アッキーはしゃぐの巻
キノミンゴールドを倒してから数時間。私達は未だ金色の森の中にいた。夜の時間が来るギリギリまで粘るつもりだ。
とはいえあまり距離があると夜の時間になった時にわざわざ町に戻るのが面倒になるのでジパーンガの町にある程度近いところまで場所は移していた。
成果の方はあれから微妙。キノミンゴールドを見つけたプレイヤーの奇声は時折聞こえたけれど、その姿を見ることはできなかった。それ以外のモンスターは倒したり逃げられたりと言った感じだ。
「見つからねぇ」
お兄ちゃんが気の抜けたような声を上げる。
「まぁここら辺はジパーンガに近いしそう簡単には見つからないだろうな」
ホムラはそう言いながらも一応周囲を見渡している。私が一度木に生っているところを発見したので基本的にホムラは上を中心に探しているみたいだ。
「というよりも…ですね、俺達他のPTから逃げてきた奴以外見つけられてないですよ、倒した奴もナギちゃんが見つけて先制してくれたから倒せたようなものですし」
「うぅっ…言われてみれば、知らないうちにお前らがキノミンゴールド倒してたから自分たちが倒した奴もまともに姿を確認してないし」
ジェットさんの一言にお兄ちゃんが肩を落とす。あの時私がキノミンゴールドを見つけて攻撃したことにいち早く気付いたジェットさんはすぐに動き出して攻撃を放った。お兄ちゃんとホムラの二人が気づいた時にはキノミンゴールドが消えていくところだったとか。
肩を落とすお兄ちゃんを見て自分の言葉がまずかったのか、とジェットさんが慌てて
「そんなお義兄さまを責めるつもりは決してありません! さぁいつも通り元気よくキノミンゴールドを探しましょう!」
と手を顔の前に持ってきて拳を握って見せる。
「なんか俺バカにされてる?」
「そんなことはありません!」
「「元からバカだから」」
「味方が一人しかいねぇ!」
どうやら私とホムラの意見は一致したらしい。ジェットさんは再び肩を落とすお兄ちゃんを励ましている。心なしかジェットさんが励ますたびにお兄ちゃんがダメージを食らっているような気がする。
夜の時間が来る直前に金色の森からジパーンガへと戻ってくる。
「今日は深夜にまた昼の時間が来るから徹夜でキノミンゴールドを探してやる!」
いつの間にやら元気になっていたお兄ちゃんが叫ぶ。さすがに徹夜でやるのは一人でお願いします。
「人が少ないうちに出掛けるのは悪くはないと思うがそれで遭遇すらしなかったらダメージは普段の倍ぐらいにはなりそうだな」
「淡々と言うなよ! お前も手伝え!」
「寝る」
ホムラとお兄ちゃんは考えが違うみたいだ。何とかホムラを道連れにしようと試みるけれどお兄ちゃんは尽く失敗していた。
するとクルッこちらを向く。
「嫌です」
「まだ何も言ってないぞ」
「睡眠不足は肌に悪いらしいし」
「そういうの気にする必要ないだろ」
「は?」
心外な!
「だめですよお義兄さん睡眠不足は様々な体調不良に影響するんですからナギちゃんにそのようなことはさせちゃだめですよ、というわけでお義兄さん、このジェットがお供しましょう! 受験勉強の息抜きで三日間だけと決めてますから、その一日がほぼフルタイム稼働でも問題ありません!」
「お前はそもそもゲームするなよ……」
ジェットさんの熱弁にはお兄ちゃんからの突込みが入った。
「ふむ、やはり今日のアッキーはペースが握れてない、やるなジェット」
ホムラはジェットさんとお兄ちゃんのやり取りを見て感心している。
ジェットさんによって勢いがそがれたお兄ちゃんは諦め、翌日のリベンジへと燃えていた。明日昼の時間が来るのは午前中から昼過ぎにかけて。そのせいで早起きさせられることになりそうだ。
翌日。
「起きろ!」
誰かからたたき起こされた。言うまでもないあのお方だ。
「って、勝手に部屋に入らないでよ!」
「そりゃ俺だって妹の部屋で見知らぬ男と妹が裸で寝てたら勝手に入ってきたことを謝りもするだろうが、幸いこの部屋には寝癖で髪の毛ぼさぼさの山姥(やまんば)しかいないから大丈夫だ」
「その山姥が大丈夫じゃないって怒ってるんですけど、っていうか別に私いなくてもいいじゃん」
失礼なことをいうお兄ちゃんに昨日改めて考えて思いついた言葉を浴びせる。ちなみに私達兄妹の部屋に鍵はついていない。
「いてもらわないと困るんだよ! 主に俺の…俺達のトラウマ的に」
