キノミンゴールドを探せ
翌日。ゲーム内に昼の時間がやってくる午後にログイン。
ログインするとジェットさんがすでにログインして待っていた。
「おはようナギちゃん」
「もうお昼ですけどね」
朝の挨拶をするジェットさんに愛想のない返事をする。それでもジェットさんの顔はへらへらしているので問題はないみたいだ。
「それよりも早く行きましょう」
「どこへ?」
私が早速切り出すとジェットさんがきょとんとした表情をする。
「お金稼ぎ…ついでのキノミンゴールド探しですよ」
「ああ、でもちょっと待って、合流したいって言う人を待ってるところだから」
「え?」
ジェットさんの言葉に私は固まる。というのも私が急ぐ理由は、ログインする直前に私がジパーンガにいることを知ったお兄ちゃんが「一緒にキノミンゴールドを探しに行こうぜ!」と誘ってきたからだ。ゲーム内のお兄ちゃんとは正直あまりかかわりたくないのでさっさと森に行ってしまおうと考えていた。
「も、もしかしてその人というのは」
「あ、来たみたいだよ」
恐る恐るジェットさんに尋ねるとジェットさんがその相手を見つける。
視線をたどるとそこには二人の男性の姿が。一人は全身真っ赤な装備に背中に大きな斧を背負っていて、もう一人は呪われてそうな禍々しいデザインの黒い軽鎧を装備して腰に手を当て堂々と立っていた。
真っ赤なのはホムラで、禍々しい悪趣味な鎧を装備しているのがお兄ちゃんだ。
「最悪……」
私はジェットさんを睨む。
「ええ……でも、お義兄さんに言われては断れないし」
いつから義兄になったのかはわからないけどジェットさんは焦りの表情を浮かべて言う。
「よし、揃ったな」
その噂のお義兄さんが合流する。
「お義兄さん、お元気でしたか!?」
「……お、おう、お前は相変わらずだな」
ジェットさんの迫力にお兄ちゃんは気圧されている。まぁ、ジェットさんが何とかしてくれるならいいかな。
「あれ、こういうキャラだったっけ?」
そのジェットさんの様子を見てホムラが首を傾げる。
間違ってないよ! お兄ちゃんの前でだけ変なスイッチが入るんだよ! と私は心の中でホムラに伝えてみる。
「…前からこんな感じだったかな」
ホムラはジェットさんの様子に以前からそうだったという方向で納得してしまったらしい。
「さぁお義兄さま、さっそくキノミンゴールドを探しに行きましょう!」
「さま…、なんかこいつがいると調子狂うなぁ」
ジェットさんの勢いには自称元気印のお兄ちゃんもその元気っぷりを発揮できないみたいだ。
「やるな、あいつ」
ホムラはお兄ちゃんを抑え込むジェットさんに感心していた。
昼が来ているということでジパーンガの町は地味な景観へと戻ってしまい、代わりに森の木々が黄金の輝きを取り戻していた。
「昨日はジパーンガの東? 方面を俺達は歩きましたね、まぁまっすぐ進んでたので探索したかと言われるとあれですけど」
「そうか、俺達の方は南だな、ジパーンガの中央の道から森に出て周囲を探したな」
ジェットさんとお兄ちゃんがどこでキノミンゴールドを探すか決めるためにお互いの情報を交換する。どうやらお互い昨日鵜活動した区域は被っていなかったみたいだ。
「それじゃあ西から出て北側に向かう感じで探してみるか」
「そうですね」
お兄ちゃんの提案にジェットさんが頷き、話し合いは終わったようだ。
元旦だった前日と比べていくらか人が多いように感じながら金色の森を探索していく。お兄ちゃん達の話ではキノミンゴールドに遭遇した人はまだ少なく、倒したという情報はまだ聞いてないらしい。
「隠してるだけかもしれないが、どのみち簡単には会えないお方だということだ」
お兄ちゃんはうんうんと頷くようにして言う。その姿を見て呆れる私と、話を聞いていないように見えるホムラ、感心して目を輝かせるようなジェットさん。
「さすがお義兄さま、素晴らしいことをおっしゃいますな!」
「お前のその気持ち悪い敬語はやめろよ…馬鹿にされてる気がして心が痛むんだよ」
「バカにするなんて滅相もございません!」
ジェットさんの方が一枚上手なのかもしれない。
金色をしたモンスターを何体か倒して、それと同じくらいの数逃げられながら探していると突如遠くから声が聞こえた。
「キノミンゴッル!!!」
「なんて言ってたんだ?」
「興奮のあまり噛んでたな」
遠くから聞こえてきた叫び声にお兄ちゃんとホムラの二人は突っ込みながらもいつでも攻撃出る体制に入る。
それを追うようにして私も攻撃態勢に入り、周囲に目を行きわたらせる。
ん?
