クリスマス島の冒険:幻惑
第三の村唯一の宿屋へ入る。ロビーではチェックインするための行列がすでにできていた。とはいえ私達は運がよかったのかもしれない。何故なら私達が並んだあとみるみる人が後ろに並び始め、ついに宿屋の外にまで続く規模になっていたからだ。
数分も待たずに受付のカウンターにたどり着く。
「それではお二人様ですね、あとから部屋が空いてないお客様に協力していただくことになると思いますのでよろしくお願いします」
「「はい」」
受付のNPCからそう言われるも、すでに知っていたことなので特に気にすることもなく了承する。私とクゥちゃんの分の鍵をもらい、割り当てられた番号の部屋に向かう。
部屋に向かう必要はなかったんだけど一応…ね。宿屋の出入り口は混雑していたので。
3階にある部屋に入るとそこには現実のホテルならトイレとか手洗い場があるようなちょっとしたスペースと、その奥には6台のベッドがあり、さらにその奥には割と大きな窓があった。
ベッドは入り口から見て横向きで、部屋の左右に3台ずつ壁側を枕にして並べられていた。
そしてその枕の上の壁にはネームプレートのようなものがつけられている。これで誰がこのベッドを使ってログアウトしたか分かるようになっているみたいだ。クリスマス島のルールの一つに他人がログアウトしたベッドを使用しない、という物があるのでこれで誰がどのベッドを使ったかわかりやすいようにしてあるのだろう。
とりあえず私は入り口から見て左側、最も奥にある窓際のベッドを使おう、と決意する。
「あ、これ登録できるみたいだよ」
クゥちゃんがすぐ近くのネームプレートで何やらやっている。
「登録できる?」
「そそ、ほら、ネームプレートにボクの名前が出てるでしょ?」
「あ、本当だ!」
とクゥちゃんの指さすネームプレートに近づき確認する。スキルの影響で遠くからでも見える、とかそんなことは言わない。
「それに登録を消すこともできるみたいだね」
と再びクゥちゃんが操作するとネームプレートから名前が消える。
「じゃあ私はあの窓際のベッドを登録してくる!」
「え! ちょっと! そこはボクが狙ってたんだよ!」
「早い者勝ち! クゥちゃんは反対側が空いてるでしょ」
私は窓際のベッドに走り出す。クゥちゃんにスピードでは負けるので未だセーフティリードとはいえない。
「待ってナギちゃん! 知らない人も来るんだよ?」
クゥちゃんの言葉で私の足が止まる。
確かに隣が知らない人だったら嫌だなぁ…。ってあれ? 別にログアウトするだけだから特に気にする必要ないんじゃ…。
と思っているといつの間にかクゥちゃんが私が狙っていたベッドのネームプレートの作業を。
「しまった! やられた!」
となんだかんだあって結局じゃんけん勝負になって…負けたのでおとなしく反対の窓側を選んだ。
窓からちょっとだけ景色を楽しむ。第三の村近くには森があり、その深緑が目につく。まだ雪が降ってないのでそれ以外の部分は寂しい緑が所々にある感じだ。
さて、パンフレットによるとクリスマス島は上から見ると五角形になっているらしい。そしてもっとも北にある一つの頂点付近に最も有利とされる第五の村があるらしい。第三の村は左に一番出っ張ってる頂点付近にある村だそうだ。
それぞれの村は陸路で行き来ができるらしいけど、ルートの問題で次、あるいは前の数字の村以外への移動はやらない方がいいとのこと。
パンフレットにはそれぞれの村周辺に出現するモンスターについても書かれている。名前だけなので何とも言えないけど第三の村付近は「トナ・カーイ」という名前らしい。多分見た目がトナカイだと思う。
「では早速行ってみますか」
「うん」
部屋から出てロビーに降りると相変わらずな行列ができていた。ただ出入り口付近では列が細くなっていて、宿屋から出る人がそのスペースを通れるようになっていた。
宿屋を出てすぐ正面には噴水と少しの広場があり、噴水を挟んだ反対側にある小さな教会の前、扉の邪魔にならない位置がリスポーン(死に戻り)場所になっているみたいで先ほどから次々と…、人が…?
