ジャージ
「うーん、これは…」
「冬だしね!」
Berry Workersの作業場の中、ラズベリーさんから手渡されたものを装備した私は言葉に詰まる。その様子を見てもラズベリーさんは何の問題もないという感じだ。
私が装備させられているのはジャージ。運動部の人が練習の時に着るようないたって普通のジャージだ。胸のところにはメーカーのロゴのようにして「Berry Workers」が刺繍され、背中には「ベリ学運動部」の文字が「ベリ学」と「運動部」が上下に分かれるレイアウトで刺繍されている。
隣には全く同じジャージを着たクゥちゃんもいる。クゥちゃんはそこまで着る物に拘りはないみたいだ。
なぜこうなったかというと少し時をさかのぼる。いつも通り学校から帰って来てログインすると、もうすでにクゥちゃんがログインしていた。クゥちゃんとのクリスマスツリー殴りの旅から帰ってくるとラズベリーさんがログインしていたので、ついでに挨拶でもしに行こうか、ってことになり「Berry Workers」を訪れた。
丁度ブティックのカウンターがラズベリーさんで、私達の姿を見た瞬間。
「寒い! 見てるだけで凍えるわ!」
と叫んだ。それから衣替えを提案されいくつかの候補――サンタの格好とかを口頭のみで――の中から一番無難なのを選んだつもりだったけど…。
一応念のために言っておくと、ゲーム内では雪が積もっているとはいえ寒さを感じることはなく、拘らない人はそれこそ上半身裸のような格好をしている人もいる。だけどそれでも季節感という物を考えてかサンタの格好をアレンジしたような格好の人や厚着の人など冬を感じさせる装備の人が多い。
「それで、このベリ学ってなんですか?」
「ベリー学園! 略してベリ学!」
衣替えについては何となく昨日から装備が浮いてる気はしてたので問題ないとして、この所々部活をにおわせるこの装備について言及する私の質問にラズベリーさんはさも当然のように答える。
「やっぱり部活意識ってことですか…?」
「青春よ! もう私には戻ってこない時代だもの!」
いつになくラズベリーさんが燃えている。その熱気に一瞬クゥちゃんがビクッてなっているのを私の目は逃さなかった。…ラズベリーさんの相手を私に任せて話聞いてなかったのね?
「サンタの格好もナギちゃん達ならかわいくなると思ったんだけどなぁ…でもジャージ姿もいいわねぇ、クゥちゃんは部活のエースって感じで、ナギちゃんはマネージャー打診された伸び悩んでる子みたいだし!」
「え? それって私のこと悪く言ってませんか!?」
「言ってないわよ? ナギちゃん、頑張れぇ!」
「……」
なんとなくただ悪口言われただけなような気がするので睨み付けておいた。
以前の装備よりも性能は良くなっているし、私にとってうれしい追加効果もついているのでしばらくはこの姿で活動することになりそう。デザインも無難で、背中に書いてある「ベリ学運動部」以外は至って問題ない代物だ。
「まぁ安心して、ベリ学運動部はこれからどんどん増やしていくつもりだから、ね?」
「え…まだ増やすんですか」
ラズベリーさんの一言に私の表情もひきつる。
「みんな同じ格好なら恥ずかしくもないでしょ?」
「そういう問題じゃ…」
「でしょ?」
「いえ、その…」
「でしょ?」
私は圧力に屈した。
「そうですよね、みんなでやれば部活動感も出てきますもんね!」
「よろしい」
「……ナギちゃんが壊れていく気がする」
私の返事にご満悦のラズベリーさんと不安げなクゥちゃん。そんな顔するならクゥちゃんも助けてよ。
足元は私がスニーカーなのに対してクゥちゃんはスパイク。武闘派なクゥちゃんには蹴りでの追加ダメージが狙えるのでお似合いな装備だ。
私も一応体術スキルを持ってるけど投げ技ばっかりだから、今度蹴り技にも挑戦してみようかな。でも殴ったり蹴ったりには抵抗感があるような………ジェットさんを殴ったことがあるような気がするけど、あれはノーカウントだろう。
衣替えを済ませたところで早速クリスマスツリー殴りの旅に出かける。ゲーム内の時間は夜。しかしクリスマスツリー殴りに夜は狩りを休むという文字はない。
クリスマスツリーはすでに装飾がなされている状態と考えてもらえばいい――てっぺんに星飾りはないけど――そして夜の時間になるとその装飾のライトが光、夜のフィールドを明るく照らしてくれる。
だから【視力】系のスキルが無くても誰でも狩りができる。もちろんエリア内にクリスマスツリーが一体もいなくなってしまうと真っ暗闇になってしまう(舞浜君談)らしいけど。
それも出現数の多いブルジョール、ポルトマリア、キーンのトライアングル間では心配する必要もないと言っていい。
昨日と今日のちょっとした狩りですでに星飾りの数は200を超えた。このままのペースならば500個どころか1000個も簡単そうだ。
町の外に出ると色鮮やかなクリスマスツリーのライトの光と、プレイヤーの魔法やアーツのエフェクトが目に移る景色を彩っていた。
「さあ、運動部っぽく、走るわよ」
なぜかラズベリーさんも一緒についてきたけど。
「返事は!!!」
「「はい」」
「声が小さい!」
「「はい!!」」
なかなか体育会系だ。
「私はすぐやられちゃうと思うから! そうならないように二人とも注意してね」
「「はい!!」」
一応クゥちゃんの【感知】系のスキルでクリスマスツリーがどこから生えてくるか予測はできるので、とっさに反応できるかは別にしても注意は可能だ。
「ベリ学~ファイト!」
「「おおー!!」」
とランニングのようにして駆け出し、近くのクリスマスツリーを交戦中かどうかにかかわらず殴って行き、それが倒されることで「てっぺんの星飾り」も集まっていく。
気が付けば400個を超えていた。
それから500個を超えたあたりで街に戻った。体育会系ですっきりしたラズベリーさんはそのテンションについていくのに疲れていた私達のことなど気にすることもなく清々しい顔でBerry Workersへと帰って行った。
ラズベリーさんにほんのわずかな青春を甦らせた私達はそのままログアウト。現実に戻っても何となく体の一部が筋肉痛になったような違和感が――実際筋肉痛にはなってないんだけど――あった。
翌日。運営からのメッセージが来ていた。
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NAME:ナギ
【ブーメラン初心者】Lv23【STR増加】Lv43【ATK上昇】Lv39【SPD増加】Lv41【言語学】Lv41【遠目】L18【体術】Lv34【二刀流】Lv49【幸運】Lv50【スーパーアイドル】Lv9
控え
【水泳】Lv28
SP26
称号 ゴブリン族のアイドル 恋に惑わされる者 ホマレの惚れ人 ファルカナンドの救世主




