黄金郷
上は金色、下は若緑。その若緑の絨毯に時々混ざる黄土色をした石ころを拾ってみると【真黄金石】だったりしてびっくりしながら歩いていると、ようやくモンスターを発見した。
金色猿というモンスターらしいけど、大人のチンパンジーくらいのそれなりに大きい猿だ。その毛皮は名前の通り金色に輝き、若緑の絨毯に座って何かを食べているようにも見える。
その猿がこちらをチラッと見て、もう一度バッとこちらを見ると慌てて走り出して逃走。
その猿に光の一筋が突き刺さる。ジェットさんの【一閃】だ。その一撃で猿は消える。
「なんか呆気ないですね」
「攻撃が当たればね…」
一瞬で片が付いた猿がいた方を見ながら呟くと、ジェットさんの表情に影が差す。プレイヤーのトラウマになっていることはこのイベントにはなかなか多そうだ。
手に入ったアイテムは金色の毛皮。ジェットさんによるとジパーンガで売るよりイベントが終わって元のエリアに戻ってから売る方が高く売れるらしい。プレイヤーに売っても意味が無いらしく、NPCに売ればいいとのこと。
「装備とかには使えないんですか?」
私は素朴な疑問を投げかけてみる。
「使えるし、装備の性能もいいし、見栄えもピカピカの金色でゴージャスだけど耐久度がね……武器なら3回ぐらいが限界かな」
凄まじく脆いらしい。一方で寿命の方は相当長いらしく、修復不可能な状態になるまでの検証が途中で止められたほどだそうだ。こまめに修復するのが苦じゃなければいつまでも愛用できる装備なんだそうだ。
「まぁ、苦行だけどな」
「ですね、さすがに武器ならもって3発じゃ……」
そういうこともあってこのイベントで手に入るアイテムはほぼすべてNPCに売りさばかれ、プレイヤー達は大金持ちになるらしい。
「あ、そういえばナギちゃん、金色の果実を食べちゃダメだからね、幸運が金運になってしまうから」
「大丈夫です、もう【祝福】に進化してますから」
「そうなんだ、ならいいんだ」
色々気になるけれど最初のジェットさんの顔が真面目な表情だったのでどうやらそれもプレイヤー達にとってのトラウマと関係があるのかもしれない。興味本位でつつくのは避けた方がいいだろう。
「それにしてもいつの間に【祝福】に? あれって【加護】もないと進化できないんじゃなかったっけ?」
「【加護】のスキルは取得すらしてなかったんですけど、クリスマスイベントの時にジングルベルを30個集めるとその人に合ったプレゼントがもらえるらしくて、それで」
とジェットさんの疑問に答えると、すごく悔しそうな表情をしながら
「エース達もそれ言ってたんだよ! 俺も参加すればよかったぁ…」
「ちゃんと受験勉強はしないとダメですよ!」
悔しがるジェットさんにちゃんと注意する。
「……はい」
少し間があったけれどジェットさんは私の注意を聞きいれる。
「では今日はもう…」
「正月は息抜きだから!」
ガッと肩を掴まれて必死の形相で言われてしまったので我ながら甘いと思いながらジェットさんのわがままを聞くことにした。
「これでダメだったらどうするんですか?」
「その時はナギちゃんに慰めてもらえばいいさ」
「無視するかもしれませんよ」
「それはそれでそういう趣味に目覚めるかもしれないし」
……無視はやめておこう。と心に誓う。
ジパーンガを出てから直線状に進んでいたけれどあまりにも何にもないので方向転換。大きな建物の裏側にあたる場所の方に向かう。
一直線に進むプレイヤーは私達ぐらいしかいなかったということなのか方向転換をするとちらほらとプレイヤーを見かけることがあった。生産系のプレイヤーと行動しているのか、去年のが残っているのか全員金色装備をしているプレイヤー達もいた。
しかし全身金色といってもさすがに武器だけは違う色だった。もしかしたら噂の【真黄金石】素材かもしれないけど。
方向を変えて歩いていると変な景色も目に入り始める。金色の天井に若緑の床、そして金色に輝く岩のオブジェ。これはただの黄金石。
この不思議な景色を眺めているとどこかから奇声が聞こえてきた。
「イヤッホー!!」
「キノミンゴールドきたぁぁぁ!!」
どうやらキノミンゴールドに遭遇したらしい。
「待て! それは俺達から逃げてきたんだ!」
「知るかぁ! ってあああ! 逃げられたぁ!」
キノミンゴールドを倒すのは大変なようだ。
「こっち来るかも、構えておこう」
「え、あっはい」
ジェットさんに促されて私はダガーを構える。ブーメランではより素早く投げられるからだ。
しかし私達の視界に飛び込んできたのはキノミンよりもはるかに大きい影だった。
「おーい」
どうやらプレイヤーらしい。
「あんたら、キノミンゴールドがこっちに来なかったか?」
「来るかと思って武器を構えてたんだけどな…」
駆け寄ってきたプレイヤーにジェットさんが答える。
「チッこっちじゃなかったか…」
とプレイヤーは私達に背を向けて走り去る。そのプレイヤーを追ってきたらしい人達と合流し、キノミンゴールドがどこに行ったか会議を始め出した。
「近くにいるみたいだし、この辺少しうろちょろしてみよっか」
ジェットさんの提案に乗ってその辺をうろちょろしてみたけどすぐに悲しいお知らせが入ってきた。
「黄金の果実出たーー!!」
その本人の姿は確認できないけどその大きな声だけはそこら中に響き渡っていた。
キノミンゴールドの一件でうろちょろしているうちに上に広がる金色の天井が橙色でまぶしくなっていた。
「夕焼け空も再現されてるんですね」
「無駄に凝ってるだろ? ほんとトラウマさえなければいいイベントなんだよなぁ…」
夕日を反射した金色の葉の光に照らされるジェットさんの横顔には哀愁が漂っていた。
これだけ金色に囲まれても夜が来ると視界が極端に悪くなるみたいなのでジパーンガへと戻ることにした。
ジパーンガにたどり着く前に夜が来たため私がジェットさんの目になる。ジェットさんはお化け屋敷で怖がるようにして私の後ろにピタリくっついていた。何度か振り払おうとしたけどなかなか簡単にはいかなかったのでもはや諦めの域に達したころジパーンガへとたどり着く。
「うわぁ」
しかしその光景は数時間前に見たジパーンガの姿とは全く変わっていた。金色の森の木々の金色が夜になったことで弱まり、その影響なのか夜の暗闇にぽっかりと輝く黄金の町がそこにはあった。
「こういうところもトラウマさえなければいいイベントの要素なんだけどなぁ」
と呟きながらジェットさんは町の中に入っていく。数時間前に見た砂利道も金一色になり、メインストリートの石畳も金色のタイルとなっていた。
気持ち悪くなるくらいすべてが金色の町。黄金の国ジパーンガの真の姿に見入るのは私だけではなく、おそらく初めて体験しているのであろうプレイヤー全員が見入っていた。
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NAME:ナギ
【ブーメラン玄人】Lv14【STR強化】Lv12【ATK増加】Lv34【SPD強化】Lv10【言語学】Lv41【遠目】Lv24【体術】Lv36【二刀流】Lv53【祝福】Lv3【スーパーアイドル】Lv9
控え
【水泳】Lv28
SP11
称号 ゴブリン族のアイドル 恋に惑わされる者 ホマレの惚れ人 ファルカナンドの救世主 かまくら職人




