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ナギ記  作者: 竜顔
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黄金の国ジパーンガ

遅くなってすいません

「という感じで到着」


 周囲が一瞬真っ白になった後再び色が戻ると見たこともない景色が広がっていた。私の目の前では直前に合流したジェットさんが得意げな表情をしている。


 クリスマス島の冒険が終わって約一週間が経った。舞浜君やクゥちゃんはおばあちゃんの家で年越しと正月を過ごすようでしばらくは一緒にプレイできそうもないらしい。私? はおばあちゃんの家は今住んでる家からそこまで遠いわけじゃないのでこうして元旦からプレイできている。


 この一週間、ダガーの補充はさることながら年末の忙しさでログインの減る面々と一緒に行動する機会も減ったりしながら地道に年始のイベントに向けて準備を進めていた。ぎりぎりまで告知がなかったので多くのプレイヤーの間で去年と同じなのかどうかの予想も揺れていた。


 前日の大みそかに発表され、年始から始まったイベントは「キノミンゴールドを探せ!~黄金の国ジパーンガ~」というイベントで、以前経験したプレイヤー達は何かトラウマがあるらしいイベントのようだ。


 ――イベントの前日。年末の忙しさの隙を見てログインするとジェットさんからメッセージが来ていた。メッセージを確認するとログインしていたらしくコールが来て翌日からのイベントでお正月一緒に行動しようと誘われてジパーンガに転送される場所でログアウトした。


 そして今に至る。


「ここが黄金の国ジパーンガだよ」


 とジェットさんが言う。プレイヤーが最初に転送されるのは二車線ぐらいの幅の一本道。周囲を見渡せば日本風の家屋が道を挟むように立ち並ぶ。道の先には数十段はある階段と、その上に大きな建物が建ち、その反対側は金色の葉が生い茂る木々が立ち並ぶ森が見えていて、どうやらこの道が街のメインストリートと言うことらしい。


 このメインストリートは基本的に正方形の石を敷き詰めた石畳で、脇を挟む家屋の入り口付近は砂利道だ。つまり人ひとり分歩けるくらいの細い砂利道に石畳の道が挟まれているようだ。


 さらに所々に見える脇道はこのメインストリートに対して垂直で、きれいに十字路を描いていて、言うなれば平安京の再現模型の真ん中にやってきたような印象を受ける。


 …って


「黄金感は……思ったほどしないですね」


 今の位置から一通り周囲を見渡してからの感想を漏らす。ジパーンガの町自体はあまり大きい規模ではないようでメインストリートのわきを挟む家屋の向こうにも金色の葉が生い茂る木々が山のように見えるけれど、街の建物等はむしろ質素な色というか地味目の色が支配し、メインストリートの先にある大きな建物も派手で真っ赤な壁色で街の中に金色は見つからない。


「…ふふ」


 私の感想にジェットさんが不敵な笑みを浮かべる。


「何ですか?」


 その感じの悪い笑みを浮かべるジェットさんを睨む。するとジェットさんが顔を近づけてきて、


「ここだけの話、今見えてるもののほとんどがぜーんぶ黄金なんだよ」


 と耳元でささやく。なのでもう一度周囲を見渡してみるけれどやはり金色は少し遠くにあるこの街の外に生い茂る金色の葉を生やしている木々ぐらいしか見当たらない。


 ジェットさんの頭はおかしくなってしまったんだろうか。それとも私のだけ不具合? でもそれならわざわざ今のような言い方はしないだろうし。


「きょとんとしてるね、でもなんかこういう二人でナギちゃんに何かを教えるのってすごく久しぶりな気がする」


 私がジェットさんの言葉にきょとんとしているとジェットさんが感慨深そうな表情を始めた。ジェットさんに教わることってそんなにあったっけ? まぁでも一時期は頼りになるのはジェットさんぐらいだったし、それに比べれば今はいろんな人と関わってもいるし、一緒に行動するメンバーもできたしでジェットさんが必要な場面はほとんどなくなったのは事実だ。


「ナギちゃんも成長したなぁ、昔はブーメランも投げられなかったし」


「誰かさんが投げさせてくれなかっただけな気がしますけど」


「さて、説明するね」


 見事に私の突込みはスルーされてしまった。


「この街の至る所に使われているのが【真黄金石】という石で、これがまた不思議な特性を持つ石なんだ」


 とジェットさんは説明を始める。


「というのも周囲を金色で囲われると金色以外の色に錯覚してしまうっていう設定らしくて、見ればわかると思うけどこのジパーンガも周囲を金色の葉の木々で囲われてるでしょ? それで町全体が普通の色に思えるけど実は単体で見ると黄金なんだよ」


 ということらしい。


「へぇ、じゃあこの私が今踏みつけている石畳の石もですか?」


「ということになるね」


「じゃあこれ壊したら大金が手に入りますね」


「……一部の家屋以外でそれはできないし、壊せる家屋でも壊したら当然ブラックリスト入りで大変な思いをすることになるよ」


 私の最後の質問にはジェットさんも少し呆れるようにして答えていた。別に本気でそんなことしようなんて思ったわけじゃないですからね。


「まぁとりあえず今回の目的はあくまでキノミンゴールドを探すこと、いいね? 行くよ?」


「はい」


 とようやく私達はジパーンガに転送された最初の位置から移動を始めた。ジェットさんは町の外に出るのにメインストリートからではなく近くの脇道を使った。


 ジパーンガは町を守る防壁などなく、金色の葉が生える木々の森――金色こんじきの森というらしい――には町のどこからでも出ていくことができるようになっていた。


「NPCの話だと金色の森に危険なモンスターがいないから防護壁を作る必要がないんだとさ」


 他の町との違い驚く私にジェットさんが教えてくれる。なんでもこの森のモンスターはプレイヤーを見かけると一目散に逃げるらしい。強さも微妙で確かに危険は少ないとのこと。それなのにその素材を売ると高額で売れるのでこのイベントの後は大富豪気分を味わえるらしい。


「でも気を付けないとすぐ破産するし、何かの拍子に市場のアイテムの金額が上がって大してお金があるわけじゃない、っていう状況になることもあるから」


 と私の少し浮ついた気分をジェットさんが注意する。あちこちになる金色の木の実が気になりながら上を見上げると金色の葉が太陽の光を反射し、足元に茂る草を照らす幻想的な風景を楽しんでいた。


 わけだけど。


「モンスターっています?」


「うーん、キノミンゴールドならまだしも他のモンスターにももう少し遭遇した印象だったんだけどなぁ」


 未だ逃げ去るモンスターの姿すら確認できない私達は、この金色に溢れる世界の厄介さにようやく気付くこととなった。


――――――――――

NAME:ナギ

 【ブーメラン玄人】Lv14【STR強化】Lv12【ATK増加】Lv34【SPD強化】Lv10【言語学】Lv41【遠目】Lv23【体術】Lv36【二刀流】Lv53【祝福】Lv3【スーパーアイドル】Lv9


控え

【水泳】Lv28


 SP11


称号 ゴブリン族のアイドル 恋に惑わされる者 ホマレの惚れ人 ファルカナンドの救世主 かまくら職人

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