番外編:気になる?
男が二人、テーブルを挟んでいる。ローブを纏った男と全身真っ赤な装備の男だ。ローブの男が口を開く。
「なぁホムラ、俺と一緒にイベント参加しようぜ?」
ホムラと呼ばれた男は一瞬戸惑い、
「男二人ではいやだろ?」
そう苦笑いを浮かべるのであった。
「そりゃ俺だって嫌だし、でも他に誰もいないから誘ってるんだけど…褒賞が気になるじゃん?」
ホムラにはわかっていた。ローブの男が褒賞に興味を持つであろうことが、しかしホムラにとっても譲れないものがある。
「俺たち普段からホモの疑いがかかっているのに、喜んで二人でカップルイベントに参加することはないだろ?」
彼らは普段6人のPTを組んでいて、誰一人女っ気がない。時々誰か欠けたときに入るのもまた男ということもあって、ホモだとかそういった類の噂は尽きない。所詮は噂だが、有名になってしまったせいか変な妄想が繰り広げられていて、またそれが広まりホモ説が、というループになっていた。
PTの誰一人として今の状況を喜んでいなかった。
普段PTのリーダー役でもあるタンカーは
「カップルイベントなんかリア充共に任せりゃいいんだ、こっちは北の開拓を進めるぞ!」
なんて言っていたが、ホムラは知っている、この言葉が女を求めてたら噂のせいで男ばかりやってきてしまったことに対するものだと。そして他のメンバーもその一部始終をみてしまったがために今回のイベントへの参加を見送ったのだ。
「バジル、そんなに行きたいならだれか女の子を連れて行けばいいだろう?」
バジルと呼ばれたローブの男は、先ほどの一部始終を知らない。
「げぇ、最近ナンパしまくってるやつとか異性募集してるやつとかいるけど知らないやつとはやりたくないよ? 時間があわなきゃ褒賞だって危ういじゃん?」
バジルにとっては正直相手は誰でもいいが、そうやって今更誰かを募集するような奴に真剣な奴がいるのか疑問に思っていた。
「ホムラだってわかってるだろ? めぼしい奴は大体固定PTか相手がいる奴」
バジルは何で俺らのPTは参加しないのかと嘆いている部分もあった。当然今自身が言った「最近ナンパしまくってるやつ」に自分の固定PTのリーダーが含まれてしまうことは知らない。そして、おそらくナンパしたところでホモ説のせいでなかなか女性プレイヤーが寄ってこないであろうことも知らない。
「まぁ、正直バジルと一緒に参加してもいいんだが、運営指定の部屋ってのが、相手と同室になるって噂があるし、バジルと同じ部屋は嫌だ」
「そこはっきり言うのかよ!?」
おそらく同室になることはないであろうとホムラは考えていた。なぜなら曲がりなりにもセクハラ行為を禁止する運営がそれを助長するかのようなことはしないはずだと踏んだからだ。
「まぁでも、そこまでいわれたらな」
バジルは諦めモードになっていた。ホムラならOKしてもらえそうだと思っていたからだ。
そもそもバジルがホムラを誘ったのも、ホムラがダメなら仕方ないと思えるからだ。バジルにとってホムラとは戦いにおいて「火力」なのだが、精神的には最後の砦なのだ。そして、ホムラはまじめだから無理矢理でも連れて行けばしっかりやってくれる、という信頼があった。
「バジルに異性の知り合いがいるならその娘と一緒に褒賞狙ってもいいけど?」
「…やめてくれよ、そういう相手がいないからお前なんだろ?」
完全に諦めていたバジルにホムラが
「そういえば、一応の心当たりはあるな、お前次第では四人で行動ならできると思うが?」
「…う~ん、じゃあその人とホムラで褒賞とってきてってのは? もうホムラ以外に俺にはいないからさ」
「そんなことを言うから変な噂が立つんだろ? それに四人でやれば相手が誰であれ動きやすくなるもんじゃないのか?」
そういわれたバジルの顔に輝きが戻る。
「そうだな! じゃあ探してくる!」
そういってバジルは駆け出して行った。しかしすぐにホムラは自身の失策に気づいてしまう。
相手が誰であれ、その言葉を聞いてバジルはその「誰でも」を探しに言った結果――
――――――――――
しばらくしてバジルが帰ってきた。その眼は死んでいたが、ホムラは気づかないふりをした。
「見つかったか?」
「あぁ、むさくるしい連中ならわんさか湧いてな、そして周りからやっぱりという視線がな……」
どうやらバジルのもとに女性は近寄ってこなかったらしい。「女性なら」誰でもであるべきだったが、バジルの考えではバジルとホムラに加えて二人ならば誰でもいいと思ったので「男女関係ない」誰でもになってしまった。
そして気づいてしまった。自分のところには「男」しか寄ってこないことを…。この事件を境に彼は変な噂に頭を悩まされることになるわけだがそれはまた別のお話。
ついにバジルはやる気を完全消失するのであった……。
「すまんホムラ、俺なんかダメだわ、イベントのことホムラにまかせっきりでいい?」
「ああ、任せろ」
バジルと褒賞の話をした手前、ホムラは考えていた。相手に心当たりはある、髪が黒く幼さの残る一人の少女の顔がそこにあった、しかしその少女は始めて間もない、褒賞がもらえるような順位まで行けるのだろうか。
「もしかしたら無理かもしれないが、それでもいいか?」
ホムラの算段では四人いればいけるという気持ちだったわけだが、バジルがああなってしまっては計算に狂いが出てしまう。
「……そうだな、うん、別に褒賞なんていいか、おとなしく北の開拓でもやってるから、ホムラはイベント楽しんでこいよ」
最終的に誘った側が挫折し、誘われた側が参加するという不思議な状況になってしまった。
しかし、このバジルのホムラ勧誘作戦は無駄ではなかった。
結果的にバジル自身の身を滅ぼすこととなったが…。ホムラがイベントに参加することになったことととある一人の少女のことを思い出した。
――さて、連絡してみるか。もしかしたらもう相手がいるかもな。
そう思いながらホムラはフレンドリストを開く。
――――――――――
ここはとあるところ、ちょうどイベントに向けて街が騒がしくなった頃。男女数名による会議が行われていた。議題は最近イベントのことでテンションが上がりまくってるとある男に関する議題である。
「…大丈夫か?」
「多分ダメだろ?」
「あのウキウキぶりは半端じゃない、下手したら大変なことになってもおかしくない状況かもな」
「ということは奴のいう『あてがある娘』と一緒にさせては危険ということか」
「だろうな、最悪アカウント凍結もあるかも」
「ではこっちで先に奴の同行者を決めて、イベントに参加してもらうというのはどうですか?」
「それでいこう、凍結されてはしゃれにならんからな」
「では、同行者をどうやって決めましょうか――」
こうしてとある男の知らぬところで決定されてしまった。そしてそれがある少女がしばらく一人で悩まされる原因になるのであった…。
――――――――――
NAME:ホムラ
メイン武器:大斧
NAME:バジル
メイン武器:ワンド