ああ、男ばっかりで行動してたら色々な噂が立ったっていうあれね。最近はルーナさんの存在があって沈静化してるらしいけど。
「素直に認めればいいのに」
「何をだよ! 山姥であることを素直に認めるお前には気持ちがわからないんだな! ここは妹の部屋だ、俺の可愛い妹をどこへやった!」
「何気にひどい言いようよね…」
確かにさっきお兄ちゃんが「この部屋には山姥しかいない」と言った時に妹はどこへというような突っ込みはしなかったけれど。
「ま、まぁちょっと言い過ぎたが起きろ妹、朝食とって山姥成分取り除いたらすぐにログインするんだぞ!」
そう言い残して颯爽とお兄ちゃんは部屋から出て行った。そそくさと階段を下りる音が聞こえるのでどうやら奴もまだ朝食は取ってないらしい。パッと時計を見て時間を確認する。
予定より時刻が進んでいる気が……。
昨日徹夜と息巻いていた男は単純に朝に弱いだけなのかもしれない。
言われた通りさっさと起きて朝食をとり、寝癖を直した後、満を持してログイン――
当然すでに三人はログインしていた。
「お、来た来たナギちゃん、今日こそはおはよう、だよね」
「ですね、おはようございます、それとお待たせしました」
昨日は昼に朝の挨拶をしたことを気にしてたのかジェットさんが確認を取って挨拶してくる。
「さあ、遅れた分を取り戻すぜ!」
お兄ちゃんは自称元気印さんのテンションになっていた。
「はい! お義兄さま!」
「ジェット! この昼の時間が終わったら明日からの勉強に備えて休めよ!」
「はい!」
昨日とは打って変わってお兄ちゃんはジェットさんに勢いをそがれるどころか完璧に従わせてしまっている。
「開き直れば何も怖くないわぁ!!」
お兄ちゃんは高らかに宣言して金色の森へと歩き出す。
「お兄ちゃんっていっつもこんなテンションなの?」
普段からこんな感じだとあんまりお兄ちゃんと面識のある人から兄妹と知られたくないなぁ、と思ってホムラに尋ねてみる。
「安心しろ、ボスと戦う直前と変わらないテンションだ」
ホムラは「安心しろ」という言葉通りに表情を緩めて私の方を見る。
全然安心できないんですけど…。
「今日はジパーンガをぐるっと回る形で行くぞ」
スイッチが入ったお兄ちゃんがみんなを引っ張っていく。
今日は昨日と違い、自ら見つける形での遭遇はなかったけれど他のPTから逃げてきたキノミンゴールドとなら何度も遭遇した。そのうち一体は倒すことにも成功して“お兄ちゃん以外”【黄金の果実】を手に入れた。
「何故だぁ!」
それ以降はぱったりと遭遇することがなく、さすがのハイテンション状態のお兄ちゃんにも限界が来ていた。
「こうなったら夜が来ても探すぞ!」
「待て、お前【視力】系のスキルないだろ、松明燃やせばそれだけ気づかれやすくなって逃げられるぞ」
ホムラがむきになるお兄ちゃんを宥める。するとお兄ちゃんは私の方を向いて
「妹よ、夜にも目が利くんだったな」
「嫌です」
断っておく。夜でも目が利くからと言ってもやはり昼の時と比べると視界は悪くなる。探索しているプレイヤーが減ればキノミンゴールドとの遭遇率は上がるかもしれないけど、視界が悪くなる分逃げ切られる可能性もまた高くなりそうだし。長時間の探索はやめておくべき、というのが私の結論。
「夜にまた昼の時間帯が来るから、我慢だな」
ホムラが再びお兄ちゃんを宥めるようにして言うとおとなしくなった。
「俺はお義兄さまの忠告に従ってその時間はログインしませんので、では頑張って」
「そっちもな」
「ジェットさんも頑張ってください」
ジェットさんは別れを告げるとログアウトし、それを追うようにして私達もログアウトした。
夜に訪れた昼の時間。金色の森では物悲しい叫び声がどこかから聞こえたそうな。
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NAME:ナギ
【ブーメラン玄人】Lv14【STR強化】Lv13【ATK増加】Lv35【SPD強化】Lv11【言語学】Lv41【遠目】Lv24【体術】Lv37【二刀流】Lv53【祝福】Lv5【スーパーアイドル】Lv9
控え
【水泳】Lv28
SP11
称号 ゴブリン族のアイドル 恋に惑わされる者 ホマレの惚れ人 ファルカナンドの救世主 かまくら職人