「来た! ジェット!」
「はい!」
お兄ちゃんが叫ぶと同時にジェットさんが【一閃】を放つ。
「うわ!」
「まじか!」
反応からして回避されたらしい。
「あ…」
「よっしゃああぁぁぁぁぁぁぁー!!」
「元々あいつらから逃げてきたわけだし」
何とも悲しい声の後にうるさいぐらいの喜ぶ声が聞こえる。最後のホムラの言葉から考えると結局しとめたのは興奮して噛んでいたプレイヤーがいるPTみたいだ。
それよりも私はとある一か所への視線が外せなくなっていた。
叫び声が聞こえて周囲を見渡していたとき、ふと木の上に二つ生る木の実を見つけた。その片方が一瞬ぴくっと動いたように感じたのでずっと見ている。距離的には私の攻撃がギリギリ届くくらいの距離。誘惑は届きそうにない。
そして直感的にもしあれがキノミンゴールドなら、ジェットさん達に伝えようと動いた隙に逃げられそうなうえに、確実に攻撃を届かせよう、と一歩踏み込んでも逃げられそうだ。ゲームだからその直感が正しいとは言えないけれどどうやらここから動かずに攻撃を当てるほかなさそうだ。
逃げられるならそれは仕方ないと割り切る。
元々叫んでいたプレイヤーのキノミンゴールドを狩るために構えていたダガーをそのままできるだけ小さな動きで、だけど思い切り投げた。
ザシュッと音がすると同時にボトッとその木の実が落ちる。
…消えない?
その木の実がただのアイテムだったか、キノミンゴールドなら倒せていないサインだ。
私が木の実の正体に疑問を抱いた隙に落ちた木の実は飛び跳ねるように起き上がる。やっぱりキノミンゴールドだった。
「キノミ…」
私は振り返ってみんなにキノミンゴールドがいることを伝えようとした。それと同時に私の視界の端を何かが通って行くのが見えた。
「ンゴールド」
ズドン
私が「キノミンゴールド」と言い終えるのと同時に轟音が鳴り響く。同時に私の方を向いて何かを投げ終えた姿のジェットさんが目に入る。
それで今通って行った何かがジェットさんが投げた武器だと理解した。そして後ろから聞こえた音はジェットさんに投げられた何かが見事にキノミンゴールドを打ち抜いた音だと分かった。
ジェットさんの口がニッとなって動き出す。
「やったよナギちゃん! キノミンゴールドを仕留めたよ!」
「え、あ、はい」
「ナイス二人とも!」
ジェットさんの声に未だよく思考が回らない私はきょとんとした返事しかできず、お兄ちゃんのはしゃぐ声にかき消されてしまった。
もう一度振り返るとそこには私が撃ち落とした木の実の姿は消えていた。
「おめでとうございます」
直前にキノミンゴールドを倒したPTからも祝いの言葉をいただく。
「よくナギちゃん見つけたね」
「ええ、まぁ」
なんかよく分からないうちに終わってたのであんまり実感がない。
「ドロップはどうでした? こっちは誰も黄金の果実引いてないみたいですよ…」
直前にキノミンゴールドを倒したPTの一人が尋ねてくる。
「金色の果実」
「金色の果実」
「金色の果実」
「……金色の果実です」
それぞれドロップを確認した結果。誰一人【黄金の果実】を手に入れてなかった。
だけどインベントリの中に知らぬ間に入っていた【金色の果実】が私が見つけて倒したのが確かにキノミンゴールドだと証明していた。
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NAME:ナギ
【ブーメラン玄人】Lv14【STR強化】Lv12【ATK増加】Lv34【SPD強化】Lv10【言語学】Lv41【遠目】Lv24【体術】Lv36【二刀流】Lv53【祝福】Lv3【スーパーアイドル】Lv9
控え
【水泳】Lv28
SP11
称号 ゴブリン族のアイドル 恋に惑わされる者 ホマレの惚れ人 ファルカナンドの救世主 かまくら職人