「なんかどんどん死に戻ってくるよ」
「本当だ」
クゥちゃんも驚いてるみたいだ。
そこで私は今回のイベントでは幻惑系の状態異常に対するアイテムが多かったことを思い出す。
幻惑系は未知の状態異常と言われている。というのも精神系状態異常は魅了系、混乱系のそれぞれが四段階になっているので、幻惑系もそうなっていると考えられていて、現在確認されているのは二段階目までだからだ。
その二段階目を使ってくるのが私の「天敵」ことカッタリーだ。最近調教できるようになったこともあって町中で見るようになったけど、見るたびに何とも言えない感情が。
そんなことよりこれだけ死に戻ってくる人が多いのはここら辺のことが関わっていそうだ。
増えていく死に戻りプレイヤーを尻目に町の外へと出て行く。その時、死に戻ってきたプレイヤーから憐みの目を向けられた気がするのも気にせず。
第三の村周辺に生息するモンスター「トナ・カーイ」。確かにトナカイはトナカイだった。だけど…まさか二足歩行型木製人形風味とは思わなかった。目はやや上を向いたアホの目と化し、口からははしたなく地味に舌が出ている。
「……キモカワ狙いなのかな!」
トナ・カーイの目にカッタリーの目がよぎった私は思わず言葉に怒気がこもり、その私の迫力にクゥちゃんが一瞬たじろぐ。
「とにかく、戦ってみよう」
「……そうだね」
クゥちゃんの一言で落ち着いた私はブーメランを構えてアーツの体勢に入る。ファーストアタックはチャージスローだ。
私がブーメランを投げるのをGOサインにしてクゥちゃんがトナ・カーイに向かって走り出す。
「危ない!」
どこかから大きな声がかかる。その声に私は顔を振り向けクゥちゃんも足を止める。その間にブーメランがトナ・カーイに当たる。
「うわっ!」
ブーメランが当たった瞬間一瞬トナ・カーイが光り、地面に黒いを紫が混ざった渦が広がりそれが一気に滝のように上へ流れる。
【幻惑の人形】が輝き私の目の前に現れ、私を守ってくれる。黒と紫の地面からの滝の突き上げが終わると目の前にクゥちゃんが立っていた。
「クゥ…ちゃ!」
クゥちゃんはおもむろに爪を振りかざす。反応が間に合わずやばい、と思った瞬間。
――キュイイン!
と言う音ともに光の膜がクゥちゃんの爪を止める。
キュイインキュイインキュイイン!!
たとえ止められようと何度も何度もクゥちゃんは攻撃を仕掛けてくる。のんきに見ているとクゥちゃんのHPバーも徐々に減っていることに気づく。
「どうなってるの!?」
「君の方は大丈夫みたいだね、相方は任せて! あっと、とりあえず俺をかばってくれ」
先ほど声をかけてくれたらしい男性がすぐ近くまで来ていた。 私は男性に言われるままクゥちゃんを受け持つ。
状態異常を解除する魔法でクゥちゃんが正常に戻る。
「やっと止まった」
「じゃあお互い教会前でまた会おう、だね」
「「は?」」
ポカンとしている私達は男性が指差す方向を見て呆然とする。
巨大な紫色の玉がすぐそこまで迫っていた。
ドゴオオオオォォォォンン!!
轟音と共に紫色の煙で視界が染まる。それと同時にHPバーは吹っ飛び一気に0と化した。
幽霊状態になると男性の姿はなくなっていたのでクゥちゃんと目を合わせた後すぐに死に戻った。
「お疲れ」
死に戻ると男性がすでにそこに座っていた。男性は黒のローブ姿で、フードを被っているため目元はよく見えない。
「あの、何があったのかよく分からないんですけど…」
「まぁ俺もよく分かってないけど…とりあえず推測でいいなら」
そう言ってローブ姿の男性は話し始めた。
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NAME:ナギ
【ブーメラン初心者】Lv23【STR増加】Lv43【ATK上昇】Lv39【SPD増加】Lv41【言語学】Lv41【遠目】L18【体術】Lv34【二刀流】Lv49【幸運】Lv50【スーパーアイドル】Lv9
控え
【水泳】Lv28
SP26
称号 ゴブリン族のアイドル 恋に惑わされる者 ホマレの惚れ人 ファルカナンドの救世主




