救いの神
とうとう土曜日の夕方になってしまった。今日の22:00からアップデートが行われ明日の10:00にサービスを再開する予定らしい。このとき時間調整も行い11:00がゲーム内0:00になる設定だ。
そしてその時間よりイベントが開始される。参加する人はゴブリン王国の勇者ゴブリンの村の横にある広い原っぱに開始時間前に二人PTを組んで集合してくださいとのこと。
私はいまだ一人。最終手段で誰でもいいから、集合場所で捕まえることも視野に入れていたところ。
『ナギ、いるな?』
ホムラからコールが来た。コールをかけてきたということはフレンドリストで確認をしていると思うんだけど…。
『いるよ』
一応こう返事をしておく。
『イベントに参加するのか?』
『参加する! …つもりです』
何故か敬語になってしまった。
『…つもり?』
『はい、でも相手がいないんですよねぇ、だから「つもり」なんです』
『じゃあ一緒に行くか?』
えっ? 固定PTがいるんじゃ…と思っていたら、ホムラのPTメンバーはイベントに参加する人がいないらしい。
『行きます! 行かせてください!』
なんで敬語なんだといわれつつ、集合場所を決める。といっても私は北側からゴブリン王国に入ることがまだできないので、勇者ゴブリンの村での集合になった。
そうと決まればさっそく東側のルートを通るわけだが、一つ問題がある。洞窟を通らなければならないこと、暗闇でも見えるようになったとはいえ罠に関してはスキルを持っていないので対処できない。
しかし、私には心強い味方がいる。
『ロマンさん、今暇ですか? 勇者ゴブリンの村まで案内してほしいんですけど』
『お? 嬢ちゃんか、暇じゃないが今洞窟の案内で金稼いでるから案内はできる…そういや嬢ちゃん通行証持ってるんだったな、俺以外通行証持てないみたいだからできれば手伝ってほしいんだが』
『わかりました、今すぐ向かいます』
私はもう一度備品のチェックをして、東へ出た。ロマンさん以外通行証持てないという意味がよくわからないが、おそらく勇者ゴブリンの村に入るだけでは通行証はもらえないってことなのかもしれない。
となると今洞窟を案内しているのはロマンさんだけ? ちょっと急いだ方がいいかも。
そして私はダッシュで第一エリアを抜け、第二エリアの行列を追い抜こうとした。
「ちょっと君! ちゃんと並んでもらわないと!」
その声に振り向くと体格のいい男性が立っていた。その男性も列に並んでいるわけではなく、列に並ばせる役の人のようだ。おそらくロマンさんの知り合いだろう。
「えっと…ロマンさんに手伝ってほしいって言われたんですけど」
「君が? …そうか、入り口に女の人が立ってるからそいつに詳しいことは聞いてくれ」
そういわれたので私は洞窟の入り口を目指す。
ゴブリン王国が開放されてから第二エリアも様子が変わった。ゴブリンの代わりに「平原ワーム」というモンスターが出てくるようになった。もちろん私は戦ったことはない。
なんて思ってるうちに洞窟の入り口に着く。入り口には男性と女性が立っていた。とりあえず女性に声をかけようと近づくと
「あら? 列に並べと言われなかった?」
若干Sっ気のある感じで言われて一瞬ビクッとしてしまったが、気を取り直して。
「いえ、ロマンさんに言われて手伝いに…」
そういうとすんなり「ああ」と納得してくれたみたい。
「今から行くわ、準備は…いいわよね?」
「はい!」
ええそりゃもちろん…なんか逆らったら大変なことになりそうなので満面の笑みで返事を返すと、ニコッと向こうも笑顔になった。でもなぜか背筋に何か冷たいものを感じた。
こうして、私と女性――エルダさんと、前に並んでいた4人を合わせた6人でPTを組んで洞窟に入っていく。
私のやることは主にエルダさんにくっついて、洞窟を行き来するだけ。途中の宝箱は無視して進んでいく。これでお金がもらえるなら楽ちんではある。所持金は持っていけない以上、勇者ゴブリンの村でまた預けなきゃいけなくなるけど、大した手間じゃない。
