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ナギ記  作者: 竜顔
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 お兄ちゃんの悲しい叫びが金色の森に響き渡った翌日。お兄ちゃん達は普段のメンバーが帰ってくるということで、私は解放された。


 ゲーム内で昼の時間が来る昼過ぎからログイン――


 正月の三が日が過ぎ、正月休みが終わる人や実家から帰ってきた人などによってジパーンガの町はこれまでにないくらいの賑わいになっていた。


 クゥちゃんは今日の夕方ごろ帰ってくるらしく、ログインできるかも怪しいそうだ。舞浜君は明日帰ってくるらしい。バカップルの二人は知らん。


 なので、


「二人っきりか…」


「二人ぼっちの方が適切だと思うけど…」


 カッサと二人。クリスマス島の冒険の後の一週間一緒に行動することもあったので行動すること自体は久しぶりではないけれど二人だけのシチュエーションはいつぶりだろうか。


「いやぁこのイベントはいいよな、あんまり戦わなくて済むし」


 カッサは相変わらず戦闘は苦手で洞窟に潜ってこそこそ動き回って宝箱のアイテムを漁ったり、罠を解除してにやにやしたり、斥候としてPTの案内役を担ったりしている。そんなカッサだけどキノミンゴールドを探すこのイベントは割と気に入っているようだ。


 キノミンゴールドを見つけて逃げられないように忍び足で近づき、仕留める。というのが普段やっていることと似ていて楽しいんだそうだ。カッサにとっては金色の森は、森の形式をしたただのダンジョンとして映っているみたいだ。だとしたらキノミンゴールドは動く宝箱といったところなのかもしれない。


「じゃあ早速行きますか」


「そうだね」


「昼の時間帯の素晴らしさを教えてもらうとしよう」


 カッサは一応年明けの二日目からログインはしていたらしい。だけど行動時間は主にゲーム内で夜の時間帯だったために私と接触することがなかった。


 まぁカッサの「お正月ログインできない」が元旦だけの話とは思わなかったし、向こうも私が「ログインできる」と言っても年明けで忙しくてそう何時間もゲームなんかできないだろうと思っていたために起きたすれ違いだ。


 とりあえず、カッサは夜の時間の方がキノミンゴールドを探索するプレイヤーが減って遭遇しやすいと考えてやってたみたいだけど、その成果は思うようにいかなかったらしいことだけは分かった。夜の時間もやると言い張っていたお兄ちゃんを止めたのは正しかったらしい。


 カッサもリアルラックが無い側の人間なんじゃ…、と疑いはしたけど、決してカッサのリアルラックのなさに自分も巻き込まれるかも、なんてところまでは至ってない。


 これまでより明らかに人が増えているので遭遇できるか不安になりながら金色の森に入る。まずは北側へと向かって歩いていく。なんとなく遭遇しやすい気がするからだ。


 【黄金の果実】を最も集めたプレイヤーにだけ褒賞が与えられるこのイベント。カッサによると現在のトップは3個ぐらいだそうだ。「追いつけるかな?」と問いかけるカッサには「多分無理」とだけ答えておいた。


 というか3個も集めた人はどんな幸運の星に生まれてきたのだろうか。


 しばらく歩いていると何度かどこかから奇声が聞こえた。どれも悲しい感じなのでおそらく逃げられたか、逃げた奴が他のPTに仕留められてしまったのかのどちらかだと思われる。


 それよりも気になることが一つ。


「木の実が全然ないね」


「ん? ああ確かに言われてみれば、キノミンゴールドの事しか考えてなかったけど普通の木の実もないねぇ」


 私の言葉にカッサも頷く。先ほどから木の実に擬態しているキノミンゴールドを見つけてやろう、と木の上を見ているわけだけど、そもそも木の実が見当たらなかった。


「誰かが大量に収穫してるのかも、【金色の果実】の結構高額で売れるみたいだから」


 カッサが木の実が見当たらない理由を推測する。もしかしたら以前からそういう人はいたのかもしれないけど、全くと言っていいほど木の実が見当たらないのは人が増えたせいだろうか。


 北側に向かって歩くこと小一時間ほど、少し探索にだれてきたときだった。


「逃げられたー!!」


 割と近くから大きな声が聞こえた。


「お、今結構近くなかった?」


 近くから聞こえた叫び声に若干テンションが上がったのか、カッサはキレのある動きで私の方を振り返った。私はそれに頷き、


「うん、少しここで待ち伏せてみよっか」


 と言いながら攻撃の準備に入る。結局昨日は試せなかったけどもしかしたらダガーで素早く攻撃しなくても【フックブーメラン】なら動きを止められるんじゃないかな、ということを試すためにブーメランを構える。


