまったらしく門番さんに話を聞いた時より行列が長くなっていて、屋敷の門の奥から階段の真ん中ほどにまで伸びていた。
軽く何ができるか等の自己紹介を済ませた後ようやく門をくぐり敷地内へと入る。敷地内は砂地で、これまた金色に輝いている。建物は門を含めてその砂地の部分をカタカナのロの形に囲っている。左右は雨宿りできる程度に屋根がついているけれどただの壁で、部屋と呼べるスペースがあるのは正面だけらしい。
正面にある屋敷は床が高く5段ほど階段を昇らなければならず、その先に三つの入り口が横並びで突いている。今現在開いているのは真ん中だけで左右二つは雨戸でふさがっている。そしてプレイヤーの列が伸びているのは当然真ん中の入り口からだった。
キノミンゴールドの性質の悪さで盛り上がっているうちに屋敷の中へと足を踏み入れる。そこは道幅が狭い一本道の廊下のようになっていて、奥には二つの障子が閉じたり開いたりしている。その障子の奥には屋敷の規模からは想像できないような森林が広がっているのが見えたのでどうやら黄金竜の森と繋がっているみたいだ。
夜の時間ということもあって真・黄金石が真の姿を見せて外は全面金ぴかで豪華な状態になっているのに内装は普通の木の床に壁も木製、奥にある障子もいたって普通の障子だ。光源がどこにあるかわからないけど夜なのに明るい。
屋敷の中に足を踏み入れるとすぐに宮司さんらしき衣装のNPCがいて【金竜の鱗】の提出を促される。もし持っていないとなればどのように叩きだされるのか見てみたい気もしながら持っている私達は何事もなく通してもらえた。
そしてついに、私達の前のパーティがいなくなる。前のパーティが通過すると一度障子は閉じて、私達が近づくと再び開く――
障子から一歩踏み越えると暗い森の中にいた。全員が通り終えると障子が閉じて消える。
「他のパーティとは隔離された場所…ってところか」
カッサが周囲を見渡しながら言う。
「とりあえず小さい光を出しますね」
神官服の男性――「来栖」(くるす)さんというらしい――が小さな光を発生させる。夜目が利かず身動きが取れなかった私とカッサ以外の面々が動き始める。まだ戦闘になっていないから小さな光で十分だ。来栖さんはミカちゃんがクリスマス島の冒険の時に使っていた大きな光を発生させる魔法も使えるらしいので心強い。
「えーっと話では黄金竜自体が光ってるんだったな」
マルセスさんが確認するように言いながら周囲を見渡す。黄金竜の森の木々の中に金色の葉をつけている木は見当たらない。
このエリアにいられる時間は30分。その間に黄金竜を倒さないと【黄金の果実】5個という宝くじには当選できない。ボスというので待ち構えているものかと思ったけどそうでもないらしくそれなりに歩き回ったころに光り輝く何かが遠くで動いているのが見えた。
「なんか遠くに動くものが」
「黄金竜か?」
私が報告するとマルセスさんが尋ねてくる。
「それよりもどっちに動いてる?」
「こっちに来てる感じだ」
舞浜君の問いにはカッサが答えた。カッサの言葉を聞いてマルセスさんはバフのための準備を始め、舞浜君は盾を構えてみんなの前に出る。クゥちゃんもいつでも攻撃できる態勢で待ち構える。来栖さんも何かの詠唱をしているのでおそらく大きな光を発生させる魔法だと思う。
金竜が猛獣のような胴体で背中に羽が生えている姿ならば、黄金竜は蛇みたいな、昔話のアニメのオープニングに出てくる竜の姿をしている。
どういう原理か宙に浮いてうねうねとこちらに近づいてくる。と思ったら急に方向転換して私達から見て右方向へと向かい始めた。
「「アクティブじゃないのかよ!」」
盾を構えて待っていた舞浜君と一つバフをつけ終えたマルセスさんが同時に突っ込む。
少し動きが速くて捕まえられるか心配になりながらフックブーメランを発動してブーメランを投げる。
黄金竜は一度私達から遠ざかって行ったけれど丁度私達を迂回するような動きだったので逃げ切られることもなくフックブーメランが刺さった。それと同時に地面へと叩きつけ…
られない。確かに地面に落ちたけれど、まるでただ飛行機が着陸しただけかのような具合で、そのまま地面を這うようにこちらに向かってくる。その頃に来栖さんの魔法が完成し辺りをまぶしいくらいの光で照らす。
舞浜君はすでに黄金竜の正面に立って挑発を当てる。すると黄金竜は起き上がるように顔を持ち上げて吠えると同時に全身が強烈な光を放って私の視界は真っ白…というより黄色? で包まれる。
「うわぁ!」
その光に目を瞑るとあちこちで誰の声ともわからない叫び声が聞こえる。
目を開けて視界を取り戻した時、縦に伸びる影が目の前にあった。
――――――――――
NAME:ナギ
【ブーメラン玄人】Lv14【STR強化】Lv13【ATK増加】Lv35【SPD強化】Lv11【言語学】Lv41【遠目】Lv24【体術】Lv37【二刀流】Lv53【祝福】Lv5【スーパーアイドル】Lv10
控え
【水泳】Lv28
SP12
称号 ゴブリン族のアイドル 恋に惑わされる者 ホマレの惚れ人 ファルカナンドの救世主 かまくら職人




