クリスマス島の冒険:開始
それなりの午後を終えて、夕方に差し掛かる時間帯。昼間を通して行われていたメンテナンスが終了したのとほぼ同時刻にログインした。
いつもと違い今回はわずかにログインに時間がかかったけど、無事にログインすることができた。後はクゥちゃんが来るのを待つだけだ。
少し待っているとクゥちゃんも無事ログインする。
「お待たせぇ、ナギちゃんはメンテナンス明けいっつも早いね」
「そうかな? でも今日はこれでもいつもより時間がかかったんだけど」
「タイミングの問題なのかなぁ…?」
「それよりほら、あそこで乗船の手続きするみたいだよ、行こ!」
メンテナンス明けのログインのスピードについて考え始めたクゥちゃんの思考を打ち切らせて乗船の手続きをしていると思われる一角に向かう。すでに人でごった返し手をつながなければはぐれてしまいそうな感じだ。
「はい、3の村ですね、3の村の方はこちら船着き場の船に乗ってください」
乗船の手続きと言うよりかはどの船に乗るべきか、の案内をしてくれるNPCだったらしい。NPCによってマーキングされたマップ通りに目的の船に乗り込む。
「クリスマス島までは短い時間ですのでお部屋等への入室はできませんのでご了承ください、出港後にクリスマス島での諸注意をご案内いたしますのでそれまで広間にておくつろぎください」
船員からそのように言われて広間に入って行く。すでに多くのプレイヤーが乗り込んでいてイベントの話に花を咲かせている。
広間は中央に螺旋状の階段があり、その先はデパートの2階のようになっていて落下防止用の透明ガラスに手すりがあるだけで、上の階の様子は1階からも見ることができる。上から見るならば2階はアルファベットの「H」に見えるだろう。その真ん中に階段があるという感じだ。
その奥にはステージがあり、段差の低い広いステージ。その奥にまた壇があってやや狭いステージ。その奥壁の上の方にぽつりと小さいベランダ…のようなステージがある。
広間に入ってからしばらくするとようやく船の出港の時間になる。プァーと言う音ともに船が動き出す。
クリスマス島までは約10分。その間にイベント「クリスマス島の冒険」のルール説明があるみたいだ。
船が出港し、窓からポルトマリアが見えなくなるくらい小さくなった頃、唐突に窓のカーテンがすべて締められ(自動)明りがふっと消えて広間が真っ暗になる。
その事態にあわただしくなりそうな瞬間奥壁にぽつりとあるベランダ…のようなステージにスポットライトがあてられる。するとそこには一人の男の人が立っていた。
頭にはサンタの帽子をかぶり、服装はピシッとしたスーツ。それよりも目を引くであろうドルマークになっている眼鏡。こんなに良く見えるのもきっとスキル【遠目】の力に違いない。
そんな男が上からのスポットライトを浴びるように手を広げて顔を上にやや傾ける。その光景にプレイヤー達も唖然としている。
「やぁみんな! クリスマス島の冒険に参加してくれてありがとう! さぁさ陽気なおいらがクリスマス島での注意を案内しちゃうぜ! 俺の名前? 好きなようにドルメガネと呼べばいいさ」
広げられた両手をうるさく動かしながら陽気に話し始める男。
「まずは…、モンスターについてだぜ! モンスターは各ビレッジ(村)周辺にそれぞれ一種類しかいないだ、そのそれぞれのモンスターを一定数倒すごとにジングルベルがもらえるぜ! これを使えばサンタクロースが呼べるのYO!」
なんともうざったらしい説明だ。最後なんかラッパーがよくやる(印象の)あのポーズだったし。
「サンタを呼ぶとどうなるかって? プレゼントがもらえるんだ! その時のいい子ちゃんポイントによってもらえるプレゼントが変わるから気をつけな!」
えーっと整理すると、モンスターは各村に一種類ずつで、その一種類ごとに一定数倒すとジングルベルがもらえてサンタが呼べる。いい子ちゃんポイント次第で内容が変わるけどプレゼントがもらえる。この辺は注意というよりはイベントのメインの内容と考えるべきところだろうか。
ところでいい子ちゃんポイントって何?