エルダさんの罠解除の手際のよさもあってすぐにあの部屋へとたどり着く。そして私が壁に近づくと、【猛者の証】が輝きだして、壁が開き、その先に村が現れる。
「「「ん?」」」
壁を通り抜けるとエルダさんと「お客さん」二人が何かに気づいたらしい。
「どうしたんですか?」
「イベントリに通行証がでてきてね」
そうやって一人の人が返してくれる。なんでも持って行けるものをありったけ持っていこうとイベントリをフルに使っていたらしく、壁を通り抜けるのと同時に、新しいアイテムを持つことができませんというメッセージが届いたらしい。
「身に着けられるものをイベントリから出せば大丈夫だから問題はないけど」
もう一人の人はガサゴソと何か操作しているようだ。
「ナギちゃん…だっけ? ロマンが通行証を手に入れたときもあなたと一緒だったみたいだし、おそらくだけどあなたと一緒に通れば通行証がもらえるみたいね」
エルダさんは分析を行っていたようだ。どうやらPTメンバー全員が通行証を手に入れたらしい。エルダさんは一呼吸おいて
「あなたはいない方がいいかもしれないわね、下手するとトラブルになりかねないし」
他のPTメンバーもこのことは誰にも言わないことを約束。口止め料を渡すべきかと悩んでいたら、案内料に加えて通行証が手に入ったからと少しのボーナスまでついてきた。
ここでPTは解散。お客4人は二人PT×2の組み合わせで、それぞれ村に入っていき、エルダさんも再び洞窟に戻ろうとするので、
「エルダさん、あのポータルを使えば第二エリアに戻れますよ」
「あら、そうなの? ありがとうナギちゃん、ロマンにも事情は説明しておくから早く相手のところに行っておいで」
エルダさんがポータルで第二エリアに戻っていくのを見送った後、私も村に入っていく。
村はプレイヤーでひしめき合っていた。元々広い村でもなく、集落といった方がいいくらいなのに、人、人、人。ゴブリンはいずこに…。いることにはいたが、子供ぐらいしか背丈のないゴブリンは遠目にはなかなか見つけることはできない。人を避ければゴブリンとぶつかりそうになることが結構あった。
とりあえず、さっき稼いだ分を預けて…。気づいてしまった、これだけ人がいてホムラと簡単に合流できないであろうことを。
「見覚えがある人間が、と思えば嬢ちゃんか、今日はやけに人間が多いが何かあるのか?」
そこには見慣れたゴブリン、スーパーゴブリン…勇者ゴブリンのレフトさんがいた。
「はい、イベントがあるんですよ、集合場所がこの村の横の原っぱらしくて」
「へぇ、俺が知らねぇってことはプレイヤー限定ってことか」
レフトさんのこの発言はゲーム的にありなの? と疑問に思いつつもそうみたいですねと返しておいた。いざとなればゴブリンと一緒になんて考えた私は甘かったらしい。
ホムラから連絡がないので、まだ村についていないと思い適当に村を散策する。ちらほらとゴブリンと会話するプレイヤーも見える。
「ねぇ君! ひとりかい!? 俺と一緒にイベント参加しないかい?」
威勢のいい声で颯爽とナンパを仕掛けてきた鎧姿の男性が…。私は彼を見て涙が出そうになった。なぜかって? いたからだ、自分と同じように最終手段で集合場所に一人の人を探すということを考えている人が。でも
「すいません、今相手と待ち合わせしているんです」
「そ、そんなぁ! 嘘だといってくれ! いや、嘘なんだろう!? ここにいる独り身は基本相手探しに躍起になってる、男は女を求め、女は女を求め、き、君もそうなのかい!?」
ものすごい必死でくらいついてくる男性がかわいそうに思えてきた。でもホムラとの約束を破るわけには…
「ナギ、何やってるんだ?」
後ろから肩をたたかれ声がかけられた。振り向くとホムラがいた。
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NAME:ナギ
【投擲】Lv28【STR補正】Lv23【幸運】Lv19【SPD補正】Lv22【言語学】Lv32【視力】Lv13【】【】【】【】
SP23
称号 ゴブリン族の友