 気づけばカッサも弓矢を構えていた。戦闘する姿をあんまり見ないので忘れがちだけどカッサは弓矢使いだ。未だに進化できてないらしいけど。


 周囲を見渡せばそれなりにプレイヤーもいる様子。だけど逃げられたと思われるPTは見当たらない。近いと思ってたけどそれなりに距離があったのかな、と思っていた時だった。


「来た!」


 カッサが叫ぶのと同時に矢を放つ。カッサと体の向きが逆になっていた私は振り返った分だけ一瞬遅れてキノミンゴールドを確認するとすぐさまフックブーメランを発動してブーメランを投げる。


 きれいに放物線を描いたブーメランはぎりぎりのところでキノミンゴールドに躱されて地面に突き刺さる。


「やばっ」


「それは俺達のだぁ!!」


 キノミンゴールドにブーメランが回避されて逃げられそうになり焦っていると、元々キノミンゴールドから逃げられていたPTが追い付いてきた。


「ルールじゃ早い者勝ちよ! 急いで!」


 と叫んできた男性を叱咤するように女性が叫ぶ。彼女の目線はキノミンゴールドから少しも離れることはない。武器はどちらも剣系みたいだ。


「そう言ってもらえるなら!」


 とカッサがキノミンゴールドへと向かっていく。挟み撃ちにするように反対側からは男性が突っ込んでくる。


「うわぁ!」


「おっと」


 だけどキノミンゴールドは横に飛び跳ねて躱す。剣を振り下ろした男性と、ぎりぎりまで弓矢を放つのを待っていたカッサはぶつかりそうになり、それを避けるためにカッサの矢はあらぬ方向へと放たれてしまった。


 一方、飛び跳ねたキノミンは、着地した瞬間。


 ドスッという音とともに矢に貫かれていた。そしてそのまま消えていく。


「んな!」


「しまったわ!」


 男性と女性は焦りの声を上げてこちらを見てくる。


「どうだった!」


 女性の後ろからまた一人男性が駆け寄ってくる。この人も同じPTらしい。


「ん? 弓矢が刺さったけど結局誰の?」


 男性を避けた後体制を立て直したカッサが尋ねる。カッサの矢はあらぬ方向に飛んで行ったのでそれが刺さったとは考えられない。


「あら? そちらじゃないの?」


 女性が首を傾げながら尋ねる。念のためにインベントリを確認するけどドロップはない。そして女性の様子から考えるに彼女達も違うらしい。


「…取り込み中悪いが」


 お互い首を傾げて疑問に思っているとどこかからくぐもった声が聞こえる。そちらの方に目を向けると忍者のような恰好をした男性が立っていて、その背中には大きな弓を背負っていた。


「俺が倒した…そちらの女性が早い者勝ちと言ってたので……まずかったでしょうか?」


 男性は恐る恐るという感じで確認する。


「いえ、そういうルールですから、それでどうでした?」


 女性は優しい笑顔で男性に言葉をかける。


「【黄金の果実】ゲットできました」


 男性は少しだけ頭を下げて言った。


「「「ふざけんなぁー!!!」」」


 女性たちのPT三人が大きな声で男性を責め立てた。直前までの言動が嘘のようだ。


「拙者はこれにて」


 そう言うと忍者風の男性は姿が見えなくなった。隠密のスキルによるものだと思われる。


「「「待てー!!」」」


 キノミンゴールドを追っていた三人組は今度は忍者を追って行った。


「とりあえずやっと一体と遭遇か…」


 そう呟くカッサを見て、カッサのリアルラックの無さに巻き込まれたかも…と少し不安になった。


――――――――――

NAME:ナギ

 【ブーメラン玄人】Lv14【STR強化】Lv13【ATK増加】Lv35【SPD強化】Lv11【言語学】Lv41【遠目】Lv24【体術】Lv37【二刀流】Lv53【祝福】Lv5【スーパーアイドル】Lv9


控え

【水泳】Lv28


 SP11


称号 ゴブリン族のアイドル 恋に惑わされる者 ホマレの惚れ人 ファルカナンドの救世主 かまくら職人

「それは俺達のだぁ!」

がタイプミスで

「それはおらたちのだぁ!」

になっていてそのまま使うか少し悩みました。

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