「サンタさんはいい子にしかプレゼントをしないからな! このいい子ちゃんポイントはモンスターを倒したりビレッジの人々の依頼に応えるいい子に加算されるぜ! そして期間中最もいい子や、それに近い子たちにはさらに特別なプレゼントがあるぜ!」
つまり今回のイベントはポイント制ってことか。ランキングの上位に入れなくてもただポイントを稼ぐだけでもメリットがあるというのはちょっとうれしい。
「この辺で期間中どうしてればいいかわかったかなぁ? じゃあ続いて活動の際の注意点の説明をするからよーく聞くんだよ? ログアウトは各ビレッジの宿屋で行うように! そうでないとぉ~嫌な思いをすることになるよ!」
「そして宿屋の部屋は一部屋六人部屋だから基本パーティ単位で宿泊することをお勧めするぜ! 部屋が足りなくなったら宿屋の主人から相部屋の依頼をされることになるからな! もちろんそのとき許可すればいい子ちゃんポイントが+されるぜ! 分け合う精神が大事だぞ?」
見ず知らずのプレイヤーと同じ部屋にされる可能性があるんだ。でもエイローの時と違って常に一緒に行動しなきゃいけないわけじゃないならあんまり気にする必要もないかな?
「おおーっと忘れてたぜ! 悪い子にしてるといい子ちゃんポイントはマイナスされちゃうからな!」
ドルメガネの発言に広間がざわつく。
「クリスマスツリーにはみんなで攻撃しても問題なかったけどぉ、こっちでは当然点数が引かれるぞ! もちろん味方を攻撃するなんて問題外! そういうわけだからみんなぁ、ちゃんといい子にするんだぞ?」
「おっと、クリスマス島が見えて来たみたいだな、今行ったことはクリスマス島に着いた時にもらえるパンフレットに書いてあるからな! 聞いてくれてセンキュー!」
「「え?」」
ドルメガネが最後の決めポーズをしたかと思うとスポットライトが消えて再び広間を暗闇が支配する。それから明りが灯りカーテンが開かれる。そこにはすでに大きく見える位置にまで島が迫っていた。
島に着くまでの間プレイヤー達はドルメガネが言っていたことを確認し合っていた。
だけど――
「これがさっきドルメガネが言ってたやつかな?」
「たぶん…ね」
ドルメガネがクリスマス島に着いたらもらえると言っていたパンフレットは「クリスマス島に着いたら」どころか船を降りるときに船員さんから笑顔で渡された。しかもドルメガネよりもわかりやすくルールの説明が行われている。結局あれは時間つぶしのパフォーマンスだったと考えるべきなんだろうか。
船着き場から村までは少し距離があるみたいでガイドさんに案内されながら3の村に向かう。クリスマス島というから雪でも積もってるのかと思ったらそうでもないみたいだ。
パンフレットによると5の村はすでに雪が積もっているらしく、4の村と3の村が後から同時に雪が積もるらしい。
さて、ルールの方はというと。今回の肝となるのは、ドルメガネ曰くいい子ちゃんポイントことサンタポイントだ。モンスターを倒す等で稼ぐことができ、味方を攻撃する等で減点される。このポイントでランキングがつけられ、上位者には報酬がある。注意すべきはポイントの減点があることだろう。
そしてログアウトは必ず村の宿屋で行うこと。他の村に入る際にはその村の周辺のモンスターを一定数倒す必要があるみたいで簡単に別の村を活動拠点とするわけにはいかなさそうだ。
「はーい、到着でーす、皆様第3の村にようこそ」
パンフレットを読んでいるうちに村へとたどり着く。
「まずはチェックインだね」
「そうだね」
クゥちゃんに返事をしながら宿屋へと向かう。
――――――――――
NAME:ナギ
【ブーメラン初心者】Lv23【STR増加】Lv43【ATK上昇】Lv39【SPD増加】Lv41【言語学】Lv41【遠目】L18【体術】Lv34【二刀流】Lv49【幸運】Lv50【スーパーアイドル】Lv9
控え
【水泳】Lv28
SP26
称号 ゴブリン族のアイドル 恋に惑わされる者 ホマレの惚れ人 ファルカナンドの救世主




